第3話 屈辱のうんこ


 運子は澄花の導きによって魔法少女の集う屋敷へと連れてこられた。ホールの天井には光の玉が輝いている。電気の通っていないこの屋敷では、誰かの魔法によって召喚された光の玉を照明代わりにしていた。

 大勢の少女が賑やかにお喋りを楽しんでおり、中にはお菓子をつまんでいる者やニンテンドースイッチで遊ぶ者、テーブルで参考書を開き勉強に励む者もいる。魔法少女というと綺羅びやかな格好を思い浮かべるが、普通のOLのような者やくまモンのようなキグルミの者など奇抜な格好も目立つ。

「待ってたぜー、すみっち」

 澄花の姿を見るなり、道化師の姿の少女が駆け寄ってきて澄花に後ろから抱きついてきた。道化師は運子の姿を認めると、微笑して小さく手を振ってきた。

 一人ぼっちがデフォルトである運子にとって、集団に混じるのは大変な緊張を伴ったが、道化師の気さくなアクションにいくらか気が和らいだ。みんな、澄花と道化師のように良い人だと良いが。


「彼女のことはこれから紹介するわね。まずは朝礼をしなきゃ」


 運子は澄花に手を引かれ、壁際のステージに上らされた。


「皆さん、こんばんは!」


 運子の隣に立つ澄花が大勢の魔法少女たちに向かって叫んだ。しかし、誰も注目しない。

 澄花が黙り込んでいると、だんだんと静まっていき、やがて無音になり、みんなが澄花の方を見た。


「えー、今日は静かになるまでに二分十秒かかりました。皆さんは今、魔法少女なんですからね。もっと緊張感を持たないと、悪魔に魂を狩られてしまいますよ。では、今日は新しいお友達をご紹介します」


 視線が運子に注目する。「かわいい」「あの靴いいなー」と次々に運子への称賛があがる。良い意味でこんなに注目されたことがなく、運子は照れて縮こまった。


「さ、自己紹介をどうぞ」

「あ、えーと……私は……」


 本名を名乗るべきかどうか。澄花は何も言わず、笑顔で頷いた。


「私は……ダヴァルダークです」


 やはり勇気が出ず、仮の名を名乗ってしまった。

 魔法少女たちから困惑の声が聞こえてきて、「やっちまった」と運子は顔が紅潮していった。


「この方は草井運子さんです。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」


 澄花が代わりに運子を魔法少女たちに紹介した。フォローをしたつもりなのだろうが、それは逆効果だった。

 瞬時に爆笑が巻き起こり、何人かが笑いすぎたあまり失神して倒れてしまった。

 運子は恥ずかしさのあまり、屋敷の外へ逃げ出した。もう二度とここには来ない。魔法少女を辞めることを決意した。短い春であった。


「運子ちゃん、待って!」


 澄花が後を追ってくる。


「うるさい! あんたのせいで大恥かいちゃったじゃん!」


 運子が怒鳴った瞬間、口から激臭を伴う茶色い液体を勢いよく噴出し、澄花の全身を汚した。運子が初めて魔法を使った瞬間だった。

 あまりの臭いに、運子は白目を剥いて悶絶した。鼻呼吸をやめても、喉奥から刺激が襲ってきて、あまりの不快感から自然と涙がぽろぽろこぼれた。そして我慢できず、ゲロを吐き出した。夕食のラーメンに入っていたナルトの残骸が混じっている。

 澄花は茶色い液体に明らかな嫌悪感を示しているが、なぜか運子のように臭いへの反応はない。

 運子は喉に指を突っ込んで体内に残留した茶色い液体とゲロを吐ききって、走り出した。後ろでは魔法少女たちが心配して澄花を囲っており、茶色い液体がかかっているのを見てまた爆笑が起きていた。

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