第35話 キャラクター成長 爆誕編

さて意気込みが冷めないうちにどんどん進行を進めて行こう。


「セッションを始める前にキャラの成長をお願いします。ラストなので戦闘を行う可能性が大(おお)いにあります。今回の成長点は30点です」


俺の宣言に一同はキャラクターシートとルールブックをチェックし始める。


(ああ、そういえば……)


貴族を助けた報酬もあるのを思い出して、俺は宣言に付け加えた。

先に選んでもらったほうが成長の参考にもなるだろう。


「前回のセッションの話なんですけど、みんなが助けた貴族ガリアーノから報酬が出ます。具体的にはルールブックに書いてあるアイテムを各自一つプレゼント」

「なんですって! ユニークアイテムもいいの!?」


俺の発言に食いついたのは須山さん。

くわっと、わかりやすく目を見開いて確認してきた。


ユニークアイテムとは、ファンタジーでお馴染みの魔法の剣や鎧などといった武器や、装飾品に追加効果が備わったアイテムの総称である。


ランクが1〜10まで用意されており、文字通りランクが高いほど珍しく、また効果が高い。


それでもって高ランク品には値段がないのでゲームマスターが報酬として用意しないと手に入らないようになっている。


値段がついているランクの低いユニークアイテムでもそれなりの効果を持つので、手に入る機会があれば積極的に買うとキャラが活躍するだろう。


とルールブックに書いてあった。


俺もちらりと目を通したが、安いユニークアイテムでもショートソード100本分の値段が必要なので、貴族からの報酬としてかなりそれっぽいし、最終回は派手に行きたいとの思いもあって、須山さんのように申告が有れば条件付きでアイテムを配ることに決めていた。


そういうわけで、もちろん須山さんの質問は想定済みだ。


俺は迷わず答えた。


「ランク3以下、値段が付いているのものならオッケーです」

「ぐぬぬ、成長計画が崩れた」


思わぬ一手だったようで、須山さんはルールブックを手にものすごい形相でページをめくりはじめた。


テーブルを見回せば、ほかのみんなもルールブックをめくり、ユニークアイテムの欄を見始めているようだ。


「そうなれば、この装備とーー」

「このスキル面白いかも、だとすれば」

「……予定通り」

「そろそろこいつの出番かな」

「この指輪良さそうね」


周りを見ればみんな真剣に組み合わせを考えている。


選択肢が多いせいか、内容が決まるまでかなりの時間を、用(よう)した。


その間に俺はシナリオを改めてチェックする。


ガリアーノからのお礼と依頼。

魔女の塔に向かいゴーレム戦。

そしてラスト、ミュールとの対決。


順番的にはそんな感じ、至ってシンプルだ。


(シンプルすぎて何か忘れている気がする……あっ!)


気がついてしまった。


ミュールがなぜ、マティーニを殺さず国を追い出したのか。


(う、うわぁぁ、決めてなかった!?)


声を出さなかったのは成長したのか、慣れてきたのか。


あまりにあっさりシナリオができたから油断していた。


(と、とりあえずもうキャラ成長も終わりそうだし、シナリオ前に休憩取って、加美川先輩に何か考えがあるのか聞いてみよう)


周りの様子を見れば、みんなそれぞれ成長内容を決めきったようなので、俺はラスボス問題は一度置いておいて、ゲームの進行に戻った。シナリオの端に忘れないように走り書きを残す。


「えー、それじゃあ、成長も終わったようなので各自成長報告をお願いします。宇和島先輩のシェイクステアから時計回りで行きましょう」


宇和島先輩は待っていましたとばかりに、キャラクターシートを手にやたら良い声で話しはじめた。

今回は演技ではなく、普通の語り口だ。


「シェイクステアは【棒術の心得】を【極意】に成長。それと魔力を二点伸ばしたぜ」

「魔力ですか?」


俺は疑問符を浮かべる。

魔力のステータスは精霊術を使うときに大きく関わるものなので、棒術を使うシェイクステアにはあまり関係ないはずだ。


「ああ。それで初回から残していた10点で【祝福の子】を獲得。祝福の子には【術纏い】という技がある。効果は武器に霊素を纏わせて魔力分ダメージを引き上げる。それでダメージを伸ばす」

