第8話 どうするのこの惨状
どうも、佐々倉サクです。
合流するのが大変そうなので、先輩に協力を仰いで、馬車にいるプレイヤーを攫って無理やり義賊団の一員にしてもらおうとしたら、先輩がうっかり全てを燃やしてしまって、さあ大変。
これがTRPGだというのか。これがッ!!
「だははは! ちょ、待て、俺のキャラ死んだ!?」
腹を抱えてテーブルに突っ伏す宇和島先輩。
あまりの事態に大爆笑している。
「……く、ふふ」
黒木さんも手で口元を隠しているが、肩を震わせている。
どうやら込み上げてくる笑うしかない感情に抵抗していようだ。
「ちょっ、なにこれ、だめ……お腹が痛い」
須山さんも笑いすぎて涙が出てきたのか目元を拭う。
隣に座る加美川先輩はそんな彼らをよそに変な汗を流しながら、どうすればいいのかとオロオロしていた。
「え、えーと……。サク君、これ峰打ちとかにできないかしら?」
「……先輩、峰打ちでも死ぬときは死にます」
「や、め、こんな時に漫才はやめっ!」
宇和島先輩がテーブルに突っ伏したまま叫ぶ、笑いのツボにぐいぐいきているらしく、立ち直るまで時間がかかりそうだ。
でも、確かに笑うしかない。
この状況をどうすればいいんだ。
俺は一度ルールブックを開き直した。
ゲーム中のルール処理は正しくこなした。
ただ、製作者だってこのような事故は想定しないはずがない。
ぺらぺらとルールブックを読み進めていると、ゲーム進行方法のページにゴールデンルールという項目があった。
『このルールはこのゲーム内のいかなるルールよりも優先されるものである。
ゲーム内におけるトラブルはGM並びにプレイヤーと相談して解決して良い。
その場合、参加者全員が同意したなら他のルールを無視しても良い。』
(なるほど、全員が納得してもらえれば、ルールを無視できる、か。
要するにバグは各自対応しろってわけだな)
「えー、できれば二人が生存していたことにしておきませんか? ルールブックによると全員が賛成してもらえれば、それでもいいみたいですし」
俺はおずおずと手を上げ皆の意見を伺うことにした。
「なるほどな。俺はこのまま終わるのは嫌だし賛成だぜ」
むくりと起き上がった宇和島先輩はこちらの提案に素直に乗ってくれた。
涙目をぬぐいニカっと笑う姿が様になりすぎている。
よし、アイドル声優として売り出そう。そちらの業界はよく知らないがたぶん売れるだろう。
「……私は反対、ルールはルール。違(たが)えてしまえばそれはもはや遊戯ではなく混沌」
思い出したかのように中二セリフを盛り込む黒木さん。
スラスラ出てくるあたり、もしやこちらが素なのかもしれない。
(なるほど、確かに彼女の意見も、もっともだ)
確かにこうも簡単に死んでしまったことを覆していけば、プレイヤーは何も考えず敵に突っ込んでは死に、そして特例復活を繰り返せばゲームクリアである。
バランスもクソもない。
「んー、あたしは賛成。いやね、二人とも見学じゃつまらないでしょ」
そう言う須山さん。
確かにこのゲーム遊ぶのは楽しいが、多分外から見ているだけだと微妙かもしれない。
「私もサク君の意見に賛成よ。まあ、その、やってしまった本人がいうのも変な話だけども」
加美川先輩もそれに続く。
先輩本人のせいではないが、さすがに引き金を引いた自責の念があるのだろう。
「……けれど」
渋る黒木さん。
なまじ正しいことを言っている分だけ、折るに折れないようだった。
二人の生存を提案した俺も反対意見である彼女の意見はなるべく尊重したい。
「黒木さん。俺もゲームが作りたいから黒木さんの意見は分かる。遊ぶためのルールは尊重されるべきだ」
「……うん」
「だからこれ以降、死亡になってしまった場合はルールに準拠する」
そういって、俺は頭を下げた。
年下とかそういうのは関係ない。精一杯ゲームを遊ぼうとしているプレイヤーに俺は礼を尽くした。
「でも俺はゲームは楽しく終わりたい。楽しく終われなければこのゲームはきっともう遊ばなくなってしまう」
「……」
「だから、黒木さんできればここは譲ってほしい」
「……わかった」
こくりと黒木さんがうなずく。
良かったどうにか提案が通ったようだ。
「よし、それじゃあたし登場するわね」
パンと手を叩き、須山さんが身を乗り出した。
そして、彼女は某アニメの指令のごとく肘をテーブルに着き顔の前で手を組み、その場の誰も彼もを無視してプレイを再開した。
でも正直、そのポーズはギャルゲーのコスプレをしながらやらないでほしい。
「彼女の放った炎、それは馬車を含めた全てを焼き尽くした。ガフは着弾現場を確認するために燃え上がる馬車に近づく。『さすがお嬢、あれだけの火力を出しておきながら全員殺しちゃいねぇとは』」
おい、勝手に進行を乗っ取るな!
俺の心のツッコミをよそに、須山さんがガフを演じようと頑張って、低い声を出そうとした。だがそれは、低くなるどころか、ためらいからか裏返り、絶妙な三下声になってしまった。
「『み、あ、ま、全く見事な精霊術っすね』」
「ぶっ……」
様々な要素が絡み、宇和島先輩の緩んだツボを刺激したらしい。
彼は口の中の空気を吹き出し、次いで来る笑いに堪(こら)えている。
恥ずかしくなったのか須山さんは黙って声色を戻し、進行を続けた。
あのー、俺の役割、返してくれませんかね。
「『おや、これは――』そうガフが言うと、彼は馬車の焼け跡のそばから二人の青年を見つける。彼女の精霊術に何らかの方法で抵抗したのか、それとも運がよかったのか、比較的軽傷な二人を見て、ともかく貴重な人材になるかもしれない、そう直感したガフは二人を担ぎマティーニの元まで戻るのだった」
まさに、一人須山劇場。
でもまあ、やってほしいことは大体やってたし、これで晴れて義賊団の一員になる流れができてきた。
「と、こういう流れでいい?」
くいっと手の平でメガネを上げ確認を取ってくる須山さん。
逐一行動に何かしらのネタ要素を挟まないと死んでしまうのだろうか。この人は。
いや、今はそれよりも綺麗にまとめてくれたことに感謝しよう。
「ありがとうございます。それでいきましょう。でも須山さん、イエローカードです」
「おおっと」
おどける彼女に肩を落としながら俺はシナリオを確認した。
うん、大丈夫、これでシナリオに戻った。
かくして、様々な采配で一命をとりとめたシェイクステアとギムレットは義賊団のアジトへ連れていかれることとなったのだった。
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