第2話 うんことジャイアン


 魔法少女集団は総勢四十五人いる。悪魔とやらと戦うために集められたらしい。今は水面下で活動しているが、いずれアイドルグループとして表に出て活動費を稼ぐとの噂だ。組織の真の目的は誰にもわからない。パモラも雇われの妖精であるため、突っ込んだ疑問には答えられないという。


 毎晩、町外れの森にある屋敷で集会が行われている。屋敷は長年放置されている廃墟で、怪奇現象が度々起こるといういわくつきの場所だったが、少女たちによって華やかにリノベーションされた結果、元の不気味な雰囲気が取り払われ、怪奇現象もぴたりと止んだそうだ。

 

 運子が初めて会った仲間はリーダーの剛田澄花(ごうだすみか)。パモラは新人発掘に奔走していて顔を出せないというので、澄花が運子を屋敷まで案内してくれることになった。

 澄花との待ち合わせ場所は近所の小さな公園。夜の公園に場違いな、白いドレスに身を包んだシンデレラのように美しい少女がおり、運子に向かって手を振って合図してきた。運子は変身し、澄花に接近した。

 澄花は絶えずニコニコしている。優しそうな人で良かった、と運子は安心した。

 運子は変身できるものの、魔法の使い方がわからず先行き不安だったが、澄花の優しい雰囲気のおかげでいくらか不安が払拭された。仲間から駄目魔法少女扱いされたとしても、たぶんこの人は親切に接してくれる。


「はじめまして、私は澄花。よろしくね。お名前は?」

「私はくさいうん……いえ、ダヴァルダーク。魔法少女ダヴァルダークです」

「ダヴァルダーク? そんな名前じゃ笑われるわよ。本当はなんていうの?」


 かっこかわいいと思って考えた名が一蹴され、運子はショックだった。しかし本名を名乗るのは気が引けた。今までのトラウマが蘇り、吐き気がしてきた。


「私、名前にコンプレックスがあって……」

「わかるわ。私も名字が剛田だから、よく男の子からジャイアンって呼ばれてからかわれてたの」


 真剣にうなずく澄花。この人も同じ悩みを抱えている。この人になら本名を名乗ってもいいかもしれない、と運子は思った。


「私は、草井……運子……です」


 意を決して名乗ると澄花がクスっと笑ったので、またショックを受けた。頭に血がのぼっていくのを感じ、さっそく帰ろうかと思ったが、澄花に抱きしめられて身動きできなくなった。


「なーんだ、素敵な名前じゃないの。ジャイアンよりずっとマシよ。大丈夫、あなたならみんなに受け入れてもらえるから。よしよし」


 澄花は良い香りがした。頭をなでられ、運子の中に安堵が広がっていく。

 草井運子でも大丈夫。抱きしめられただけで、運子の中に自信が沸いてきた。


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