魔法少女うんこ

髄液

第1話 脱・うんこ

 草井運子(くさいうんこ)。男子小学生が即興で考えたような名前だが、本作の主役を張る少女の本名である。

 運子は物心ついた時からずっと、自分の名前に悩んでいた。屈辱的といえる名前の読みはいつでも嘲笑され、時には攻撃の対象にまでされてきた。特に給食でカレーが出た日には周囲からの視線が集中し、居心地が悪かった。

 なぜか近所の小学生にも名前が知られており、下校中によく石を投げつけられた。


 運子は親に自分の名前について何度か苦言を呈したことがあった。しかし、「内面が良ければ名前でからかわれることなんてない、内面を見てもらえるように自分を磨け」と一蹴され、何も言い返せなかった。

 今では名前だけではなく、自分自身も大嫌いになっていた。善人のつもりで生きてきたのに、未だに名前のせいで嫌な思いをするということは、きっと内面に問題があるのだろう。自分の何が悪いのだろうか? 友達のいない運子に答えてくれる者はいない。この世に生まれて14年目のいま、運子の精神状態に暗い陰がさしていた。


 そんな運子に、転機が訪れた。


「おいお前、ちょっと魔法少女になれや」


 突如目の前に現れたのは、人語を話すスズメの妖精パモラ。


「魔法少女は多ければ多いほどいい。お前で四十五人目だ」


 別人に生まれ変われる魔法のリップクリームをもたらされた運子は、それを口に塗った瞬間、光に包まれた。

 そして、姿見に映ったのは運子の面影を残す美少女。

 裸足だったのに変身したらなぜか足にヒールを履いている。全体的にちょっと露出が高めで運子はちょっと恥ずかしさを感じた。ブラウンの巻き毛はうんこがモチーフなのかと微妙な気持ちになったが、本名がバレなければ、誰もうんこを連想することはないだろう。


「似合ってるぜ、魔法少女うんこ! これからよろしくな」


 運子はパモラをはたき落とし、ヒールのかかとで踏みつけた。足元で汚い悲鳴があがる。


「うんこって呼ぶな! 私の名前は……そう……かっこかわいいのがいいね。私は魔法少女ダヴァルダーク!」


 運子は慣れないヒールに転けそうになりながら、姿見の前でポーズを決めた。

 この姿でいる間は不名誉な名前とオサラバできる。そう思うと、魔法少女になることへの葛藤など生じなかった。

 運子は、今日から魔法少女ダヴァルダークになった。


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