「なるほど……」

「ユニークアイテムはサングリアの杖を希望。防御が+3され、棒術系の技能を使用して攻撃するとダメージ+5されるアイテムだ」

「ちょっ、ちょっと待ってください。ちなみにダメージの固定値いくつ上がるんですか?」


俺は一瞬こんがらがった。

このゲームの攻撃は、基本的に武器の攻撃力か、魔力を基準にしてダメージが計算される。


それが武器+魔力+特殊効果で計算?

インチキ効果も大概にして欲しい。


「魔力が5だから武器の効果と合わせて10、武器の攻撃力が8だから18だな」

「ダイス2から3個分の効果……ですって……!」


思わず変な言葉遣いになってしまった。


ショートソードが攻撃力4なので、その4倍以上のダメージがでる計算になる。


システムをいじる効果は強い。

祝福の子まじチートじゃないか。


名前 シェイクステア / プレイヤー宇和島ユウヤ

スタイル 前衛

技能 棒術の極意/旅の心得/武具回避の心得/交渉術/祝福の子

ユニークアイテム サングリアの杖

目的 探索


シェイクステアの情報を取り終え、俺は次の黒木さんを促すことにした。


「そしたら次はギムレットの成長報告お願いします」

「わかった」


そういうと黒木さんはキャラクターシートを読み上げ始めた。


「ギムレットは【戦略の心得】を【極意】に成長。残りは回避を二点上げる」

「これで回避が+3、だいぶ避けやすそうですね」

「……うん」


俺の感想にコクリとうなずく黒木さん。


ギムレットは回避スキルがないから固定値で+3はダイス目6〜7ぐらいの価値がある。

これはこれでかなり避けてきそうだ。


「ユニークアイテムは生命の指輪。一度使うと壊れるけどパーティ全員のhpを二ダイス分回復させる効果がある」


名前 ギムレット / プレイヤー 黒木スズネ

スタイル 中衛

技能 悪意の看破/縄抜け/交渉術/戦略の極意

ユニークアイテム 生命の指輪

目的 学び


【戦略】系の技能はパーティ全体の判定の値を向上させる技能だ。


つまり、ギムレットが立ち続ける限り、パーティの攻撃は当たりやすくなり、回避もしやすくなる。

それでいてギムレット自身も回避の値を伸ばしたことで、攻撃が当たりづらい。


まさにいやらしい軍師キャラである。


さて次はシャンディの番だ。


「GM、シャンディの成長報告の前にちょっと相談なんだけど」


須山さんが手を上げた。

俺は何か嫌な予感がして身構えた。


「なんでしょうか?」

「ガフのユニークアイテム、シャンディに渡して良い?」


俺は少し悩んだ。

確かにシャンディは参入が遅れたキャラだから取得している成長点が少ない。

調整の際も真っ先に倒れるのはシャンディかギムレットだった。


そう言う意味では須山さんの提案もありといえばありだろう。


レベルの低いキャラを強い装備で固めてフォローするのはゲームでのセオリーといえばセオリーだ。


「……いいですよ。オッケーです」

「おお、ありがとうGM。それとガフの紹介、先にやらせてもらうわね」


だから勝手に進行を取らないで欲しい。

いや、まあ、この場合は別にプレイを妨害しているわけじゃないからいいか。


「ガフは【剣の心得】を【極意】に。【二刀の心得】も【極意】にした。あと装備をショートソードからソードブレイカーに変更、攻撃力が2伸びたわ。以上」


名前 ガフ / プレイヤー 須山ライカ

スタイル 前衛

能力 剣の極意/二刀の極意/投擲の心得

目的 恋


思ったよりも大人しい成長で俺はほっとした。

ガフは無難に強くなった印象だ。


「了解しました。それじゃ改めて次はシャンディ。お願いします」


そう俺がいうと城戸はキャラクターシートを構えて、報告を始めた。


