第23話 キャラ紹介 乗っ取り編

 俺は椅子に座り、シナリオに向き合い眉間にシワを寄せていた。

 なるほど、須山さんの事情も分かった、でも事前に教えてくれてもよいのではなかろうか。


 いやいや、それはさておき、今はまず、人が一人増えるバランス問題に対応しなければ。


 そう思い俺は鞄からシナリオを取り出す。


 完璧な四人用のバランスで組んだのだ。

 惜しい、ほんと惜しい。


 俺は未練がましくシナリオを確認し、シティアドベンチャーのパートのバランスどうしようかと頭を抱えた。


(いや、まずは落ち着こう)


 そして、一度深呼吸をし、冷静さを取り戻そうと努めた。


 バランスを直すとしても、まずは作るキャラによりけりだ。

 それによって考えればいい。

 そう考えた俺は長机を囲む一同に声をかけた。


「えー、そうしたら、先にキャラクター制作と、成長をまとめてやってしまいましょうか? シナリオの調整はその内容を見て考えます」


 各々から了承をとり、シナリオ調整前に、キャラ制作に入ることになった。

 黒木さんか、須山さんに、ナーフだ、なんだと言われるかと思ったが、あまり気にしないみたいだ。


「前回参加した方には20点の成長点が渡されます。それを使ってキャラを成長させてください。新規の人は通常ルール通り新規キャラの作成をお願いします」


 そういうや、否や、ルールブックを手にし、皆はそれぞれの自分のキャラの育成計画を練り始めた。

 自分の用意したものに期待してくれているのか、それともそれがTRPGを遊ぶ人の特性なのかはちょっとわからなかったが、真剣になってくれるのは嬉しい。


 ああ、そうだ。

 今のうちに、今日のシナリオの話を少しした方が良いかもしれない。


「ちなみに今回はボス戦はありますけど、ダンジョン探索はありません。街の中を調査、聞き込みをするシティアドベンチャという形式のシナリオで進行します。成長やキャラクターの制作の参考にしてください」


 一応、技術などを決める前に、参考になればと俺はみんなに声をかけた。

 シナリオの情報にプレイヤー一同はガヤガヤと話し合いを盛り上げている。


「となると、必要なのは交渉術系の技術か?」

「……ギムレットはこれ以上はいらないから予定通りバフを取る」

「ノボル、あなたのキャラ作っておいたわよ」

「ありがとう……えっ、女キャラ?」

「マティーニは……うん、火力かしら」


 やいのやいのとキャラの話が続き、話がまとまるまで小一時間はかかった。

 かくして、新規のキャラクターも完成したみたいなので、俺は話を進めることにした。


「そうしたらまず新規キャラの紹介をお願いします。えっと……」

「城戸でも、ノボルでも好きな呼び方でいいよ」

「それじゃあ、城戸さん。キャラ紹介よろしくお願いします」


そういい、俺は城戸へ話を振った。


「ちょっと待って」


 しかし、城戸のキャラクター紹介は須山さんに一度止められた。

 彼は目をしばたかせ、須山さんを見る。


 須山さんは城戸に「実はそのキャラちょっと断っておかないとまずいのよ」と付け加えて俺の方を向いた。


「GMちょっと相談なんだけど、シャンディを貰ってもいい?」

「……はい? 嫁に?」

「違う! いや、違わな……? いや、違うわよ!」


 疑問符とは別に、俺はなんとなく城戸のシートに記載されている内容を察(さっ)した。

 彼女は連れてきた恋人に回復の技能があるシャンディをやらせようとしているのだ。

 バランス的にはそれもわかるし良いアイディアだと思う。

 俺はおよそ一分長考した。


(…………まあ、今回以降、出番があるわけじゃないしいいか。回復役がいると派手なダメージの戦闘できそうだし)


