第26話 第二.二話 堅物貴族誘拐事件 絶叫系
テーブルには俺が用意した『ガリアーノ邸』『市場』『酒場』と書かれたA6の紙が三つ並んでいる。
「さて、皆さんは王都エイトワーズを調査し、貴族ガリアーノを救出することが目的となります」
俺はそう切り出し、プレイヤー全員に今回のシナリオのルールを話すことにした。
「この紙は調査できる場所を表しています。調査できる時間は7ターンの予定でしたが、シェイクステアの活躍で2ターン増えて9ターンとなります」
「GM、念のため確認したい。9ターン過ぎるとどうなるんだ。やっぱりガリアーノは死んでしまうのか?」
宇和島先輩は手を上げ、俺に確認のための質問を投げかけてきた。
「はい、ニコラシカの預言の通り、ガリアーノが殺されてしまいます。そうなると、今回の報酬は受け取れず、今後王都の活動に後ろ盾を得られなくなります」
「……なるほど、時間を稼げたのはありがたい状況」
俺の返答に、黒木さんが状況を改めて口にする。
確かに、その通りだ。
テストプレイは何度もしたが、完全失敗(ファンブル)が何回かでたらガリアーノが死んでしまったので、リカバリーできる状況なのはプレイヤーにとって有利だろう。
「そうですね。調査には判定が発生しますので、失敗が続くと厳しくなります。回数が増えたのはたしかに有利です」
「それで、調査はどうやるの?」
次に城戸から声が上がる。
ここは少しややこしい説明になるので、慌てて話さないように気を付けながら俺は調査ルールの説明に入った。
「調査はターン制です。1ターン内に各キャラがどのエリアに向かうか1つ決められます。調査時にはプレイヤーは同じエリアにいる仲間をフォローするか、調査の成否判定をするかを決めることができ、調査の成否判定に成功すると有力な情報が手に入ります」
「GM、仲間をフォローするを選ぶと、何か有利になるの?」
須山さんがルールを詳細を確認してくる。
シティアドベンチャは、交渉有利のシナリオだ。戦闘特化のガフにとってはルールをうまく使って立ち回りたいのだろう。
「フォローをした人数だけ、そのエリアの成否判定を行う仲間の判定に+1することができます。ただし技能とは重複しません」
「なるほどな、フォローして増えたプラスを【交渉術】でさらに伸ばすことはできないってわけか」
「そういうことです」
今度は【交渉術】を持つキャラを使う宇和島先輩が、その辺りに触れてくる。
そこは確定しておきたい内容なので俺はしっかりと言い切った。
(さて、話すべき内容はだいたい話しただろう)
俺は一度みんなの様子を伺う。
それぞれメモを取ったりどこに向かおうかと相談をしている。
その表情を見る限り、ちゃんと内容は伝わっているみたいだ。
「今回のシナリオのルールは以上です。不測の事態になったら、その場その場で判断していきます」
「わかったわ。それじゃあ、始めましょう」
加美川先輩がまとめ、堅物貴族誘拐事件の捜索が始まった。
「それじゃあ、一ターン目です。各自の行動を宣言してください」
一同はワイワイと相談し、行動内容を決めていく。
そこで黒木さんが手を上げた。
「……ますはガリアーノ邸に行きたい。挨拶と行方不明者の顔を知らないと」
(げ……いきなりか)
前々から思っていたけど、このゴシックロリータ何者なのだろう。ピンポイントで良いところをついてくる。
初手はガリアーノ邸に行かないと、似顔絵が手に入らず、一ターン無駄使いしてしまう、俺の悪魔のトラップを見抜かれた。いや、悪魔と言うほどではないけど、「とりあえず、片っ端から情報を集めよう」とする心理の隙をついたつもりだったのに。
「……へへん」
「表情読まないでください」
「私には
にこりと笑う黒木さんに眉間のシワを寄せつつ、俺はガリアーノ邸のシナリオに目を通して置いた。
「だったら、ガリアーノ邸はギムレットに任せてしまうか。シェイクステアは市場に向かうぜ」
「なら残りのメンバーはガリアーノ邸にいって、万が一ギムレットが失敗したときのフォローにいきましょう。サク君の反応を見る限り何かあるはずよ」
加美川先輩、あなたもか!
城戸と須山さんは、加美川先輩の意見に賛同し、ガリアーノ邸へ向かうことにしたようだ。
「確認します。市場にはシェイクステア、ガリアーノ邸には、ギムレット、マティーニ、ガフ、シャンディの四人。間違いないですか?」
俺の確認に各自の肯く。
「そうしたら、市場から処理を始めます。様々な場所から食料や衣類、生活雑貨などが露店で並ぶ活気ある市場にシェイクステアはきました」
「とりあえず、手当たり次第に誘拐当日ガリアーノに、会わなかったか聞き込みだな、事件当時の足取りを掴みたい。【交渉術】を使いダイスロール」
宇和島先輩が投げた10面ダイスが音を立ててテーブルを転がる。
出た目は0、過剰成功(クリティカル)だ。
(って、ええ、過剰成功(クリティカル)!?)
