第9話 第一話 薬草採取にいこう

 俺はちょこちょこシナリオにメモを付け加えていく。

 ここまでの事故を逆に利用し、各プレイヤーの動機にできないかと考えたのだ。


「あれから一ヶ月がたったということで。シェイクステアとギムレットはある程度回復し、不自由なく動くことができるようになった」

「死ぬようなダメージだったんだろ? 一ヶ月は早すぎじゃないか?」


 俺の描写に疑問符を投げかける宇和島先輩。

 そうだろうとも、俺は今さっき考えた理由を宇和島先輩に話した。


「マティーニが率いる義賊団には医術が使える優秀なメンバーがいて、効果的に薬草や薬品を使うことでシェイクステアとギムレットの回復を補助したようです」

「……どうして? 相手のメリットが分からない」

「アタシとしては姐さんの精霊術をしのいだって言うのはメリットだと思うわよ。 

 ちょっとそこの君、俺と一緒に肉壁やならない?」

「待って須山さん。姐さんってだれのことかしら」


 あー、あー、あー、脱線に次ぐ脱線。

 ひっちゃかめっちゃかになる場を静めるべく俺は手を叩いた。

 気分はあれだ、裁判官のようだ。


「はいはい。ちょっと静粛に。義賊側のメリットは三つ。

 一つは須山さん、ガフが言ったあの精霊術を生き延びたこと、そしてその訳を探ること。

 それとあの馬車どうやら義賊が敵対する勢力に関係する荷物が積まれていたらしく、君たちがその関係者ではないかと調査するため。

 そして白ならば人材としての勧誘」


 アドリブではあったが、割と綺麗な理由付けができたと思う。

 ちょっと甘いかもしれないけれど、どこかの誰かが言っていた、理由は三つ付けるとそれらしくなる法則を利用させてもらおう。


「……なるほど」


 納得したようで黒木さんはうなずいた。

 法則様々である。


「となると敵対勢力は王都エイトワーズの関係者」

「え」


 変な声が漏れた。

 そんなこと考えてもいなかった。


「……マティーニの自己紹介で、加美川先輩は何者かに奪われた国を取り戻すために義賊団を結成したと言っていた。そしてマティーニが標的とし、攻撃を行ったのはエイトワーズに向かう馬車、敵対勢力の荷物が積まれていたことからもエイトワーズに巣食う何者かがマティーニの標的、倒すべき相手。それとこの一連の流れから推察されるのはマティーニが王都を管理する元魔女だということ」


 名探偵ゴシックロリータ爆誕。俺はあまりの考察力に内心拍手を送った。

 でもごめんな、その辺まだ全然煮詰めてないんよ。


「サク君、まさかこれだけの伏線をすでに張ってきていたなんて、ちょっと見直したわ」


 加美川先輩がニコニコとこちらを見てくる。

 俺はいたたまれなくなって咳払いをし、先輩へ言葉を返した。


「あーいや、実は全部、初めて聞く設定でして、びっくりしています」

「……言わぬが花」

「自分、先輩には嘘偽りなく生きていきたいので。でも確かに黒木さんの推察は正しいのではないのでしょうか? ほぼ採用したいです」


 絶対あとでもうひとひねり加えてやろう。

 後付け設定には自信がある。


 加美川先輩が肩を落とす。

 俺はそんな先輩をよそに、話を進めることにした。


「とにかく、みんなの合流を進めていきましょう。何かリクエストはありますか?」

「いろいろ調査が終わって勧誘するところからでいいんじゃない?」


 須山さんの提案に一同うなずき、シェイクステアとギムレットは作戦室に呼び出されて、マティーニ、ガフから面接を受けることになった。


「先輩、マティーニ的には二人をどう誘うのですか?」

「そうね。こんなことをができるのは魔女ぐらいだと右手に炎、左手に氷を浮かべて真実を話し、仲間にならないかと問いかけるわ。ちなみに断ったら貴方たちを燃やしてもう一か月ベッドとお友達コースよ」

「それは提案ではなく脅しだろうと。とシェイクステアは軽く文句を言いながらマティーニの仲間になることを約束します」

「あー……いいぜ、よろしく。とギムレットもマティーニにの仲間になる」


 マティーニの提案、もとい脅しを二人とも飲み、ようやくこれでプレイヤーが全員合流した。


 ここまで来るのにいろいろとありすぎて、ちょっぴり達成感すら感じる。

 でもこれは導入、この後全員でダンジョンに突入する流れにしておかないと。


「さて、シェイクステアとギムレットが義賊団の仲間になったところで、作戦室に一人の女性が入ってくる。彼女は君たちの看病していた医術が得意なメンバーだ。彼女は薬草がかなり減ってきてしまったので、採集を行いたいとマティーニに進言しました」

「彼女が要求する薬草って、どういうとこに生えているの?」


 マティーニではなく加美川先輩としてこちらに質問してくる。

 マティーニのキャラならば知っていてもおかしくないだろうとして、俺は先輩の質問に答えた。


「彼女が使う薬草は魔物も出てくる特殊な森に群生しています。少なくとも護衛が必要ですね」

「なるほど。それじゃあ、私たちが取ってくるわと医療メンバーの子に返事をする」

「GM、ちょっと医療メンバーの子って言いづらいからシャンディって名前つけてもいい?」


 突然須山さんから提案が飛んでくる。

 まあ、特に名前つけるぐらいなら別にいっか、確かに呼びづらいし。


「了承で。それじゃこの女性の名前はシャンディとなりました」

「ガフは彼女を見て固まります。顔がほのかに赤い」

「その設定をやりたかっただけかい!」


 須山さんにうっかりツッコミを入れてしまった。

 でも、これなら惚れた女の子にいいところを見せたいという割と分かりやすい動機が生まれる。

 釈然とはしないが、うん、設定を取り下げたりはしないでおこう。


「シェイクステアとしてはたぶん俺たちの治療に使った薬草なのだろうなと察し、協力を申し出る」

「……ギムレットも同じ」


 うんうん、狙い通りにシェイクステアとギムレットの動機付けにも成功した。

 これで不満なく無理やりって感じにならなくて済みそうだ。


「それじゃ薬草シャイシュウ・・・・・・に行きましょう!」


 先輩がマティーニを演じようとしたのか、キメ台詞を吐いて、噛んだ。

 顔を少し赤くしながら先輩は口元を抑える。その流れイエスだと思います。


 そうして、なんとも締まらなかったが、一同薬草採集に向かうこととなった。

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