最終んこ話 うんこと澄花 


 シャンティーヌは女同士ながら澄花に対して特別な感情を抱いており、我慢できずについに誘拐したのだった。

 しかし、澄花の意向で、シャンティーヌによる誘拐は他の魔法少女たちに伏せられ、今回のことは忘れようということになった。


「私は山で、猟師が仕掛けた落とし穴にはまってしまった。そうしましょ、ね? 草井ちゃんの怪我は……うん、他の罠に引っかかったってことで」


 澄花に念を押されて、運子は了承した。そんな話を他の魔法少女たちが信じてくれるかは疑問だったが。


「シャンティーヌちゃんも、草井ちゃんと仲良くしてね。わかった?」


 シャンティーヌは複雑そうな表情で顎を指でかいている。そしてしょうがなさそうに「わかったよ」と答えた。


「今回の件は三人の絆が深まったとプラスに捉えてね。この調子でみんな仲良しこよしになりましょ」


 澄花は両手を広げた。


「さあ、早く。ハグよ」


 運子とシャンティーヌは顔を見合わせ、やや照れながら澄花と三人で抱き合った。


 魔法少女全員が屋敷に再集合し、みんなが澄花の帰還を喜んだ。


「澄花さん、その汚れ……ずっと家に帰ってなかったのですか?」


 西園寺京子が茶色い液体で髪の毛を汚した澄花に訊ねた。


「ええ、帰りに落とし穴にはまっちゃって。草井ちゃんとシャンティーヌちゃんが見つけてくれなかったらあのまま衰弱死してたわね」

「澄花さんらしいですね。シャンティーヌさんと運子さん、ご苦労様。お手柄でしたね」

「私は何もしてねーさ。うんこが澄花を発見したんだよ」


 運子はシャンティーヌの顔を見ると、シャンティーヌは頬を染めて目を逸した。


「そうでしたの。草井さん、お疲れ様でした。これからは皆さんと仲良くしましょうね」


 魔法少女たちが運子を取り囲み、称賛の言葉を贈った。運子は一転、人気者となった。


「ねえ、草井ちゃん……」

「やめて、澄花さん」


 運子は、何か語りかけてきた澄花を遮った。澄花は怪訝そうにする。


「草井じゃなくて、運子って呼んでほしいの。これからは、堂々と名乗りたいから」


 運子の決心に、澄花は嬉しそうに笑った。


「ええ、それがいいわ。もうあなたを笑う人はいないし、そんな人がいたら私が許さない。よろしくね、運子ちゃん」


 運子は、澄花に復讐した件で自分の心の闇に気づいた。これからは澄花のように、優しさに溢れた人間を目指そうと思った。澄花のように優しくて、尊敬されるような人間に成長すれば、名前のコンプレックスなんて取るに足らないものとなるはず。


「改めてよろしく、澄花さん。そして、みんな」


 魔法少女たちから運子コールが沸き上がる。

 京子が発砲し、仲直りおめでとうと書かれたのれんが宙を舞った。魔法少女たちの頭上に落ちると、黄色い悲鳴があがった。

 

 END

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