第19話 コツ
「あの、先輩。実は相談したいことがあって」
「何かしら?」
ポテトの山も無くなり、飲み物もそれなりに減ってきた頃、俺は文芸部で加美川先輩に相談しようとした用件を思い出した。
シティアドベンチャについてだ。
俺は鞄からリプレイ本を取り出して、加美川先輩に見せた。
「次のシナリオ。このリプレイで遊んでいるシティアドベンチャって形式でシナリオ書きたいんです。書き方とか知りませんか?」
「残念ね。私もその形式は書いたことはないわ」
「そうですか……」
まさかの書いたことない発言に俺は肩を落とす。
(確かに先輩は小説メインで書いている人だから書いたことなくても仕方がないか)
あと相談できそうなのは須山さんぐらいだろうかと、俺は悩んだ。
俺が彼女と話をできるのはおそらく学校内だけだ。だが、それはまずい。
何故なら須山さんには彼氏がいらっしゃる。
黒木さんとの一件で、この学校では迂闊なことをすると、瞬く間に校内で噂が広がってしまうのは体験済みだ。
となれば、彼女にこちらから声をかけてあらぬ方向へ話が広がると俺が須山さんの彼氏に殺されまいか。
俺はなんだか校内の行動に対して、用心深くなってしまっていた。
「サク君、ちょっと、その本貸してくれる?」
この後、どうしようかと悩んでいると、先輩から手が伸びる。
「え、はい」
意識の外からかけられた声に、俺は条件反射で反応し、その先輩の手に本を預けた。
(何をする気なんだろう?)
先輩は本を受け取り、かばんからノートを取り出して白紙のページを開いた。
そうしてリプレイ本を読みながら、なにかをノートにメモしていく。
ややあって―ー
「――なるほど、だいたい構造が分かったわ。ありがとう、まだ読むと思うし返すわね」
「どうもです」
加美川先輩はパタンとリプレイ本を閉じ、俺にその本を返してきた。
貸し出しから、10分かそこらの話である。
数日かかって考えていたことをたった十分で解決されてしまった。
ちょっと立つ瀬がないが、俺はとにかくシナリオを優先させようと、先輩から本を受け取り、お礼をしつつ、本を鞄にしまった。
流石ビブリアジャンキー。
こと文章にかけては本当に頼れる先輩だ。
「さて、どう説明しようかしら」
いろいろな書き込みがされているノートのページに目を通しながら先輩は説明の順序を計画しているようだ。
俺もちらりと先輩が書き込んだノートをのぞき込む。
ノートには箇条書きされたリプレイの内容が記入してあった。
「先輩、これは?」
「前に教えた。映画とかの作品をあらすじに戻す、って訓練の応用よ。ーーよし、まとまったわ。サク君、ちょっと見てみて」
「はい」
「お、なにやるんだ?」
俺としばらくまったりとしていた宇和島先輩が話にはいってくる。
「サク君がいうシティアドベンチャという形式だけど、サスペンスやミステリーを表現するときに使う技法だと思うわ」
「あ……言われてみればなるほど」
加美川先輩の言葉が、俺にカチリとハマる。
言われてみれば、シティアドベンチャという形式にこだわりすぎて、それで何をするのかをちゃんと理解していなかった。
「サスペンスやミステリーは、逆から書くと良いというか、先に起こった事件を追いかけるように書くと書きやすいわね。例えば……サク君のさっきの話を使いましょう」
そう言って先輩は、ノートに犯人と書いて丸で囲った。
「仮にだけど、一連の文芸部の騒ぎの犯人をあの野球部員だとする」
そういい先輩は共犯とノートに書き込み丸で囲ったあと、犯人と点線で繋いだ。
「犯人は私に……こ、告白したくて策略を巡らし、一年の後輩に黒木さんを焚きつけるように指示を出す。やり方は任せるが、サク君と黒木さんを付き合わせろと」
「動機はどうなるんだ? 黒木と佐々倉が付き合って、それがなんで加美川さんへの告白に繋がる?」
「今回は書き方の話だから、単純に考えるわ。
犯人から見て、私のそばによくいるサク君は邪魔だと考えていた。そんな中、偶然、黒木さんとサク君のやりとりを目撃し、犯人は邪魔な男であるサク君には、どこか別の人と幸せになってもらおうと計略を立てた――ということにしましょう」
宇和島先輩の疑問に謎の動機をでっち上げて話を進める。
共犯のそばに丸で囲ったクの字を何個か書き、そのそばに丸で囲った黒を書いた。
黒は黒木さん、クは……数が多いからクラスメイトだろう。
「そして共犯はクラスメイトを焚きつけ、黒木さんにサク君へ付き合うように強要した」
黒のそばにサクと書き2人をハートで囲う。
「サク君が黒木さんに告白され、付き合い始めたことを確認した犯人は私を誘い出し告白をしようとした」
犯人のそばに加美川先輩の加を書き丸で囲う。
ただ俺と黒木さんのときのようにハートでは囲わず、犯人から線を伸ばし、告白と書いた。
「というあらましが、先に起こった事件ね」
加美川先輩は俺と宇和島先輩をみて理解をチェックし、先に進めるためかサの字の場所をペンでコツコツ注目するようにも示した。
「サク君からすれば、二つの色恋沙汰は違和感を感じても繋がりはないわね」
「確かに俺からすると全体像は見えませんね」
「サスペンスドラマなら、佐々倉の位置が刑事とか探偵ってわけだな」
「そうね。となればシティアドベンチャならここからプレイヤーが探索をするってところかしら?」
加美川先輩はサの字から、様々なところへ矢印を伸ばしていく。
どうやら俺が調査している設定のようだ。
「黒木さんのクラスメイトに話を聞き共犯の後輩が浮かび上がる。
でも彼に話を聞いてもシラを切られ、ならばと野球部をを調査。
二人の話を聞いていた後輩マネージャーを見つけ、共犯と犯人の繋がりやどういう指示を受けたかが明らかになる」
先輩が点線だった部分を上からなぞり、はっきりとした矢印にする
「そして、事件の全容を掴み、サク君は犯人にたどり着くという順番で、考えていけばいいんじゃないかしら?」
「なるほど、そういうことですか」
すっごくスッキリした。
シナリオ制作におけるモヤモヤした部分を全部晴らしてもらった気分だ。
「こと文章に置いてはさすが先輩ですね」
やっぱり先輩は凄いと俺は思ったのでそのままの気持ちを俺は口にした。
先輩はなぜかむっとしてこっちをにらんでいる。
「それ、あまり褒めていないでしょう」
「まさか、正直な気持ちですよ。自分、先輩に対しては嘘偽りなくいたいので」
(普段の俺の態度のせいであまり伝わってはいないだろうけど)
ため息をつく加美川先輩を見る限り、俺の思った通りなののだろう。
なんとも言えない気持ちで飲み物に口を付ける。
飲み物の代わりにストローがずずずっと音を鳴らし、飲み物が切れたことを告げた。
「そろそろ行こうぜ。いろいろ解決したみたいだしな」
ポテトを食べきった宇和島先輩が空気を読んだような提案をした。
俺と加美川先輩も了承し、トレーを下げ、店から出ることにした。
「それじゃ先輩ありがとうございました」
「おう、またな」
「さようなら、サク君」
そして俺たちは店からでてその場で解散をすることになった。
先輩は電車を使うので、俺とは別の帰り道だ。
宇和島先輩も本屋に寄るとかで、デパートの中に入っていった。
かくいう俺はとにかく早くシナリオを書きたい気持ちでいっぱいだった。
今ならなんかうまくかける気がする。
俺は足早に自宅へと帰ることにした。
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