ワイルド

すいませんこれから仕事なんで全く誤字チェックしてないです。許してください……。帰ったら頑張ります!



「全く、マナの相手が愛情深くて勇気と忍耐って在り来たりよねー。まあそんな男見つけるのが難しんだけど」


「もうアリスちゃん、あんな占い当たらないよ」


「嘘言いなさいよ、そうなったらいいなーって思ってるくせに」


「そ、それはそうだけど」


車の中でアリスとマナの2人は、先程行われた占いの結果について話をしていた。その結果を在り来たりと笑っているアリスだが、親に同行して参加したパーティーにいる若い男は、どいつもこいつも自分の家の金を狙っていると察しており、だからこそ2人ともそんな占い通りの男と出会えるならそれに越したことはないと思っていた。


「あ、ひょっとしてー、学校に気になる男がいたりしてー?」


「いないよそんな人!」


「またまたー。そんな大声で否定する当たり怪しいなあー」


「どんな風に言ってもそうやって疑うでしょ!?」


「まあねー」


「もう!」


じゃれ合い始めた2人の声を聞いた運転手と助手席の護衛は、また始まったかと呆れながら、プロとして雇い主の娘のプライベートに足を踏み入れない様聞き流す。


油断


と言うには酷だろう


この時代に


この国で


白昼堂々と


車に乗っていて


拉致されるなど真剣に考えたことがあるだろうか?


「くそっ!」


最初は前の車が急ブレーキをかけたことから始まった。とっさに運転手も反応して急ブレーキをかけて事なきを得る。後ろにいる車もだ。

左右も。


「なんだ!?」


左右の車から飛び出して来た男達に困惑の声を上げながら、護衛と運転手は訓練された通りの行動をとり始める。運転手はバックでこの危険地帯を脱出しようと、護衛は緊急の連絡を取ろうと。しかし当然だが硬い殻は真っ先に割られると決まっている。


「後ろにも!? ぐあっ!?」


「ぐっ!?」


「きゃああああ!」


「いやああああ!」


車をバックで動かそうと運転手が後ろを覗き込むが、すぐ後ろにあった車に躊躇してしまい、その隙に外の男達は殆ど行動を完了していた。全部と後部の窓ガラスを道具で全て叩き割ると、護衛達を引き摺り下ろして気絶するまで踏みつけ、後部座席にいた少女達は同じ車に無理やり詰め込んだのだ。一連の凶行はあっという間に終わり、少女達が乗せられた車は近くの工事中と封鎖されていた脇道に、他の車はそれぞれ別方向に散っていった。


(なに!? 何なの!?)


(ママ! パパ!)


当然だがアリスとマナの2人は混乱の極みだった。車に無理やり押し込まれた途端、車内にいた男にナイフを向けられ騒げば殺すとまで言われたのだ。気丈なアリスでも怯え、気の弱いマナは涙を流しながら必死に父と母を呼んでいた。


「降りろ」


「ひっやめて!」


「いやあ! ひっく」


「導師遅れました」


「早うせい。人払いの結界も長くもたん」


拉致されてから恐らく10分程であっただろうか。車が元はスーパーか何かの大きな空き地に到着すると、男達はついに泣き出してしまった少女達を無理矢理外に連れ出し、導師と呼ばれた髪も髭も白い老人の前に突き出した。


(なんなのここ!?)


アリスが怯えと疑問に思うのも無理はない。空き地一杯には赤色の線で魔法陣の様な物が描かれ、導師と呼ばれた者のすぐ傍には、祭壇の様な物が作られているのだ。まるで邪教の生贄の儀式の様な。


「わ、私達をどうするの!? こんなことしてパパが黙って無いんだから!」


これから何か恐ろしい事が起こると分かっていても、アリスは男達にそう聞くしかなかった。しかしそれに対する返事はなかった。男達は一瞬だけアリスとマナを見るが、その目はまるで物を見る目であり、それにますます恐怖を感じたアリスとマナを放置して老人は祭壇の前に立つ。


「ようしやるぞ! 現れよ!」


老人が気合を入れる。それだけだったのに起こったことは劇的だった。赤い線は全てが発光して、バチバチと稲妻まで起こり始めたのだ。


「ひっひっ」


「うええええええ」


「ふはははは!」


轟く轟音に何かがひび割れる音を前にして、少女達は眼を瞑って耐えるしかなかった。


そしてそれが現れた。


頭部であった。顔全てが口の。大きな空き地一杯の魔法陣全体を埋める頭部。それが地面の下から現れた。


「さあ契約を!」


【召喚陣から契約を読み取った。聖女の血を引く娘を供物とし、貴様が息絶えるまでの期間助成する事に相違ないか】


「そうだ!」


【よかろう契約成立だ。さあ履行するのだ】


「素晴らしい素晴らしい!」


「いやあああああああ!」


「止めて止めてええええええ!」


表れた悪魔としか表現しようのない存在との会話を終えた老人は、祭壇に置かれた短剣を手に持つと、部下の男達が押さえつけている少女達の前の前まで迫る。


常軌を超えた状況に、少女達は泣き叫びながらここで命を散らすしかなかった。











まあちょっとだけ角度がよかった。ついでに言うと皆クライマックスだったため余所に注意を払ってなかった。具体的にはバイクに老人が轢かれるまで誰もエンジンの音に気が付かないくらい。



いつの間にかアリスの服のポケットに入っていたカードの絵柄、死神の髑髏がニヤリと笑った。



(ああクソクソクソ! どう見ても上級悪魔だ! ここ日本だろうが!)


