第39話 最終回3 精霊史、始まりの日 ゴーレムとの再戦
トラップが張り巡らされた地下通路を無傷で抜けたシェイクステア、ギムレット、シャンディ、ガフ、マティーニの一行(いっこう)はついに魔女の塔の前へとやってきていた。
うう、俺の渾身の二段トラップがまさか、あんな方法で崩されるとは。
「えー……。それでは皆さんは地下通路の上り階段を上がり、魔女の塔の前にやってきました。10mを超えそうな石造りの塔。外から分かるのはこの建物かなり広く、窓などの位置から内部が4階建だと思われるということぐらいです」
ほぼ灰と化している俺は、力なくかすれた声でシナリオを進めた。
だがしかし、この先には第一話でみんなを追い詰めたゴーレムが控えている。
うん、大丈夫。きっとやつなら俺の期待に応え、みんなをいい具合に追い詰めてくれるはず。
「それじゃあ、隊列を組み直して塔に入るわ。みんなもそれでいい?」
加美川先輩がみんなをまとめて先導する。
皆はうなずき、軽く打ち合わせをしたのち塔に入る。
塔にはまず、ガフ、シェイクステア、ギムレットの三人が入り、その後マティーニとシャンディが入る流れとなった。
「それじゃあ、まず三人で中に入るか。GM、塔の中にはなにがあるんだ?」
宇和島先輩から質問が飛んでくる。
俺はあらかじめ用意しておいた描写を読み上げることにした。
「周りを見渡すと精霊術の力であかりが確保されています。天井は高く、一つのフロアなのに二階分の高さがあります。正面の壁には上へ繋がる螺旋階段とそれを邪魔するように岩が鎮座している」
「岩? なんで塔の中に?」
「近きますか?」
「……やめておくわ」
俺のマスタリングに違和感を覚えたのか須山さんが首を振る。
そこで城戸が手を挙げる。
「えっとGM。岩に何か仕掛けがある?」
「中に入っていないメンバーは岩の存在を知らないので、仕掛けがあるかを調べることはできません」
城戸質問にそれだけ答えてプレイヤーのアクションを待つ。
何を隠そうこの岩、ゴーレムである。
近づくとゴーレムから不意打ち、遠距離攻撃ならプレイヤーが先制攻撃ができるようになっている。
「……君子危うきに近寄るべからず」
「たしかにな。GM特に襲ってくる敵はいないんだな?」
「いません」
宇和島先輩の問いかけに答える。
須山さんと黒木さん、宇和島先輩は話し合いを始めた。
「……二つ提案」
「お、どんなだ?」
「一つは外の窓にロープを通してあの岩を避けて通る」
「なるほど、誰かロープ持っているキャラはいるか? シェイクステアは持っていない」
一同は首を横に振る。どうやらロープはないようだ。
黒木さんは次の提案を口をした。
「……二つ目はシャンディとマティーニを呼んで遠距離で破砕する」
「岩を破壊することで発動するトラップの可能性はないの? 全員そろって天井が落ちてくるとか洒落にならないわよ」
須山さんがトラップの可能性を指摘する。
その指摘に対し黒木さんは少し考える風に手の甲を唇に当てた。
「……それは――」
じっとこっちを見てくる黒木さん。
表情を読まれてたまるかと俺は素早くシナリオシートで顔を隠した。
「……たぶんないと思う」
シナリオシートの向こうの彼女はそう結論を出した。
おっしゃる通りなのだが、表情以外の何を読み取られたのだろう。
というか今更だけど、それ反則じゃないのか?
