第32話 シナリオ夜話 最終回を作ろう

 演劇大会からしばらく経った。時間的にはおよそ二週間。


 その間、両親の実家の帰省に付き合って小旅行のようなことをしたりはしたが、特筆すべきことはなかった。


 しいて変化があったとすれば宿題の進捗が僅かに進み、スケジュール的には大幅な遅れが出ていることと、ツイッターで話題になったゲームをしこたま遊んだぐらいだ。


 そのゲームのレビューには時間泥棒と評価されていたが、その通りだった。クリアまでに1週間ぶっ通しで遊んだ。


 かくして気がつけば、夏休みもお盆も終えて、中盤戦。


 俺は自分の部屋の本の海に埋まりながら、読み途中の漫画を一度閉じ、スマホのスケジュールを確認した。


 明日は須山さん主催で、プールに行こうという日だ。


 そして、その三日後にはTRPGのセッションが待っている。

 いい加減シナリオを書かないと、色々まずい。


 今後、先輩たちが集まるのは難しいだろうから、今回最終回にしようと思っているのに、「最終回のシナリオできてませんでした。ごめんね」とかいう事態になったら顰蹙ひんしゅくを買うことまちがいなしである。


(さてと、ここまでの話を一度見直して、最終回を組み立てよう)


 起き上がり、扇風機をパソコンに当てて、魔改造PCを立ち上げる。

 ほどなく立ち上がったPCの画面の中からシナリオをまとめたフォルダを開き、俺はこれまでのシナリオの流れを確認するところから作業を始めた。


 初回は、薬草を取りに行って、ゴーレムと戦った。


(そういえば、ゴーレムのインパクトが強すぎて、なぜあそこに現れたのか説明してなかったな)


 セッションの内容を思い出し、俺は伏線に使えそうな部分をつまみ上げていく。後付け設定上等である。


 一つの妙案が浮かび、ラストバトルの前座としてゴーレムを配置、修繕中ということにして防御を下方修正する。


 実はあのゴーレムはラスボスの差し金だったと分かればプレイヤー一同驚くだろうと狙っての采配だ。


 それと自分達のキャラクターが強くなったと実感してもらえるかも知れない。うん、一挙両得だ。


 次に前回のシナリオを振り返る。ガリアーノを助けるために街を奔走してもらうつもりが、俺のミスであっさり犯人が割れ、ボスのラムチョップたちも出番なくみんな燃やされてしまった。


 最終回の出だしにガリアーノ、ニコラシカは登場させたいので、扱い注意だ。特にニコラシカ、預言書使いは本当に厄介。


(シナリオの成功の報酬も考えないとな)


 ガリアーノが殺されそうになった理由は考えてある。


 理由は二つ、精霊の社の存在を掴み、王都を守ろうとしていること。

 それと、魔女が住む、魔女区への直通のルートを知っていること。


 ルールブックの設定の項目には書いていないが、これまでの自由奔放っふりならきっと許してもらえるだろう。そもそも誰に許しを乞えばいいのかわからないが。


 とにかく、ガリアーノが一同に魔女区まで直通ルートを教え、そのルートを使えば、魔女区へ行くための判定を無視することができるようにする。


 これで前回のセッション成功におけるプレイヤーへの報酬感が出せるだろう。


 次にラスボスのミュールに手をつけよう。

 彼女は祝福の子を集め、強力すぎる魔物『精霊鬼』を召喚し、王都を破壊しようと考えている。


 展開としては追い詰められた彼女が、精霊鬼を呼び出そうとするのをプレイヤーが阻止する。

 仮に失敗したとしても不完全という理由で、能力を半減した精霊鬼との戦い。


(うんうん、やっぱり、ラストバトルは派手でなければ)


 最後にダンジョンだが、地下通路はシンプルだがトラップなどがあると面白いかもしれない。


 それと魔女ミュールがいるのは魔女の塔、これはルールブックにも載っている名所だ。


 簡単にマップを作る。地下通路はほぼ直線、トラップを多めに。魔女の塔は全4階構造、基本トラップはなし、一階に例のゴーレム、最上階にミュールがいる。


 シンプル何もない方が緊張感が増す。それを狙った采配だ。なんかゲームのラスボス前ってみんなこんな感じだし。


(細かい部分はプールの後で見直せば良いだろう)


 メモを見返せばシナリオの流れとして、


・ガリアーノが秘密の通路を教える

・魔女区へ潜入、ゴーレムと戦う。

・ミュールが精霊鬼召喚を強行、阻止もしくは失敗

・阻止した場合、シナリオクリア

・失敗した場合、精霊鬼を倒したらクリア


 とかなりシンプルだが、おおよその流れはこれで行こうと思う。


「んー」


 俺は大体の流れをメモにまとめ、体をひと伸ばしした。


「あ……」


 時計を見れば午前三時、また日を跨いでしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る