「よし、過剰成功(クリティカル)!」
過剰成功(クリティカル)に小さく手を握り、喜びを見せる宇和島先輩。
最高の結果で成功したからには情報を渡したいが、フラグが立っていないので渡せない……いや、でもヒントは渡したい。
ううむ、これは悩むと俺は内心わたわたした。
「そうしたら、ガリアーノの情報は得られませんが、店のおばちゃんから小麦袋をリアカーで運んでいた妙な男の話を聞けます」
「なるほど、どんな話なんだ?」
「貴族の使用人ぽい服を着た男が小麦の袋を運んでいたそうです。店のおばちゃんが言うには、貴族の買い出しならもっといろんなものを買うはずなのに不思議だったと」
「なるほど、情報ありがとうおばちゃん、と店の商品を一つ買っておこう。とりあえず、これ以上の結果は得られそうにないか。シェイクステアはこの辺りの地理を確認しながら、みんなと合流する」
この人もこの人で抜け目がない人だ。
コネを維持するためにしっかり情報提供者にもメリットを与え、繋がりを作る。
使う機会があるかはわからないが、この処世術のような流れは覚えておこう。
(さてと、それじゃ次のシーンだ)
俺は一度大きく深呼吸をし、慌てないように気を配る。
焦ってはいけないと自分に言い聞かせる。
宇和島先輩に渡した情報を聞いていれば、いきなりここでうっかり犯人がばれるような事態になってしまうかもしれない。全ては俺のシナリオ捌きにかかっている。
うん、シナリオの流れを追って犯人に追いつくならまだしも、表情を読み取られて犯人がばれるとか、悲しすぎる。
「そうしたら、このターンのシェイクステアの行動は終了になります。次は残りのメンバー全員ですね。一同はシェイクステアと別れたあと、ニコラシカの案内でガリアーノ邸にやってきます」
「どんな屋敷? やっぱり大きい?」
城戸から質問が上がる。
ぞくりと、俺はなんだかプレッシャーを感じた。
前髪に隠れてどんな目つきになっているのかよくわからないが、根掘り葉掘り聞かれるときの抵抗感? そんな感じだ。
気を付けなければと俺は一度、間を取って、それから城戸の質問に答えた。
「一般的にみると大きな屋敷です。だが、貴族の中ではそこまでという言わけではありません」
俺の回答を紙にメモしていく城戸。気になって遠目でメモ紙を見てみるが、これまでの内容だろうか、かなり文字で埋まっている。
まてまて、まだ始まったばかりだ。何故そこまでメモを埋める。
……いや指摘するのも無粋だ。
それだけ真剣に参加してくれているということなのだろう。
俺は描写の続きを各員に伝えた。
「ニコラシカの案内であなたたちは屋敷に招き入れられ、応接間で改めて話を確認する。――と、ここでできることは行方不明にガリアーノと新人使用人の似顔絵を手に入れることです。判定は簡単、幸運で判定し、完全失敗(ファンブル)が出なければ達成」
俺の言葉に黒木さんが反応しダイスを振る。
「……なら早速――完全失敗(ファンブル)なし、成功」
「分かりました。そうしたらあなたたちは人数分の精巧な似顔絵を手に入れる」
「……GM、質問してもいい?」
「どうぞ」
ダイスを回収しながら黒木さんが続けて質問をしてくる。
今日はギムレットが活躍できるシナリオだからだろうか、前回と比べると積極的な感じがする。
いや、前回ものっけから飛ばしていたような気もするが、
「……誘拐といわれているけど、身代金とか何か犯人側から要求はあるの?」
「特にきてませんね」
「……なるほど、あくまでニコラシカの能力があってのこの状況」
黒木さんもその情報をメモしていく。
もしかしてニコラシカを疑っているのか……?
「あ、私からもいいかしら?」
次いで加美川先輩からも手が上がる。
「一緒に誘拐された新人の使用人はどうなったのかしら? 殺されていないの?」
お、お、おいおおいい!?
犯人に大手じゃないかい!
「少なくとも殺されてはいないようです。誰も彼の死体を見つけたとの話は聞いていない」
「そう……」
目を細め指を顎の下に添え、あたかも名探偵だと言わんばかりのポーズを決める加美川先輩。
これは先輩が考え込むときの癖だ。
嫌な予感がした。
(もしかしてこの時点でで犯人がバレた? え、嘘だろ早すぎる)
じんわりと手に汗がにじむ。
実際に犯行を犯したわけではないのに、なぜだか名探偵に対する犯人の気持ちが少しだけ分かった。
「GM、一度みんなで相談してもいいかしら?」
「わかりました」
加美川先輩の提案を俺は了承する。
各自、キャラクターとしてではなく、プレイヤーとしてやいのやいのと相談を始める。
「……怪しいのは新人の使用人か、ニコラシカ。でもニコラシカには【悪意の看破】で、シロなのは間違いない」
黒木さんが容疑者を絞る。
「私も新人の使用人が怪しいと思うわ。貴族を誘拐するついでにもう一人誘拐するメリットがないもの」
加美川先輩が黒木さんの話の説得力を補強する。
「でも、確実な裏どりがまだできてない。情報がまだ足りない」
城戸が第三者の可能性を忘れないようにと示唆する。
「あ、ちょっといい? あたし、気がついたんだけどさーー」
ルールブックを手に何やら悪い笑みを浮かべる須山さんが何かごにょごにょとプレイヤーたちに声をかける。
「お、確かに。言われてみればまだ二回だもんな。GMに確認してみようぜ」
そう宇和島が締め、話し合いは終わったようだ。
代表して加美川先輩が俺に質問を投げかけて来た。
「ニコラシカに【預言】を使うことを要求するわ。できるかしら?」
「な」
理解するのに、時間を使った。
ニコラシカは預言書使いだ。預言書使いの【預言】のスキルを使えば、ルール上、三回までGMに質問ができる。
彼女はガリアーノの安否で一回、義賊団に会うために一回、【預言】を使っている設定だ。
「な、ぁ、ぁ、あ”あ”あ”ッ!!」
そう、できてしまうのだ!
俺は自分のシナリオの穴に気づかされ、変な声を漏らし、叫んだ。
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