第5話 後んこ悔
次の晩も運子は屋敷を訪れた。運子は一日中ずっと、澄花たちへの罪悪感に苦しんでいた。大泣きする澄花のことが頭から離れず胸が痛い。悔しいが自分は悪人になりきれないようだ。
たとえ許してくれなくても、誠意をもって謝ろう。運子は今夜も屋敷へ向かった。
扉の前で立ち止まり、改めて決意を固めて中へ足を踏み入れた瞬間、ホールは静まり返った。明らかに空気がピリついているのを感じた。
「あんた、よく来れるな。みんなあんたにおかんむりなんだよ」
道化師姿の魔法少女が丸い赤い鼻を震わせながら掴みかかってきた。
「あんたに魔法少女をやる資格はねえ、帰れよ!」
道化師に突き飛ばされ、運子は尻もちをつく。他の魔法少女たちが運子を囲い、罵声を浴びせてきた。
「死ねうんこ!」
「何でお前みたいなのが魔法少女になれたんだよ!」
「あんただけはLINEグルに誘ってあげないから!」
運子は責め立ててくる魔法少女たちがあまりにも猛々しく、恐ろしさで声が出なかった。言葉の代わりに口から茶色い液体が漏れた。
「うわ、こいつまたうんこ吐く気よ」
「やれるもんならやってみな! 今度は容赦はしないよ!」
運子は小さく「ちがう……」と声を振り絞り、首を横に振った。しかし魔法少女たちの勢いは止まらない。武器のようなものを向けてくる者までいた。
「いっとくけど、澄花はいねーからな。風邪だとか言ってたけど、きっと嘘だね。あの子はあんたのせいで心を病んだんだ!」
道化師の魔法少女が曲芸に使うボールを投げてきた。ゴム玉が顔に直撃して運子は顔を抑える。鼻血と涙が出てきた。鼻血を拭ってみると、茶色だった。
「やめてください、シャンティーヌ」
透き通るような美声が道化師の魔法少女・シャンティーヌを制止した。魔法少女たちの群れの後方から聞こえてきたが、声の主が誰かはわからない。
「そんなことをしても澄花さんは喜びませんよ。みんな仲良くして、どうぞ」
「今までのことは水に流せってか? うんこだけに。残念だけど腹の虫はおさまらないね」
「しょうがないですねぇ。喧嘩両成敗、私が仲裁役を買って出ましょう。おふたりとも、覚悟なさい」
シャンティーヌに反論され、声の主が魔法少女たちを掻き分けて姿を見せた。ミイラとしか思えない姿で、手にはピストルが握られている。布の隙間からは、臓物のような物がはみ出ている。魔法少女たちの中でも群を抜いて奇抜な存在だ。一瞬、これが話に聞いていた悪魔なのかと運子は思った。
その恐ろしい容貌に運子は悲鳴をあげて、魔法少女たちをなぎ倒しながら出口に向かい、屋敷から逃げ出した。
「ピストルって、本気かあんた……」
若干ビビっているシャンティーヌに聞かれると、ミイラの魔法少女は天井に向けて発砲し、のれんが飛び出した。「仲直りおめでとう」と書かれている。
「和解に備えてたのに…」
ミイラの魔法少女は、ピストルの使い時を失ったことにがっくし肩を落とした。
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