第37話 最終回1 精霊史、始まりの日 導入
イケメン、ゴスロリ、前髪隠れた主人公、小動物系女子、先輩。
俺はぐるりと回り見渡し、各自の準備が終わっていることを確認した。
「お待たせしました。それではセッションを始めます」
俺の宣言に、皆が話を聞く体勢になる。
緊張が体をめぐる。
ミュールが何故マティーニを殺さずに追放したのかだって明確な答えは思いついていない。
でも、やるしかない。
やりながらでも答えを探すしかない。
俺は湧き上がる不安を追い出す様に一度息を吐き、シナリオを書いた紙を構えた。
「まずは前回の結果から。見事ガリアーノの救出に成功したあなたたちは、ガリアーノ邸の客人として招かれ、一か月ほど過ごしています。理由としてはガリアーノが回復するまで待っていてほしいとニコラシカはじめとする使用人たちにお願いされたから」
「……芋焼き男爵」
ぽつりと呟く黒木さん。男爵イモ焼き事件を暇だに引きずっているらしい。
それにカラカラと笑う須山さん。
「見事にこんがりやったものね」
「あの時はあれが最善だと思ったのよ」
その須山さんの発言にやや膨れる加美川先輩。
そこに宇和島先輩が割り込んできた。
「そういえば、一ついいか? シェイクステアは前回の話を皆に共有したい。たしか、精霊の社(やしろ)とかいう集団が王都の破壊をもくろんでいる。頭の名前はミュール――であっているよなGM」
宇和島先輩が積極的に話に絡んでくる。
俺は「その通りです」と先輩の質問に答えた。
「その話はマティーニも興味があるわね。ミュールって名前に心当たりはあるかしら?」
加美川先輩も話に加わってくる。
ここはどう転んでも良いから判定をかませよう。
「分かりました。幸運の判定5以上で心当たりを思い出せます」
「分かったわ――ダイス目が6で成功よ」
軽く二分の一を抜いてくる。
相変わらずのダイス運だなと俺は苦笑し、俺はシナリオに軽く目を通した。
「それでは、マティーニは思い出します。ミュールという女性は、貴方の補佐する貴族の娘、あなたとは親しくしていました。そして、マティーニ本人を王都から追い出した張本人でもあります」
「あ、GM。ガフとシャンディもそのことを知っていてもいい?」
須山さんが手を挙げ、提案をぶっ込んでくる。
俺は少し考えたが、変なことがなければミュールに対する関係性ができて戦う因縁に持ち込みやすいだろう。
「いいですけど、どういう理由で知っているんですか?」
「実はガフとシャンディはミュールと同じくマティーニを補佐する貴族の出身だったってことで」
「いきなり何言っているんですか!?」
いつか見た両手を組み両肘を机に置く、なんか指令っぽいポーズを取る須山さん。
お願いだからギャルゲーのコスプレしながらそのポーズはやめてほしい。
「ふふふ、実は王都の魔女には彼女を補佐する三つの貴族が存在するのよ。一つはミュールの家、主に精霊術に長けている。二つ目はガフの家、近接戦闘などの武力に長けている。そして三つ目はシャンディの家、医術に長け……――あれ? なんでシャンディ医術の心得もっていないの?」
「あんたのせいじゃないか!!」
俺が思わずツッコミを放ち、一同笑いが起こる。進行が中断するレベルではないので良かった。
「ライカが用意してくれたシャンディ……最初からそういう技術持っていなかったよ。せめて弓術とか遠距離攻撃が得意な貴族とかでいいんじゃないかな」
「お、いいわね。じゃあそれで」
遠距離攻撃が得意な貴族ってなんだ。
やや天然っぽい城戸の発言に対して俺はツッコミはせずスルーすることにした。
ここでツッコミを入れたら収集がつかなくなりそうだ。
(うん、ガフとミュールはとりあえずミュールの立場と同じ人間であったと、シナリオ的にも問題ないし採用で良いかな)
「オッケーです。もう、それで行きましょう」
俺は須山さんの意見を採用することにした。
その内容をシナリオにメモを付け加える。
さて、シナリオを進行させていこう。
「えっと、話を進めていきます。場面はガリアーノ邸の食堂、あなたたちはガリアーノの指示で食堂に呼び出されました」
「マティーニは素直に行くわ。みんなはどうする?」
「ガフは行くわよ」
「ならシャンディも」
「シェイクステアも登場する」
「……ギムレットも行く」
各々の登場意思を確認して、俺はシナリオの描写を読み上げる。
「分かりました。全員が食堂に集まると車椅子に乗ったガリアーノが、ニコラシカと一緒に現れます。彼はマティーニを見ると深くお辞儀をする。」
俺の描写にすかさず黒木さんが手をあげた。
「【悪意の看破】を使います」
「何故!?」
「スラム育ちのギムレットは貴族に抵抗があるの。もしここでガリアーノが敵だったら危ないと判断した――判定は9」
「えー、ノーガードです。彼は堅物で融通が効かない人柄ですが、筋は通す信頼のある人物です」
「……ならギムレットは信用はしないけど、敵対的な態度には出ません」
キャラの情報をメモを取る黒木さん。
昔、依頼主に裏切られたとか、そんなシナリオでも遊んだのだろうか?