「んー……分かりました。オッケーです」

「ありがとう。それじゃノボル、改めてどうぞ」


 隙あらば、進行を奪わないでください。

 彼女の言葉に、城戸は少し照れたようにためらいを見せたが、意を決したのか、一度大きく深呼吸をし、キャラクターシートを読み上げた。


「えっと、俺のキャラの名前はシャンディ。技能は【飛び道具の極意】。弓矢を装備して戦う遠距離攻撃主体のキャラクター。目的に探究と出たので盗賊団の一員として何かの研究を行っている?……ということで」



シャンディ プレイヤー/城戸ノボル

スタイル 中衛

技能 【飛び道具の極意】


目的 探究



 俺は椅子からひっくり返った。


「ちょっと待ったぁ!? 医術の心得はどこに消えた! 須山さん!」


 回復役がくると思ったのに違っていました。

 突然弓矢で戦うキャラのシャンディが生み出されていた。

 須山さんはあざとく可愛らしい笑顔を浮かべ、俺のツッコミに切り替えしてきた。


「えっとね。さすがに初心者に回復キャラはちょっと暇だと思った。反省はしていない」

「そんな危ない女にガフが惚れてることになりますが!」


 どこから突っ込んでいいのか分からないので、目の前の一番絡むであろう本人はそれでいいのか俺は問う。


「いや、ガフならこう言うわね! ミステリアスな魅力がたまらない、とね!」

「便利な言葉で片付けるなよぉぉ!?」


 俺は叫んだ。なんかもう、気づいた時には叫んでいた。

 そんな俺に須山さんは親指を立てて、言葉を返してきた。


「問題ない大丈夫よ」

「……まあ、一番絡むと思うガフがそれでいいなら、いうことはありません」


 俺は大きく息を吐き、心を折った。

 まあ、楽しくできればいいか。


「それじゃあ、ほかの皆も、成長報告お願いします」


 俺が進行を促し、残りのプレイヤーたちがそれぞれが成長させた内容を報告していく。


「マティーニは【精霊術の心得】を【精霊術の極意】に強化するわ」

「加美川先輩は順当に火力を伸ばすのですね」

「ええ、初志貫徹。このキャラは変に回り道はしないわ」


 ルコアル精霊譚の成長は3種類あり、基本的にシナリオが始まる前に成長させておくことを推奨している。

 一つは技能の取得・成長。これが一番効果が高い。


 技能の取得には成長点を10点使う。

 更に成長点を消費することでその技能を強化することがことができる。


その内訳は、

【○○の心得】から【○○の極意】にするために20点。

その後の【極意】から【奥義】に30点

【奥義】から【神髄】に40点


 技能は強化すると基本的に振れるダイスの個数が増えるので積極的に強化をしたほうが良いらしい。


「ガフはHPの強化をして、最大HPを10点伸ばしたわ、残りは保留」

「なるほど、前衛ですものね」


 次にHPの強化だ。成長点1点で最大HPを1上げられる。

 各キャラクターの耐久にも影響してくるので、余ったポイントは積極的に使いたい。


「ギムレットは新規で【戦略の心得】を取得、それと回避力を+1、HPを+5」


 最後にステータスの強化だ。

 成長点5点で基本ステータスが強化できる。

 10点で新規のスキルが取れるので、どちらかというと玄人向けの成長だ。


「黒木さんのギムレット技能ではなくてステータスか」

「……妖怪イチタリナイ対策。それに固定値は私を裏切らない」


 なるほど、確かに後々を考えてみると25点の成長点は使うが、ダイスの真ん中の数字である5が必ず上乗せされるのは、確かに強いかもしれない。

 ところで妖怪イチタリナイってなんなのだろう。


「シェイクステアは【交渉術】と【武具回避の心得】を取得」


 宇和島先輩も順当にシェイクステアを強化した。

 交渉事が多くなると踏んで【交渉術】入れてくれたのは、さすが宇和島先輩だ。

 これで心置きなく難易度があげれられる。


「了解しました。それじゃあ、キャラクターが増えたことでシナリオ敵の数とか少しいじりますので、休憩後セッション開始でお願いします」


 かくして俺はシナリオの調整に入り、ほかのプレイヤーは休憩として飲み物を買いに出たり、お菓子の追加を買いに行ったりと移動した。


「ねえ、ちょっといい?」


 人の減った会議室。一人残った須山さんが俺に声をかけてきた。


「どうしたんですか?」

「ちょっとね。相談したいことがあるのよ」


 そう、彼女は口を開いた。

 須山さんからかけられた言葉に、俺は一度手を止めた。


(相談、なんの話だろう?)


