第13話 日曜日
今日は休日だ。いや昨日も休日だったけど、今日は休日、日曜日。
とはいえ、あまり休んでもいられない。次の集まりが来週の土曜日だと加美川先輩から連絡がきたのでネタを決めないと。
俺は自室でパソコンを立ち上げ、メモ帳を起動していた。しかし、ふと思い立って、シナリオを打つことはせず、俺は昨日買ったTRPGのリプレイを読むことにした。
(なるほど……シティアドベンチャ)
学習机の椅子に座り、ページをめくる。
リプレイ本は声優が使っている台本のような書式で書かれていて、小説界ではご法度である(笑)や(爆笑)が用いられる。
まるで卓を囲っている人の様子が見えてきそうな書き方だ。
(探偵小説みたいな展開だな)
街の中を聞き込みや探索をして事件を解決する形式のことをシティアドベンチャというらしい。
このリプレイのシナリオはその形式を採用していた。
あのメンバーで遊ぶとしたら、黒木さんのギムレットにぴったりの形式だろう。交渉メインのキャラなので、こういう聞き込みをメインとする話はうってつけだ。
前回あまり活躍できないシナリオを用意してしまった手前、多少なり色をつけてあげたい。
(それじゃシティアドベンチャに挑戦してみるか)
本も読み終え、何をするかが決まったので、話のネタだしを始める。前回一瞬頭をよぎった猫探し、食材の買い付けに来たら食品がなくなっている、泥棒探しなどなど。
(思いの外(ほか)、ピンとくるネタが出ないかー)
一度、パソコンのメモ帳にネタを書いていくのやめ、俺は体を伸ばした。
明日は文芸部もある。
プレイヤーに聞くのもどうかと思うが、先輩にも相談してみよう。
「あと、相談前に、情報も収集しておこうか」
俺はおもむろにツイッターを開いた。
検索に『シティアドベンチャ』とワードを打ち込む。
最後に伸ばし棒をいれないのはいつの間にか染みついたこだわりである。
「お、あるある」
検索結果をスクロールしていくと。プレイヤーの体験談や、オススメのシティアドベンチャのリプレイの紹介、シナリオの紹介が出てくる。
こうして見たところ、TRPG人口は意外と多いようだ。発言者の年齢層高めなのが気になるところだが。
俺は気になる部分を見つけては、再びメモ帳に記述を写していった。
「なるほどな。うーん、そうなるとどうシナリオを書けばいいんだ?」
ある程度情報が集まったところで、試しにシナリオを書き出そうとして、俺は手を止めた。
シティアドベンチャの性質上、よくある一本道のシナリオにはならない。
フリーシナリオと呼ばれるゲームみたいな感覚で書けばいいのか?
書き方がよくわからない。俺は頭を抱えた。
(ゲーム的に考えればフラグ管理か? ううむ)
そもそもまだやりたいことのネタがぼやけている状態でシナリオを書き始めるのは無理な話だ。
俺はもう少し話の展開、大きな流れを考えたほうがいいかなと、昨日のセッションを思い出した。
(宇和島先輩と黒木さんは演技凄かったな、須山さんはシナリオを先読みして先行するタイプ、先輩は意外と噛まなかった、決めるときには噛んでたけど)
ふと黒木さんのソウルネーム、ブラックラックという単語が頭をよぎる。
「まさかね」
思わずその単語をツイッターに入れてしまった。
(……†ブラックラック†、その十字架どうやって入れてんだ?)
見つけてしまった。
怖いもの見たさで、アカウントを開けてみる。
『私は
よくわからないが、ルビが浮かんで見えた。
くッ、俺の特殊能力
いや、うん、そんな能力俺にはない。知ってる。
たぶん昔抱えていたものが近いからシンパシーか何かで読み解けるのだろう。
ああ、思い出したくない。中学二年生のころに遊んだゲームに感化されて買ったカッターナイフと100円ショップの包帯10本。
中学二年生時代がフラッシュバックし、思わず苦笑いがこぼれた。
どうしてカッコつけようとするとあとでこんなにダメージが返ってくるのだろう。
(っと、あまり覗いているとストーカーみたいでキモいよな)
「まあ、そっと――」
閉じておこうと思ったら、うっかりいいねにクリックをしてしまった。
消すのもなんか悪いきがするし、俺はとりあえず、そのままにしてツイッターを閉じることにした。
(さて、ネタを決めてしまおう。黒木さんといえば、あの時マティーニの素性を推察していたよな。……あ、メモしてなかった)
明日なり、明後日なりにでも演劇部にでも顔を出してみるか、と俺はうーんとわざとらしく声を出しながら悩んだ。
流石に女子生徒に会いにいくのは気恥ずかしいお年頃なのだ。
神様、お願いだから悩ませて欲しい。
(宇和島先輩に取り次いでもらうか? それとも加美川先輩に一緒にきてもらう……いやいや、子供じゃないし)
しばらく悩んだが、結局結論は出ず。
その日、俺は資料漁りという名の問題逃避を行って休みを過ごした。
明日部活に行ってから考えよう。
そうして俺はだるくなってきた瞼の意志のまま俺は本をどかし床で眠った。
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