「シャンディは【二刀の極意】をとった。成長は以上」

「へ……?」


【二刀】系の技能は片手用の近接武器を両手で扱えるようになる技能だ。

弓を使うシャンディには不要のはず。


「それからユニークアイテムはガンカタハンドガンを希望。これは近接装備扱いになる精霊術の銃。射程は短いけど飛び道具なので、飛び道具系の技能も使えるようになる。攻撃力は術扱いで8点」

「なにが起きようとしているのです?」


俺は変な声で相槌を打った。

あの薬草採取をお願いしていたシャンディがたくましくなったものだ。


現実逃避をしようとした俺に、須山さんが追い討ちのように手をあげ、発言を始めた。


「そして、ガフからもガンカタハンドガンをシャンディにプレゼントするわ! きっと『私二丁拳銃はじめてみたいの』とシャンディに強請(ねだ)られ、ガフは盲目的に貢いでしまったのねーーそうして、生まれたのが愛と勇気で敵を蜂の巣にするイカした女、ガトリングシャンディ!」

「ガフ、お前それで良いんかっ!?」


思わずツッコミが出てしまった。

須山さんはさらに切り返してくる。


「悪女設定にしたのあんたじゃない!」


してない。俺はシャンディにそんなひどい設定つけた覚えはない!


周りが勝手にしただけだ。

というか、そこまでいうならーー。


「だったらせめて自分のキャラでやってくださいよ!」

「……あたしだって、あたしだって、シャンディがこんな美味しいキャラになるとは思っていなかったのよおおお!」


須山まさかの慟哭である。

これがTRPGだというのか。

思わぬところで思わぬことが重なり合う玉突き事故が起きていた。


俺の一言で須山さんが慟哭し、シャンディがガトリングシャンディとして爆誕してしまったのだ。


「あー、ほら、その、俺はいいと思ってオッケーしたし、二人とも落ち着いて」

「……了解です」


城戸本人が納得しているなら、もうそれでいいや。


ちなみに『私二丁拳銃はじめてみたいの』と言うセリフで宇和島先輩が笑いに沈み、『ガトリングシャンディ』で黒木さんと加美川先輩が吹き出した。


もう、死屍累々である。


シャンディ プレイヤー/城戸ノボル

スタイル 中衛

技能 飛び道具の極意/二刀の極意

ユニーク ガンカタハンドガン(両手)

目的 探究


「えっと、最後はマティーニ、お願いします」


場の回復に10分の時間を使った。

俺は最後に先輩のキャラの成長報告をお願いすることにした。


「マティーニはしゃし《初志》貫徹よ。【精霊術の極意】を【奥義】に。余った10点は魔力に振って魔力を+2にしたわ」


噛んだことはスルーしよう。

なんか先輩口元押さえて、睨んできているし。

俺は咳払いをわざとし、次に進む空気を作ってから先輩のキャラの感想を返した。


「完全に大魔法キャラですね」

「もともとそのつもりよ。ユニークアイテムは精霊の指輪、精霊術のダメージを+4するわ」


名前 マティーニ/プレイヤー 加美川ミサト

スタイル 後衛

技能 精霊術の奥義/祝福の子

ユニークアイテム 精霊の指輪

目的 奪取


俺は各員の情報をメモした。

純粋火力で言うとマティーニを筆頭にシェイクステア、ガフの順だろうか。ガトリングシャンディは運用見ていないので正直未知数だ。


正直GM的に一番助かるのが黒木さんのギムレットだ。全体回復がありがたい。遠慮なく攻撃できる。


さて、一癖も二癖もあるキャラクターたちだが、ついに最終話だ。

きっちり決めて行こう。


……と、その前に休憩を取って加美川先輩にミュールについて相談しないと。

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