「表情読むの反則ではないでしょうか?」
「……今回は読んでない」
「……そうですか」
黒木さんがいう『今回は』という言葉には引っかかったが、今はそこを掘り起こすべきではないと判断し、俺はとりあえず流すことにした。
「えっと、そうしたら、全員中にはいりますか?」
「それでいくか。黒木……いやギムレットの二つ目の提案で行こう」
宇和島先輩がそう宣言し、マティーニたちと合流、これで全員が塔の中に入ることとなった。
「それじゃシェイクステアは現状をマティーニたちと共有する。かくかくしかじか」
「なるほど、とマティーニは状況を把握したわ」
「遠距離攻撃か。ここはシャンディの攻撃で試してみるのはどうだろう」
「ちょっとまった! シャンディがやるならガフは盾になるように彼女の前に出るわよ」
あーだこーだとギムレットの話した基本方針に肉付けがされていく。
結局ガフが念のためシャンディの前に立ち、他の三人はトラップに備えて塔の出入り口で待機になった。
「それじゃシャンディの技能【二刀の心得】――成功。攻撃を左右の銃で行うことができる。【飛び道具の極意】で攻撃。一回目――クリティカルなし、二回目――過剰成功(クリティカル)」
クリティカルが出た。
とはいえこちらはまだ岩の状態なのでサイコロを振るわけにもいかない。
完全失敗(ファンブル)ではない限り当たりということでいいだろう
「シャンディの放った弾丸は岩を捉えます。ダメージどうぞ」
「一撃目14、二撃目20、それぞれ術ダメージを与えます」
俺はテキストに記載されている改修中のゴーレムのデータを確認する
元々術防御は20あったが、改修中ということでマイナス5落ちて15だ。
「わかりました。一撃目の弾丸は弾かれ、二撃目の弾丸はやや岩に傷をつけた。といったところでしょうか。二丁拳銃にしたのが不味かったですね」
「え?」
城戸が状況を飲み込めず、聞き返してきた。
俺はニヤリと悪い笑みを浮かべ、一同へ声高々に宣言した。
「岩が変形し、体を起こします。みんなは見覚えがある。薬草採取を行った時に遭遇したゴーレムと同じ見た目をしています!」
ざわつく一同。
うんうん、こういう反応を見たかった。
「GM質問、タライの跡はあるの?」
須山さんが確認してくる。
「だいぶ新しい素材になっていますが、よく見ればありますよ」
「……薬草採取で襲ってきたゴーレムがなんでここに」
黒木さんがしばし考え込む。
だが、ゴーレムは待ってくれない。
というか、久々のちゃんとした戦闘だ!
「疑問もあるでしょうが、ゴーレムは襲いかかってきます。ではゴーレムとの戦闘に入ります!」
俺の宣言で、一同、立ち位置と行動準備を確認していく。
ゴーレムに最も近いのはガフ、ついでシャンディ。シェイクステア、マティーニ、ギムレットの、三人は離れたところで待機している状態だ。
行動を行う順番はゴーレム、ギムレット、シャンディ、マティーニ、シェイクステア、ガフの順。
「それでは順番も決まりましたし、ゴーレムの行動から、スタートします」
一ターン目、俺はゴーレムをガフに接近することにした。
「ゴーレムでガフに接近、攻撃を行います。ーー命中はダイス目足して10」
「ならガフは回避に挑戦ーーダイス目は8、半分で4、これを足して12よ」
お互いにダイスを振り合う。
結果はゴーレムの空振りに終わった。
もともと攻撃が当たりづらく、当たると大ダメージを与える敵なのでこれは仕方ない。
処理が終わり、次はギムレットの番だ。
「……能力値が前回の通りか気になるけど、まずは【戦略の極意】。ーーファンブルなし成功。ギムレット以外のパーティ全員は次のギムレットの行動まで命中、回避の判定結果にプラス2しても良い」
ギムレットがパーティの支援に回る。
これにより全員の回避性能はゴーレムの命中性能を上回ことになった。
要は過剰成功(クリティカル)か相手の完全失敗(ファンブル)でも出なければ、ゴーレムの攻撃はほぼ当たらない。
これはなかなかえげつないからめ手だ。
「これでギムレットの番は終わり」
「次はシャンディのターン。先ほどと同じ【二刀の極み】ーー成功。両手の銃で攻撃」
