第24話 第二話 堅物貴族誘拐事件 焼き芋編
俺は周囲見渡した。
目の前の机にはおかし、つまみ、飲み物がいくつかの小さな山をなしている。
その机の周囲の椅子に腰掛けたプレイヤー一同は真剣に話を聞く表情で俺をみていた。
前回ほどではないにせよ、多少の緊張を覚え、俺は冷えくる手をグーパーと閉じたり開いたりをし、緊張をごまかした。
(大丈夫だ、始めよう)
そして俺は一呼吸置き、皆(みんな)に向け声を上げた。
「それじゃあ、セッションの二回目を始めます」
俺の宣言はパチパチと拍手で迎えられた。
ちょっと嬉しい、頑張ってシナリオ作ったかいがあるというものだ。
ただ気になるのは城戸ノボル。須山さんの言葉もあるので、どういうプレイをするのか、ここは一度ジャブを入れておきたい。
「今回は新しく参加する方もいるので、まずはちょっと日常パートなどで慣らそうかと思います。よろしいですか?」
「了解」「わかったわ」「……異議なし」など、プレイヤーから賛成の言葉をもらい、俺は話を続けることにした。
「そしたら場所はアジトからスタートで。前回はゴーレムとの死闘があり、一同はしばらく休養をすることに……って感じでしょうか?」
俺が簡単な現状の描写を伝えると、加美川先輩が手を挙げた。
「GM、マティーニは精霊術の練習をするわ」
「お、成長の演出ですね。オッケーです。」
「全部諸々(もろもろ)込めて、精霊術を放つ、を繰り返し、精霊術を強化するわよ。あのゴーレムにいまいちダメージが通らなかったのが悔しいし。あ、場所はアジトの裏山で」
勝手に裏山を作らないでください。
俺はシナリオの情報にアジトには裏山があるとメモした。
「あ、じゃあ、GM。ガフも登場させていい?」
今度は須山さんが手を挙げた。
少し嫌な予感がし、俺は確認をした。
「いいですけど、何をするんですか?」
「そうね、ガフはマティーニが作った爆心地の地面を掘り返し、いい感じに火が通ったジャガイモを掘り起こす」
「焼き芋かよッ!?」
俺は盛大にツッコんだ。
しかし須山さんは悪びれた様子もない。
「姐さんじゃんじゃんやってください。今夜は焼き芋パーティでずぜい、とガフは言うわよ」
「そう、それじゃ遠慮なく。とマティーニはさらに修行に励むわ」
「えっと、それじゃあ、シャンディもそこに入っていって、ジャガイモの回収を手伝う……かな?」
城戸が、便乗して乱入してくる。
思っていたよりも積極的だが、存外普通なプレイングだ。
「えっと、裏山に火柱が立ち昇り、焼き芋が大量生産されていますね……ところでシェイクステアとギムレットはどうします?」
「……ギムレットは本を読む、戦略に付いて復習して、戦闘に生かせるようにする」
「シェイクステアはギムレットの空き時間を使って交渉術を教わるぜ」
「芋だー、芋だー! 焼き芋だー!」
おのおの成長した項目を基準に日常を演出していく。
ややあって、焼き芋騒ぎもひと段落をした。
「それじゃ、私は大量の焼き芋を収穫してアジトに戻るわよ。そしてギムレット! あんたにジャガイモを投げつけてガフは決闘を申し込む!」
「決闘ッ!? 何ゆえ!」
いきなり穏やかではなくなり俺は思わず割って入ってしまった
お願いです、前回のように話が始まる前に人死を出すのはやめてください。
須山さんはカラカラ笑いながら話を続けた。
「えっとね。さすがに前回シャンディとベタベタしていたのはガフ的には頂けないので、白黒はっきりつけてやろうかと。暴力はフェアじゃないから、どっちが多くジャガイモを食べられるかで」
須山さんの言葉にニヤリと笑う黒木さん。
表情がプレイ中のキャラに引っ張られているようだ。
「あー……――いいぜ、受けて立ってやるぜ。だがな俺の胃袋はスラム1だぜ。数々の大食いチャレンジ店から出禁にされまくったこの俺にかなうとでも?」
「くくく……くくく……くくく……く、く、く……! くぅーー」
くくくくと、言いながら机をバシバシ叩く須山さん。