(それともギムレットのロールプレイなのだろうか、徹底しているな……それじゃあギムレットにも動機付けを一つ送ってみよう)
俺は前回のシナリオのメモから作った設定を思い出しガリアーノに喋らせた
「みんなが揃っていることを確認すると、ガリアーノは、『これは今朝届いたものだが』と一枚の手紙を取り出して、読み上げる。宛名はロブロイ、ギムレットには覚えがある。――あなたの師匠だ」
「……え?」
目をパチクリさせてこちらをみてくる黒木さん。
師匠がいる設定を話したのはそっちだ。有効に使わせてもらおう。
「文面には、人間を学べと課題を出せば、王都に向かうだろうこと、そしてギムレットが王都の実情を知った時、ガリアーノに保護を頼む旨の依頼。そしてしかるべき日に役立てて欲しい。と書かれている」
「あー……」
黒木さんがいつものルーティンワークを行う。
ギムレットの演技に入るのだろう。
「あの狸オヤジが、それならそうと初めから言えってんだ。……まったく、しかたないか、師匠にどやされるの嫌だし、俺はケリがつくまで付き合うぜ――シェイクあんたはどうするさね」
黒木さんはギムレットを演じたまま、話を宇和島先輩に振る。
宇和島先輩はニヤリと不適な笑みを浮かべ黒木さんに返した。
「確かに私には、魔女の事や、王都とは深い関わりがない。しかしだ、彼女は【祝福の子】を集めているといった。もはや私も無関係ではいられないよ。――そういい、祝福の子っぽいことをするぞ。前にマティーニがやった炎と氷をよびだすやつを拙いが再現する」
ここまで宇和島先輩のシェイクステアだけミュールとの因縁が弱い立ち位置だったが、先輩がアドリブで立ち位置を確立してくれた。
もしそうならなかったら二枚目の手紙をだして、遊牧民の族長からの依頼とか願いとかそんな感じにする予定だったが、先輩のアドリブの方がまとまりが良いので、そっと俺はシナリオをスキップさせた。
「ガリアーノがみんなに言います。すまないが、君たちにはマティーニ様と共に魔女の討伐を依頼したい。あの悪しき魔女は精霊鬼を呼び出し王都を破壊しようと目論んでいる」
「勝算はあるのかしら? と、マティーニは聞くわ」
先輩の言葉に俺は頷き、ガリアーノのセリフを読み上げる。
「我が家に守護を命じられた地下通路がある。それを通れば魔女の塔まで誰にも会わずに移動ができる」
「なるほど、奇襲をかけて一気に倒す腹づもりってわけだ」
「その通りだ。祝福の子とは言え、肉体は普通の人間と同じ。剣で討てぬ通りはない」
「確かにそれなら行けそう……かな?」
「やりましょう、これは私が王都を取り戻すチャンスよ!」
「おう」「了解」「やろう」「……うん」
マティーニこと、加美川先輩の言葉に、一同はその討伐に参加すると声を上げた。
「その様子をみたガリアーノはいくつかの箱を持ってきて全員に前回の報酬と今回の報酬の前払い分として、先程みんなが決めたユニークアイテムを渡します」
「あ、それじゃあ――」
そういうと城戸は須山さんに顔を向けた。
「ねえ、ガフ、私二丁拳銃はじめてみたいの。とガフにいわないといけないよね」
「ごはぁぁぁ、シャンディからのお願い! これは! もう!! 貢ぐしかない!」
びっくり悪女じゃないか。
ガフがシャンディにお手玉されているところを永遠に見るわけにはいかないので、無理にでも先に進めてしまおう。
「ユニークアイテムが行き渡ったところでガリアーノはマティーニに近寄り地図を渡す」
「これは、もしかして地下通路への地図?」
「その通り。この地図が示す位置に魔女の塔への通路が隠されている。通路内には賊の侵入を防ぐためのトラップが張られている。十分に気をつけてくれ」
かくして一同は秘密の地下通路を通り、魔女の塔を目指すことになった。
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