斎藤幹也が人身事故を起こすほんのちょっとだけ前、彼は死神のカードに呼ばれるまま到着した空き地に現れている、どう考えても悪魔としか言いようがない存在に思いっきり悪態をつきながら、バイクのアクセルを全開にして突撃する。

目標、血走った目で短剣を持ちながら少女達に近寄っている危ない老人。

躊躇は全くしなかった。自分に油断も慢心も出来る強さがこれぽっちもないと知っているから。


「っ!?」


「ぎゃあっ!?」


時速80キロメートルは出ているバイクの体当たりを食らった老人から悲鳴が起きる筈も無く、ただドンっと大きな音が木霊する。だが幹也はそんな余韻を気にすることなく、急ブレーキをかけバイクから素早く降りると、足元にあった大きな石を掴んで、それを少女達を押さえたまま呆然としている男達の頭に無言で叩きつけた。


「逃げるぞ!」


「え!?」


「きゃあ!?」


幹也には少女達の返答を聞く時間も、今だ佇む悪魔を気にする余裕もなかった。自分でもこれ以上は無理と言える流れで少女達をそれぞれ抱えてバイクに座らせると、自分も跨いでアクセルを捻る。


人身事故からの轢き逃げ及び傷害、ついでに誘拐。20秒もかかっていない凶行であった。


「がはっ!? ごっ!?」


一方吹き飛ばされた老人は辛うじて意識はあったものの、全くいう事を聞かない横隔膜のせいで呼吸もままならずにただ呻く事しか出来なかった。


【ふむ。契約は成立したのに履行はされなかった、と。これは重大な契約違反だ】


「っ!?」


そんな老人にどこかのほほんとした声が掛けられる。老人は今の状況が非常にまずい事に気が付く。契約で縛られてこの場に現れている悪魔が、完全に自由になってしまうかの瀬戸際だったのだ。


【契約の履行を行う意思はあるか?】


「っっっ!?」


本当にまずい状態だった。今だ体を満足に動かせない状態では、頷くことも了承の言葉を言う事も出来なかった。


【では沈黙は履行しない意志と捉えよう。最後に問うが、履行の意思はあるか?】


「ごっぼっ!?」


老人は口だけ何とか動かせた。しかし出て来たのは血液であり了承の言葉でなかった。


【残念だ。全く残念だ。まさか契約を破られてしまうとは残念だ】


当然だが悪魔を呼ぶ場合は契約で縛る。そうしないと術者を害する程度ならまだいい方で、場合によっては完全に野放しの悪魔が現世で好き勝手してしまう事になる。


だがいまそれが破られた。


魔法陣が今度はドス黒く発光し始めると、地面から現れていた頭部が徐々に上に上がっていく。ひょろりとした指の様な物が顔と魔法陣の隙間から現れると、狭い穴を広げようと外へと地面を引っ張り、地面も、空間も徐々に広がり始める。ゆっくりとこれまたひょろ長い人間の肌色の胴体が、さらに長い長い脚が段差を上がるように現世の地面に降り立つ。


【オオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおoooooooooo!】


全長20メートル。異なる世界では口の巨人と言われる上級悪魔が、文字通りその大きな口で現世への侵入に喜びの声を上げた。


この日隠されていた大きな秘密が、地球全体に暴露されてしまったのだ。



「なんだ!?」

「きゃあああああああ!?」

「なんかの撮影?」

「すげえ大きな音」

「にげろおおおおおお!」

「あれはいったい何でしょうか!?」


怒号、悲鳴、暢気な声、どこかの誰かが呼んだパトカーのサイレン。


「やべえやべえやべえ! 上級悪魔とかこっちで対処できる人居るんか!? 自衛隊でワンチャン!?」


まさかまさか、いったいどんな無理な召喚をすれば、上級悪魔なんかが好き勝手動こうとしているんだと幹也は悪態をつきながらバイクを止め、現れた巨人を見上げる。


「ね、ねえ、ひっぐ。大丈夫よね?」


「うえええ。ひっぐひっぐ」


そんな中、幹也の前後に乗せたられていた少女達が悪魔の叫びを聞いてまた泣き出してしまう。


「安心しろ! 晩にはパパとママのとこで晩飯食ってる!」

(どうする!? もうブチ切れた兄貴でいいから呼ぶか!? いや、制御不能の兄貴なんて、その面が強調された影絵を召喚する俺のカードじゃ、この街どころか本当に日本がヤバい! 考えろ!)


そんな涙目で自分を見て来る少女達を安心させるように、幹也はぎょっと彼女達を抱きしめながら、状況の悪さに必死に頭を回転させていた。


【おおおおおおおおおおooooooooooooooo!】


パアン パアン 


遂に完全に現界した口の巨人が、隣で解体中だったビルの一部を壊すに至り、一部の警察官たちがパニックから発砲を始めるも効果が全くない。


「ええいままよ! マスターカード! 兄貴を!?」


最早致し方なしと、幹也が切ってはいけない札を切ろうとした時であった。手元に取り出した黒いマスターカードが強い光を放ち始めたのだ。


『カウンター発動! 聖女の危機! 悪魔! 無辜の民! 守護! 条件を確認! メモリー起動! 複数の該当あり!』


「なら誰でもいいから呼べええええええええ召喚!


『ワイルド認証! 選定完了! ダイアモンドレア! テキスト! 一歩踏みしめ二歩踏みしめる!』 


幹也にだけ許された奇跡。


『勇者ベルトルドを召喚します!』


全く異なる世界、異なる次元の、偉大なる者のかつてが呼び出された。

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