きっと、いいセリフが思いつかないのだろう。
更に数回の「く」のあとに須山さんは握りこぶしを作ってこう言った。
「ええい。俺、この決闘に勝ったら、シャンディに告白する。とガフは内心誓います!」
それは負けフラグだ。
かくして唐突にガフとギムレットの男の意地をかけたジャガイモ大食い対決が始まった。
中の人は二人とも女子だけど。男の意地とはいったい。
「えー……それじゃここは公平にダイス目で勝負しましょう」
俺が即席で大食い対決のルールをでっちあげる。
両者はそれで納得し、ダイスを構えた。
「それじゃレディー、ファイ!」
二人が同時にダイスを転がす。
カツカツと硬い音が響き、ほとんど同時に二人の出目が決まった。
8が黒木さんで7が須山さん。
「……私の勝ち」
「くぅぅ、負けた……!」
悔しそうな表情をする須山さん。
それを見かねた須山彼氏様こと城戸が手を挙げた。
「GM、シャンディもガフに声援を送りたい。何かプラスにならないかな」
――愛の力ですね。わかります。
いま、すごい恥ずかしいセリフが出かかり俺は俺は慌てて飲み込み、別のセリフに差し替えた。
「いいですね。それじゃサイコロの目の三分の一、シャンディの応援で食べれたことにしましょうか。黒木さんもそれでいいですか?」
一応、勝っている黒木さんにも了承を取る。
黒木さんはコクリと頷き、承諾してくれた。
「となると6以上を出せば2確定だから、私たちの勝ちね」
「えっと、ガフ頑張ってとシャンディは応援します。とダイスを振ります」
城戸がダイスを振り、出た目は1だった。
見事にオチが付いた。
「うおおおお、シャンディの応援じゃい、と気合を入れすぎて、ガフはジャガイモを最後一口食べ、沈む。む、無念」
「……へへん」
黒木さんがゴスロリ服を揺らしながら気持ち胸を張った。
その後、ジャガイモをいかに調理するかと話で盛り上がり、宇和島先輩のポテサラ発言から具材は何を入れるかとの話へ、須山さんはカロリーメイトを入れるらしい。
俺は「あれは、まずくないけど、心情的にくるものがあるよね」と遠い目をする城戸に心の中でエールを送った。
さて、試運転も大丈夫そうなので、そろそろ本編に行こうか。
「あったまってきたと思うので、シナリオを進めますね。やり残しないですか?」
一同、特にやり残しはないようで、演出の提案は出てこない。
これなら進めても大丈夫だろう。
「そうしたら後日、アジトに鳴子がなります。侵入者です。皆さんどうしますか?」
「お、じゃあシェイクステアは様子をみにいくぜ」
「マティーニも行くわよ」
「GM、ガフは食べすぎで動けません」
「……ギムレットも同じく」
数日たったのにオープニングを引きずらないで頂きたい。
「なら二人の代わりにシャンディが様子を見に行く」
そう城戸の宣言まで確認し、俺は話を続けた。
「分かりました。シェイクステア、マティーニ、シャンディの三名はアジトの出入口まで侵入者と遭遇することなく、たどり着きます」
「うん、どういうことだ?」
「見逃しじゃないわよね。判定なかったし」
俺の説明に、宇和島先輩と加美川先輩は疑問符を浮かべた。
もう少し、説明を足そう。
「えっと、銀髪のメイド服をきた少女がアジトの出入り口に立っています」
「なるほど、サク君の趣味の子ね。このキャラは重要なキャラだわ」
バッサリと加美川先輩は俺に言った
「な、ちょっ、違っ、違いますよ!」
べ、別に銀髪好きじゃないし!
話を作るとたまたま重要な役どころのヒロインがみんな銀髪なだけだし!
「そっか、趣味かー、趣味なら仕方ない」
「しかもメイドとはねー」
「……ライトなファンタジーも嫌いじゃない」
なぜか言葉でタコ殴りにされ、俺は助けを求めるように城戸に視線を送った。
城戸は親指を上げ、ガンバレと俺を見放した。
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