次はシャンディのターンだが彼女の火力ではクリティカルか、ダメージ計算の時に高い目を引けないとゴーレムの装甲はほぼ貫けない。
残念ながら、二発とも弾は当たったが、ゴーレムへのトータルダメージは1だった。
「えー、ダメージ1。ほぼ無傷です」
「16ダメージで1ダメージ、つまり精霊術なら15点以上出さないといけないわけね」
加美川先輩が素早く状況確認を行う。
「そうしたらマティーニの番で全力で攻撃を行うわ。【精霊術の強化】ーー成功。【精霊術の奥義】より【限界圧縮】ーー成功」
ルコアル精霊譚の技能には一定の成長を遂げるとその技能に関連する新しい技能を覚えることがある。
加美川先輩が今宣言した【限界圧縮】もそうだ。
ちなみに【限界圧縮】の効果はダメージのダイス目を一つ10として扱う、というもの。
「【精霊術:炎】を使用、ダイス目はーー18、命中は24」
「過剰成功(クリティカル)しか避けられませんーー無理です当たりました」
俺のサイコロの目は2。過剰成功(クリティカル)なんてそうポンポン出るものではない。
「ダメージダイスは3、8、9。ここで【限界圧縮】の効果で3のダイスを10に変えるわ」
「マジか……3ダイスで術防御追い抜かないでくださいよ」
「さらに精霊の指輪の効果と魔力をたし39点ダメージよ」
前回それぐらいのダメージを、クリティカル込みで出したはずなのに、今回はクリティカル抜きで出してきた。
「ぐえ、24点ダメージもらいました」
これでゴーレムの残りHPは56点。
思った以上にダメージの減りが早いぞ。
「次はシェイクの番だな。ゴーレムまで駆け寄り【術纏(じゅつまとい)】ーー成功。そっからぶん殴る【棒術の極意】ーークリティカル! 連続はなしだ」
そう簡単にクリティカルを連発されては困る。
とにかくゴーレムが回避するには過剰成功(クリティカル)しかないわけで、俺はダイスを振った。
「ゴーレムはーークリティカルなしです。ダメージお願いします」
ダイス目は無情であった。
出目は2、びっくりするほど普通の目だ
「ダイス目は14、固定値で18合計で32ダメージだ」
「ぐ、12点のダメージ! シェイクステアの攻撃にバランスを崩しかけるがゴーレムはまだまだ倒れません」
ゴーレムの残りは44点だ。二回のセッション経ての成長とユニークアイテムの組み合わせでこんなに強くなるものなのか。
「ガフは一度離れて、前衛をシェイクステアに任せるわ。そんでもってショートソードを投擲!」
回復手段があるとは言え、下手なダメージは負えないと判断したのか、ガフはやや後ろに下がる。
接敵状態は特殊な技能がない限り一キャラで移動を阻害できるのは一キャラまでと決まっている。
この場合はシェイクステアがゴーレムとの接敵を維持しているので、ガフは自由に移動ができるのだ。
「運命のダイスロール!ーー完全失敗(ファンブル)!!」
「それは……。明後日の方向に飛んでいきますね」
「だがブーメランのように戻ってくるショートソード!がしっ、ガフはショートソードを掴んだわ!」
「えっと、それは、なに?」
「…………すごいでしょ?」
「それだけか!」
その後、ギムレットが回避を安定させ、マティーニとシェイクステアがゴーレムをガンガン削る。
ガフとシャンディも細かくダメージを与え、3ターン目のマティーニの順番。
「さっきと同じセット二つとも成功よ。【精霊術:炎】で攻撃! ダイス目はーー過剰成功(クリティカル)! もう一回ーー過剰成功(クリティカル)!」
ダイスが三つになって出やすくなっているとは言え、そうポンポンでるものではないはずの連続クリティカルをあっさり出す加美川先輩。
二回のクリティカル分のダイスを追加し、ダメージを決定するダイスを振った。
「ーー合計で42ダメージ! これでどうかしら!」
「えー……オーバーキルです。ゴーレムのコアはデロンデロンに溶けてしまい。活動を停止しました。皆さんの勝利です」
俺はゴーレムの敗北を宣言し、戦闘を終了させた。
一同は階段を上り、塔を上がる。
いよいよ最終決戦だ。
だけどその前に、彼女の背景も知ってもらいたい。
最近のRPGのお約束、というやつだ。
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