第25話 第二.一話 堅物貴族誘拐事件、銀髪メイド編

「えー、そうしたら、銀髪のメイドはお辞儀(じき)をし、自己紹介します。ーー彼女の名前はニコラシカ。預言書使いで、王都の貴族のメイドだ」

「そのメイドがどう言った用件でここに?」


城戸が疑問を俺に投げかけてくる。

俺はあらかじめ用意していた答えを返した。


「『主人(あるじ)が誘拐されたため助力願いたい』と、彼女は言います」

「どうして私たちなのよ?」


そう言ってこれも想定していた質問なので、俺は手にしたシナリオを読み上げる。


「理由は三つ。今の王都はなにがしかの組織に掌握されつつあり、誰が味方か分からない状況にあること」


黒木さんと加美川先輩が「おっ」と反応する。


「……マティーニを追い出した敵勢力?」

「可能性はあるわね」


うまい具合に因縁に絡められたみたいだ。

俺は続けて読み上げる。


「次に捜索には人手が必要で、状況的に王都にいる冒険者などでは相手の裏どりが難しく時間がかかりすぎてしまうこと」

「状況的にはそうだな。王都の人間の誰が味方かわからないじゃ外部の人間に頼らざる終えないか」

「でも不自然だと思う。どうして狙ったようにここに?」


宇和島先輩はやや納得し、城戸は釈然としていない様子だ。

他のプレイヤーも城戸の言葉でニコラシカに少し警戒する構えのようだ。


(む、小癪な…)


城戸の疑問に対し、俺は次の台詞にアドリブを入れ、説得力を盛ることにした。


「シャンディの言葉にニコラシカは手帳を見せ、言います。ーー預言書には火炎立ち昇る山に住みしもの、王都を救うだろうと書かれている。と」

「火炎立ち昇る? 山?」


須山さんが首をひねる。

どうやらアドリブは余計だったみたいだ。卓を囲むみんなは須山さんほど大袈裟ではないにしろ、要領の得ない顔をしている。


(あっちゃあ、なんかフォローした方が良い雰囲気だ)


俺が何か言い足そうとした時、黒木さんが「あ」っと声を上げた。


「……ジャガイモ焼いた山」

「ああ、マティーニが修行した山のことね。なるほど、そういうことならとマティーニは彼女を歓迎するわよ」

「シェイクステアも、マティーニがそう判断するならと賛同する」


加美川先輩と、宇和島先輩それぞれ賛成し、話を進めてくれた。

そこにハイハイっと須山さんが乗っかってくる。


「私はーー」

「ちょっとまった。登場していない人は後でお願いします」

「なんと迂闊」


とりあえず俺は先回りして彼女を牽制した。

あまり手綱を離していると、事件の捜査は次回になりかねない。


「そしたら、私はとりあえず、ちょっと警戒をつづけるかな? ……とシャンディは反対はせず、様子見で」


城戸も少し考えそう自分のキャラのスタンスを決め、宣言した。


現状ニコラシカに対して話を聞くが2、中立1、うん、とりあえず完全に敵対する構えの人がいないので話を進めても大丈夫だろう。


(いや、まずは全員合流が先か?)


