第7話 うんこで発見! すみかっち
澄花を捜索するといっても、なんの手がかりもない。運子は、屋敷のある森、町中など様々な場所を跳び回ったが、まったく手がかりがないのでお手上げだった。
たまに、魔法少女を何人か見かけた。捜索を諦めて談笑に浸っている者なんかもいる。澄花のことが心配じゃないのか、と運子は怒りを感じた。
しばらくして、住宅街を捜索中に覚えのある刺激臭に遭遇した。
自分が吐き出せる茶色い液体の臭いが空気に混じっている。臭いの元を辿ると、ボロアパートに着いた。
二階のある部屋から臭いがした。自分の吐瀉物の臭いが何故ここから? と運子は疑問を感じた。
行儀が悪いと承知しつつ、運子はアパートの裏に周り、魔法少女に与えられた高い身体能力を生かして跳躍し、臭いの元である部屋の窓から室内を覗いた。
カーテンがかかっていたが、カーテンの隙間から誰かと目が合い、驚いて着地に失敗し、ズッコケた。
あの顔は間違いない、澄花だった。
澄花はなぜか口にガムテープのようなものを貼られていた気がする。となると、澄花は囚われていると考えるのが自然だ。
もう一度跳躍し、澄花に離れていろとジェスチャーを送った。そして次の跳躍で窓を蹴り割って、部屋に侵入した。全身にガラスの破片が刺さり、無数の細かい傷がつく。
澄花は口にガムテープを貼られ、手枷をされていた。髪の毛は先日、運子が吐きかけた吐瀉物で汚れている。臭いの元はこれだった。澄花はあの日から自宅に戻っていなかったのだろう。
六畳ほどの狭いワンルームはレイアウト的に女性の部屋だと思われたが、澄花の状態を見て彼女が住んでいる部屋でないことは明らかだ。
澄花の口からガムテープを剥がし、手枷の鎖を引きちぎり、自由の身にしてやった。
「草井ちゃん、良かった……あなたが来てくれたなんて」
半泣きの澄花が抱きついてきた。運子も強く澄花を抱きしめ、初対面の時に澄花にされたように、頭を撫でてやった。
「澄花さん、ごめんなさい……酷いことしちゃった」
「私の方こそ。あなたとは絶対に分かり合えるって信じてたわ」
玄関が開く音がし、部屋の主が入ってきた。
部屋の主、シャンティーヌは呆然と運子たちを見ていた。
「な、なんでうんこがここに……」
「臭いを辿ってきたの。他の人たちには臭いがわからなかったみたいだけど、私にはこれが激臭に感じる」
シャンティーヌが舌打ちし、ポケットからゴムのボールを取り出した。
「あんたがいなけりゃ、私はずっとすみっちと一緒になれるはずだったのに」
シャンティーヌはボールでジャグリングを始めた。それを見た運子は身体は金縛りに遭ったように硬直し、自分の意思で身動きが取れなくなった。
「道化のような技に視線と意識を釘付けにしてさ、自由を奪うんだよ。これが私の魔法さ」
運子は声を出すこともできなくなった。
「これだけじゃないよ。こんな事もできる」
次にシャンティーヌは木でできたマリオネットを用意し、適当に動かした。マリオネットに合わせて運子の身体が勝手に動く。
「やめて、シャンティーヌちゃん!」
「ごめんね、すみっち。うんこヤローは殺すから」
シャンティーヌの表情がいっそう険しくなる。本気の殺意を察し、運子は逃げ出したい衝動に駆られたが、シャンティーヌの術にはまった今、身体は動かせない。
マリオネットが自分の首に手をかけると、運子も自分の首を締め出した。手に力が込められていき、息ができなくなる。
「やめてってば!」
澄花がシャンティーヌの頬を叩いてマリオネットを奪った。床にマリオネットが落下すると、運子の金縛りが解かれた。首のあたりが痛む。
「すみっち、何するんだよ!」
反抗するシャンティーヌに澄花がもう一撃くらわせた。更にもう一発!
「草井ちゃんを殺すなら私も死ぬからね!」
澄花はガラスの破片を拾って手首に当てた。
涙まじりに訴える澄花にうろたえ、シャンティーヌは肩の力を抜いた。戦意を喪失したようだった。
「何で……こんな奴にそこまで熱くなるんだよ、すみっち」
澄花は今度はグーでシャンティーヌを殴り飛ばし、壁まで吹っ飛ばされた彼女に駆け寄って、強く抱きしめた。
「どうしてわかってくれないのよ」
声をあげて泣く澄花にシャンティーヌは大慌てした。
「わ、わかったよ、わかったから落ち着けって。すみっちの抱きつき攻撃にはほんと敵わねーや」
澄花は一瞬で泣き止み、顔を上げてにっこり微笑んだ。
「そうこなくっちゃ」
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