第38話 最終回2 精霊史、始まりの日 攻略、秘密の地下通路

「えー、ガリアーノはみんなの準備ができたことを確認し、本棚から何かしらの装置を起動させて屋敷の地下へ降りる階段を出現させます。そしてニコラシカの補助を受けながら、先程の話に出た秘密の地下通路の入り口へとみんなを案内します」

「……GM、中の様子はどうなっている?」


今回もマッパーを買って出る気なのだろう、黒木さんが紙とシャーペンを用意し、状況の確認をとりにきた。


俺はダンジョンのシートと、シナリオのシートを確認し、入り口から確認できる状況を皆に伝えた。


「ガリアーノに案内された場所はさらに地下へと続く階段です。暗くて先は見えない。階段自体はやや広めで二人が余裕を持って並べるほどです」

「なら灯(あか)りが必要ね。ガリアーノから何か借りれないかしら」

「分かりました。……そうしたらガリアーノから、家に置いてあった手持ちランプを貸してもらえます」


三回目ともなればこういったアナログゲームならではの妙なリアリティも慣れたもので、俺は慌てず対応した。


シナリオでは用意していなかったが、貴族だしランプぐらい持っていてもいいだろう。


アドリブであったが、俺はマティーニ一向にランプを渡した。


「それじゃ、行きましょうと言いたいところだけど、その前にGMちょっと隊列とかの相談してもいいかしら?」

「分かりました」


かくして一同は秘密の地下通路攻略のために隊列や役割の確認。ほかダンジョン突入前に確認しておくことがないかなどを話し合い始めた。


俺はシナリオのシートを確認しつつ、地下ダンジョンの内容を確認する。


この地下通路は国の要人(ようじん)が施設を脱出するために使う通路という設定だ。


敵はなく、魔物もいない、分かれ道が少ないシンプルな作りではあるが、この通路から魔女の塔を目指す者にはトラップが襲いかかってくるようになっている。


だが通路の管理をしているガリアーノはトラップの位置を把握しているので、一同が通路に入る前に情報提供をする予定だ。


しかしその情報が罠。実は三箇所、エゲツないダメージを喰らうトラップがあり、それらはガリアーノからの情報では分からないようになっている。


エゲツないダメージを与えるトラップは魔女の塔、今回の敵側が設置したものなので、ガリアーノも知らないためだ。


(ふふふ、トラップ位置を把握したつもりにして、そのあと隠しトラップで大ダメージ。これこそ二段式トラップ、いやそのままだけど)


ややあって隊列の相談が終わったようで一同シャーペンや消しゴム、ダイスを用意し探索準備を始めている。


「GM、隊列決めたわよー」

「分かりました」


須山さんから声が上がり、俺は頷く。


「それじゃあ、ガリアーノから通路にあるトラップの位置をみんなに伝えます」

「トラップがある?」


城戸が聞き返してきたので、俺はうなずいて話を続けた。


「元々この通路は魔女の塔関係者が有事の際の脱出路として作られたものです。逆走するものは敵対者の可能性が高いので追い払うための罠を用意している。と、ガリアーノが説明します」

「なるほどな」


宇和島先輩が頷く。

【悪意の看破】の成功で、味方と分かっているガリアーノの言葉だからか、城戸や加美川先輩、須山さんも罠の位置をメモして、深堀してこようとはしない。


(よしよし、これでほぼ確実にトラップにかかる)


俺は内心ほくそ笑む。ここまで、ドキドキワクワクするのはびっくり箱を全力で作った小学生以来だ。

あの時は全力を出しすぎて、箱を渡した友人とは絶交してしまったが。


シナリオクリアはして欲しいが、適度にピンチも味わって欲しい。

この辺の塩梅が難しいが、大体HPを半分削るぐらいのものなので手持ちの傷薬や、ギムレットのユニークアイテムでなんとかなるだろう。


「……GM、一ついい?」


トラップ成功の確信に浸っていた俺に向かい黒木さんが声を上げた。


「なんでしょうか?」

「……ニコラシカは、まだそこにいる?」


質問の意図が掴めないがなんか嫌な予感がした。


「います、よ? ガリアーノはまだ一人で動けないから、ニコラシカがサポートしているので」

「……分かった」


黒木さんがじっとこっちを見てくる。

彼女から放たれた視線という透明な圧が俺を突き刺し、俺は思わず固唾を飲んだ。

その様子に黒木さんはわずかに笑い。それから口をあけた。


「ニコラシカに【預言】の使用を要請する」

「なにゆえ!?」

「ガリアーノが既にこちらの味方で誘拐されるほど敵に食い込んでいたのなら、対策をしない通りはない。あとGMはマスタースクリーンを買った方がいい。表情が見える」


マスタースクリーンってなにさ。

最終回に新しい必需品を提案しないで欲しい。


「えー、それじゃあ、前回と同じようにーー」

「それには及ばないわ」


そこですかさず手を上げ割り込んでくる須山さん。


「前の話でいっていたけど、ニコラシカの基本行動はガリアーノのために動くのよね。ここで作戦が失敗すればガリアーノは今の地位にはいられないことを天秤にかけましょう」

「ぐう……」


それはずるい。

それを言われるとニコラシカを動かさざるおえないではないかと、俺は眉間にしわを寄せた。


「分かりました。ニコラシカは判定なしで説得されました。預言の内容をどうぞ」

「……ガリアーノが提示した、トラップがある場所以外で、ギムレットがトラップを踏む未来がないか、預言をお願いする」

「ぐぬぬぬ」


結局、黒木さんのファインプレーで、トラップは全て発見され、全て破壊された。


その後、トラップにかかった後の親心と配置しておいた傷薬だけまるっと奪われたのであった。

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