そう思いなおし、俺は確認のため、皆に話を振った。


「この後、事件の話をしますけど、全員集まった方が良いと思うのですが、どうしますか?」


俺の問いかけに、さほど時間をかけず加美川先輩が口を開いた。


「そうね、全員集めた方が良いわね。ニコラシカだっけ? 彼女をアジトに招き入れ、シェイクにガフとギムレットを連れてくるように指示を出すわ」

「分かりました。そうしたらニコラシカは素直にマティーニに従います」

「じゃあシェイクステアは指示通り二人を連れてくる。ーーおーい、いい加減起きたらどうだ」

「むにゃむにゃ、あとひとつ、あとひとで俺はーーとガフはうなされています」


一同クスリと笑いが起こる。

いやいや、ジャガイモ引きずりすぎだろう。


「……ギムレットは起きている」

「あ、じゃあガフも起きるわ」

「仲良いな。二人とも」

「明日の敵は今日も敵よ。こいつに負けるわけにはいかない。ガフ的にはギムレットはそういうライバル的な認定で」

「ーーふふふ、スラム一のショートスリーパーと呼ばれたこの俺にーー……」


そのあと、少し小芝居が入り、無事にガフとギムレットが合流した。


「えーと、それじゃあ本題に戻ります。ニコラシカは集まった一同を見て主人(あるじ)に起こった事件の概要を伝える。ちなみに報酬は貴族ガリアーノとのコネクションと、ニコラシカが運用できる金品だ」


「GM、それで事件の内容は?」

「流れとしてはーー」


城戸が話を促してきた。

メモの準備をし、かなり乗り気のようだ。


俺は最初の情報を提示した。


・ガリアーノは新人使用人を連れ、商業区の視察へ行く、そして行方不明になった。


・ニコラシカの預言の力を使ったが、居場所が掴めず、代わりに一週間後ガリアーノが死ぬと預言が浮かんだ。


「ーーそこで、味方を集めるために、彼女はもう一度、預言の力を使い、マティーニの義賊団を見つけたと言うわけです」

「……GM、彼女がここにくるまで何日かかっている?」

「二日です」

「往復するなら残り三日じゃない。なら急いで行きましょう、とマティーニは言い、指示を出すわ」


かくしてばたばたと支度を始め、一同はアジトを後にする。


「GMちょっと良いか?」

「どうしました?」


宇和島先輩から手が上がった。


「シェイクステアは【旅の心得】を持っているんだが、ここで使えないか? 本来の効果と違うが、王都に行くまでの時間を短縮したい」

「んー、ちょっと待ってください……」


宇和島先輩の提案にそう返し、俺はルールを改めて確認する。


本来の技能【旅の心得】は街から街、国から国への大きな移動の際におこる襲撃の判定、薬草採取の判定にボーナスを得ると言うものだ。


たが旅慣れしているものが、先導することで、スムーズに移動が進むというのも理にかなっている。

旅行代理店が企画しているツアーなんかがその一例だろう。普通に旅行するよりもはるかに効率よく様々ところを回れる。あれは慣れと経験があってこそできるものだ。


「わかりました。そうしたら難易度4で襲撃の判定があったのですが、でダイスを振って成功したら、一日、時間が短縮できたことにしましょう」


宇和島先輩の意見を俺は採用することにした。

それを聞いた宇和島先輩はダイスを構える。


「わかった。それじゃ早速ーーダイスの目は6、成功だ」

「それじゃ。一同は本来二日かかるの工程を効率よく踏破し、王都まで1日で到着できた。ということで」

「おっし時間を作れたぞ」

「……やっぱりシェイクは面白い人だとギムレットは思う。あ、あとニコラシカに【悪意の看破】を使う」

「え、今更!?」

「……今まで出番がなかったから」


それはあなたのせいだと思います。


「ダイスロール、2」


まあ、ニコラシカに悪意はないし、完全失敗(ファンブル)もしていないので、俺は素直に黒木さんの結果に返した。


「でしたら成功です。ニコラシカはガリアーノに恩があり、それを返すために動くキャラクターです。あなたたちに対して悪意の類はありません。という内容をギムレットは王都へ向かう道中ニコラシカから読み取った」


俺の内容をメモする黒木さん。

そこにすかさず須山さんが割り込んできた。


「ーーそしてガフは事あるごとにニコラシカへ絡むギムレットを見て、おのれシャンディに色目を使ったと思ったら別の女にもだとぉぉっと、内心勝手に思っている」

「ちょっ、須山さん、突然、面白い話に繋がないでください!」


今日の須山さんは彼氏の前だというのに、はじけまくっているな。

いや彼氏の前だからか?


「えー、はい、かくして無事に一同は王都に入りました。それでは調査開始になります」


そう言って調査箇所を書いたA6(A4を二回半分に切った)用紙をテーブルに置く。


さあ、いよいよシティアドベンチャーだ。

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