謎のメモ

カム菜

第1話 謎のメモ

最近、職場の駐輪場に謎のメモが落ちている。

見慣れた大きめの付箋に書かれたそれは、きっと職員が誰か落としたのだろうと気にも止めてなかったはずなのに、一度気になり出すと、近くを通るたびに見てしまうようになった。

メモは、落ちてる紙自体は同じものであるのに、よく見ると内容がたびたびかわっていっているようだった。

「Aさんありがとうございます。三週間後になります」「Bさんありがとうございます。3日後になります」

内容は正直よくわからない。道端の紙で何かのやりとりをしている?それ自体も意味がわからない。

最初は薄い興味だったものが、だんだんと喉に小骨がつっかえたようなもやもやとした気持ちになり出した。そのもやもやはだんだん大きくなって、仕事中もあの紙が気になるようになった。

気がつけばあの紙について調べている私がいた。発見した日時を記録し、そのとき紙に書かれた内容をまとめる。筆跡はたまに変わる、内容が変わるのは4〜5日に一度のことが多いが、立て続けに変わることもある。そして内容はいつも名前(複数名の名前が書かれていることもある)と感謝と日時だ。

その記録を眺めていると、名前のひとつに既視感を感じた。複数名の名前が書かれている紙、の一つ、これは……


これは、数日前に起こった大規模な事故の犠牲者の名前だ。


まさか、と思い過去の新聞を漁りながら他の紙も確認していく。手が震えた。全てを確認できた訳ではないが、メモに名前のあった人は、メモにあった期間後に事故等でなくなっている。あのメモはいったいなんなんだ?!

思わずメモの場所まで走り出す。メモは、あいかわらずそこにあった。今日の内容は「Mさんは3日後にしますか?」だった。Mは私の名前だった。私は思わずメモを破り捨てようとして……やめた。代わりにもっていたペンでメモにいいえとだけ書いて立ち去った。


4日後、私はまだ生きていた。今日まで生きている心地がしなかったが、生き延びれた。あの対処が正解だったのだろうか。

あの時私はメモに試されている気がした。これ以上関わるのなら、お前が次の犠牲者だと。だからあれ以来、駐輪場を別のところに借りてメモのある場所には近寄らなかった。やはりあんな得体の知れないものには関わらないのが一番なのだ。一つ学んだ。これからは賢く生きていこう。


そう思った私の耳には急ブレーキの音が聞こえていた。




「ではMさんは4日後にいたしましょう。ありがとうございました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

謎のメモ カム菜 @kamodaikon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る