第4話 復讐んこ
運子はベッドで寝転びながら、魔法のリップクリームを眺めていた。成分表には『魔法』と書かれている。
ゴミ箱にリップクリームを投げ入れようとするが、外れる。ゴミ箱に入れ直すこともせず、運子は灯りを消してふて寝した。
頭の中で、魔法少女たちに笑われた記憶が何度も反復された。過去に同じように嘲笑された記憶が連鎖的に蘇り、運子は歯を食いしばった。
魔法少女として生まれ変わろうとした矢先にこれだ。すべては澄花のせいだ。何もフルネームを発表することはなかっただろうに。草井という姓名自体は特におかしくもなんともない。姓名のみに留めていれば、普通の魔法少女でいられたはずだ。
ベッドのシーツを強く掴み、運子は震えた。剛田澄花に復讐してやる。殺しはしないが、自分が経験したのと同じような屈辱を与えてやろう。死んだ方がマシだと思うくらいの屈辱を。うんこみたいな茶色い液体にまみれたことで、ある程度の屈辱を感じたかもしれないが、まだまだ足りない。運子の心はどんどん暗転し、茶色に染まっていった。
次の日の晩、運子は集合場所である森の屋敷を訪れた。すでに澄花の主導でミーティングが始まっていた。なるほど、私をハブるつもりかと卑屈になった。
運子の姿を認めると、澄花は喋るのをやめた。みんなが運子に注目する。
「草井さん、昨日はごめんね。そんなつもりじゃなかったの」
「悪かったね草井さん、これ、お詫びのカレーまん」
何人も運子に駆け寄ってきて、口々に昨夜の無礼を詫びてきた。
「ううん、いいの。私も大人気がなかった。皆さん、これからよろしくね」
運子は魔法少女たちに笑顔で返す。だが澄花が寄ってくると、目つきを鋭くして睨みつけた。
「草井ちゃん、昨日はごめんなさい……もうちょっと紹介の仕方を工夫するべきだったわね。本当に、ごめんなさ……」
頭を下げる澄花に、運子は何も言わずに茶色い液体を吐きかけてやった。運子はまだこの臭いに慣れておらず、吐ききった後にむせて、続いて夕食のラーメンに入ってたコーンが混じるゲロも澄花に吐きかけた。
澄花は頭を下げたまま。全員が目の前で起きた光景に言葉を失った。運子は喉に指を突っ込んで、オエッ、ゴッ、オゴッ、っと、えずきながら限界まで澄花に液体をかける。その吐瀉物はもはや茶色いアレかゲロかの区別もつかない。
「じゃあ私はこれで」
運子は捨て台詞も吐き、罪悪感を噛み殺しながら、屋敷を出ようとした。後ろで澄花が泣き崩れた。
「うぅ……うっ、うっ、草井ちゃん……ごめんなさい、ごめんなさい……」
泣く澄花を見たとたん、魔法少女たちはヒートアップし、次々と運子を責める言葉があがった。
「あんた、なんてことするのよ! 澄花さんに謝りなさいよ!」
「このうんこが!」
澄花以外の魔法少女に手は出さないと決めていたが、飛んでくる罵倒がうざったくなり、運子はホール中を駆け回り、あちこちに激しく茶色い液体を吐き散らしていった。茶色く汚れた魔法少女たちから今度は悲鳴があがる。
「いい加減にしなさいよ、うんk……がっ、アガッ、ガッ」
運子は立ちはだかってきた魔法少女の一人の頭を掴み、口に向かって集中的に液体をお見舞いした。相手の魔法少女は大量の液体を飲み、床に倒れた。
その後も次々と魔法少女たちに襲いかかり、存分に汚した運子は満足気に屋敷を後にした。
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