お招き

「それでいつ来るの?」


「どこへだよ……」


ある日の休日、幹也はいつも通り地面に座って占い師の仕事をしていた。しかし彼が今話しているのは客ではない。


「私ん家に決まってるでしょ。ママとパパがお礼を言いたいから絶対連れて来てって」


「私のママとパパも日本に帰って来たので、幹也さんにお礼を言いたいそうです!」


「ええ……いやだよ」


幹也は目の前にしゃがんでいる少女達、アリスとマナの2人を面倒くさそうな表情で見ながら、彼女達に拒否の構えをしていた。本当にそれは面倒くさそうに。


「本当はパパとママが来るべきなんだけど、あんた逃げるじゃん」


「居場所も日によって全然違いますし……」


「いや、なんて言うか嬢ちゃん達くらいの家になると気後れするんだよ。それに、ありがとうございました。で終わる気がしねえし」


彼女達の両親は今まで、先日の娘達が拉致された騒動で全く身動きが取れず、その上幹也が日によってどこにいるか全く違うため、アリスとマナが捜索に立候補していたのであった。


「西園寺と扇の一人娘を助けたんだから、それだけで終わるわけないじゃん」


「ちゃんとお礼します!」


「そう言うのが嫌だから逃げたんだよなあ」


「なによ。それじゃあ何もお返しできないじゃない」


「おバカめ。俺は大人なんだぞ? お返し欲しくて嬢ちゃん達助けたんじゃないわい。拉致られたのがそこらの鼻たれ小僧でも助けたわ」


「ふーん……」


「おじさん……!」


「今何か笑う要素あった?」


全く譲らない幹也であったが、彼の言葉に何か思うところがあったのだろう。アリスはニヤニヤと、マナはぱあっと笑顔で彼を見つめている。


「じゃあ大人だったら、お礼しなきゃ大人の面子が立たないパパとママのこと分かるでしょ?」


「そ、そうです!」


「む!? むむ……!」


常人よりも遥かに人生経験が、ある意味で濃い幹也はそう言われると弱かった。面子云々で刃傷沙汰にまで発展する世界を潜り抜けて来たため猶更だ。


「あーあ。パパとママは恩知らずって言われちゃうんだろうなあ」


「そ、そう言われちゃいます!」


「むむ!? むむむむ!? お、俺服はこれともう一着しかないし!」


「そんなこと気にしないから」


「テーブルマナーも知らないぞ!」


「大丈夫です!」


本当に……弱かった。


「……分かった」


「決まり! じゃあ今すぐ行くわよ!」


「車はこっちです! あ、伊賀さんパパとママに伝えて下さい!」


「はいお嬢様」


(んげっ!? こいつら何処にいたんだ!? 拉致られたばっかりの娘をよく外に出したなと思ったら、腕っこき達雇ってたのか!)


遠巻きにいた護衛達の他に、突如幹也の目の前に現れた複数の男達。彼等に全く気が付かなかった幹也は内心でビビりながら、まあそりゃあ護衛の質は上げるわなとどこか納得していた。


(うわ……おっかねえ。悪魔見た時も思ったけど、実は俺の地球もヤバいとこだったんだなあ……。あ、そんなにジロジロ見ないでください。至って庶民なんでなんもしませんから。どこぞの田舎坊主と違って本当にただの庶民なんです。うっわ、変な事したらただじゃ置かねえって顔してるやんこっわ。はあ、誰か来てくんねえかなあ。兄貴とか居てくれたら心強いんだけどなあ。ん? ストレングスさん?)


明らかにその道のプロに、自分なんかあっという間にバラされると確信する幹也。そんな彼にマスターカードが反応する。


『ディーラーに対する探知を確認! カウンター発動! 平均的人種に遮蔽成功! カウンター発動! 条件なし! メモリー起動! 一件の該当を確認!』


(力さん?)


『ワイルド強制認証! 選定完了! eeeerrrrrrooorrrrr! テキスト! 死』


(は?)


『"怒れるちか"』


(強制終了うううううううううううううう! この大馬鹿野郎! ちょっと覗き見されただけでブチ切れた兄貴を呼ぶ奴があるかああああああ! 確かにいて欲しいなあって思ったのは俺だけどよお!? いくら俺がおっかねえと思っても兄貴にとってはミジンコ以下なんだよ! それ相手に核よりヤバいのを持ち出す奴があるか! 現れた余波だけで俺ごと消し飛ぶわ!)


「ちょっと、まさかまた行かないって言うんじゃないでしょうね?」


「お、おお! 今行く……」

(てめえらプロだから俺を覗いたんだろうけど、危うく日本列島ごとこの世から消し飛ぶとこだったんだぞ!)


力のタロットカードのことを信じるなら、自分に何らかの検査の能力を使ったであろう目の前のプロ達に悪態をつく幹也。彼はひょっとすると故郷の地球に帰って来てから、一番の冷や汗を流しながらアリスとマナに付いて行く。


「うっわ、やっぱ帰ろうかな……」


車が停まっている。確かにそれは車だったが、幹也はホテルと形容したかった。


「ほら乗って乗って」


「さあ行きましょう!」


「……前は付いて行くダメ元で聞いたけど、今度はマジで床に座っていいって言っていい?」


リムジンである。そりゃあもう立派なリムジン。

幹也は恐れ多すぎて本気で床に座ると言っていた。さっきまで地べたに座っていた自分のズボンでは恐れ多すぎて座れなかった。


「なにもここまでしなくても……」


「え? 普段の通学もこれよ? あの日は故障してたけど」


「や、やっぱり、か、帰ろうかな……住む世界が違いすぎる……」


「それでは出発します」


「はい……」


嗚呼無常。勢いに流されてリムジンに入ったが運の尽き。幹也はそのまま高級タワーマンションへ連行されてしまったのであった。



後書き


(´・ω・`)主人公は出荷よー

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