 内容を聞かないことにはなにも始まらないので、俺は須山さんに話の続きを促した。


「どうしたんですか? 成長のやり直しとか?」

「違う違う、んーそうね。まずは、ごめんなさい」


 須山さんは俺に頭を下げできた。

 まさか頭を下げられるとは思わなかったので、俺は少し動揺した。


「ど、どうしたんですか!?」

「急にプレイヤー増やして、悪かったなって」

「そのことですか、まあ、なんとかなりそうですし、大丈夫ですよ」

「そう、よかった」


 俺の言葉にバツの悪そうな顔になりながら、須山さんは言葉を続けた。


「それとさ、もしかしたらあいつ……ノボルさ、少し様子がおかしくなるかもしれないから、GMには話しておこうかなと」


 いつもの快活な彼女とは裏腹の表情に俺は、真剣なトーンの声で返した。


「……どういうことですか?」

「あんたも知っているかもしれないけど、ノボルって一度事件に巻き込まれているじゃない?」

「ええ」


 彼が事件に巻き込まれて監禁されていたという話は、噂程度だが知っている。

 どうしてそんな事件に巻き込まれたのかは俺はよく知らない。

 その当時起こっていた別の事件に関係しているとか噂があったが、情報があまりに不確かで、俺も城戸と親しいわけでもなく真相を聞く立場ではなかったからだ。


「あの前後ぐらいからなんだけど、なんというか、入り込んじゃうというか、目の前で見ていた私もよくわらないんだけど、登場人物をコピーする……みたいな? そんなことがあるのよ」


 要領を得ない説明だが、彼が学校に来れない理由はそれなのだろう。

 登場人物をコピーする……なんか覚えがあるぞ。


「あれですか。魔女が箒(ほうき)にまたがって空を飛ぶアニメを見て、自分もその気になって箒にまたがとちゃう、みたいな?」


 カツンと鳩が豆鉄砲食らったような顔をする須山さん。どうやら的は得ていたようだ。


「……やっぱりここに連れてきてよかったかもしれないわ」


 いつもの調子でけらけらと笑う須山さん。

 よく分からないが、腑に落ちた顔をしているので、大丈夫そうだ。


 城戸ノボル、とにかくセッション中は少し気にかけておこう。


「サク君そろそろ大丈夫?」


 ややあって会議室の扉が開き、飲み物を手にした加美川先輩を先頭に、残りのメンバーも帰ってきた。


「おー。ノボルー、私の飲み物ある?」


 話は終わりとばかりに須山さんは城戸に駆け寄り、明るい声で飲み物を要求する。


「ドクぺでしょ、はいどうぞ」


 城戸も分かっているとばかりに買物袋からケミカルな味がすることで有名な炭酸飲料を取り出し須山さんに渡した。


「んーケミカルな味がたまらないわ」


 けろっと態度を変えた須山さんに、女の人怖いと思いながら、シナリオを見直す。


 まあ、シャンディの能力的に、ボスの取り巻きを一体増やせばバランスは大丈夫だろう。決してバランスを崩すのが惜しいというわけではないが、他の部分はそのままにしておくことにした。

 なんか不穏な要素もあるし、下手に探索の難易度は増やさない方が良さそうだ。


「オッケーです、先輩。――それじゃ始めましょう」


 席につく加美川先輩に俺は答えた。


「おっし、活躍するぞ!」

「……うん」

「よしシャンディといちゃつくわよ!」

「ライカ流石にそれはちょっと」


 それぞれが意気込みをはきだし、場の空気が温まってきたのを感じる。

 最後に加美川先輩がみんなを確認し、俺に向かって宣言した。


「こっちも準備はオッケーよ。始めましょう、サク君」


 かくして第二回セッションは幕を上けたのだった。

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