第6話 とにかく修正!


 ちょっと、ちょっと、ちょちょちょっと待て!

 思わず叫んでしまったが落ち着こうと俺は深く息を吐いた。


(先輩が提案したのは盗賊退治だけ。偽盗賊のシナリオにしたのは俺だ)


 だが設定被ってしまったことを口に出してしまったのは俺のミスだ。

 見れば、見るからにうろたえ、オロオロしている加美川先輩。

 これはまずい、まずいですよ、佐々倉サクよ。それは俺よ!?


「た、ターイム! ちょっとタイムください!」


 まずは時間を、とにかく少しでも時間をもらわなければと俺は声を上げた。

 それに反応して、加美川先輩が言葉を返す。


「りょ、了解、15分ぐらいでいい?」

「助かります!」

「それじゃ一度休憩、15分後に再開で」


 加美川先輩の宣言で、その場は一端休憩となった。


「さすがにシェイクじゃ喉渇いたから飲み物買いにいってくるわ」

「……それじゃあ私も」


 宇和島先輩と黒木さんは飲み物を買いに席を立った。

 そのまま二人で会議室を出るのかと思ったが、宇和島先輩は俺の方に近づき肩を軽く叩いた。


「佐々倉くんの分もなんか買ってくるぜ、何がいい?」


 まじかこの人、男に対してもイケメンムーブなのか。一瞬きゅんとしたぞ。怖い。

 でも確かにちょうどコーヒーが欲しかったので、俺はポケットから財布を出した。


「あ、すみません……無糖のブラックコーヒーをお願いしてもいいですか? これお金です」

「いいって、ほら俺、先輩だし奢らせてくれ、さっきのフォローのお礼だ」


 そういうと宇和島先輩と黒木さんは会議室から出ていった。


 苦手のイケメンから、尊敬のイケメンへと評価をし直そう。うん。

 というか俺、いつ宇和島先輩をフォローしたのだろうか?


(だが、いまそれを考えている余裕はない)


 俺は一息つき、落ち着こうと周りを見た。


 会議室に残ったのは須山さんと先輩。

 須山さんはお菓子をつまみ、こちらの様子をにやにや見ている。


 先輩も大分落ち着いたらしく、バツの悪そうな表情でキャラシを見ている。

 その表情を見ればさすがに今回の件は、先輩の故意ではないと理解できる。


(だからこそ、ここはなんとかまとめないと……)


 とにかく俺はルールブックを開いた。

 世界設定の項目を確認し、とにかく使える設定がないか確認をする。


 解決すべき問題は二つ。

 ・盗賊の設定は先輩に渡すとして、そうなると盗賊退治は出来なくなる。よってこのシナリオで何をするか

 ・攻略するべきダンジョンはどうやって作り直すか。


 このシナリオで行うべきは盗賊退治であったが、まずはそれを破棄しよう。

 この際なんでもいい、変な捻りはなしのド定番の冒険、お使いクエストを遊んでもらう。

 内容は、猫探し? いや盗賊の親分がいるんだぞ、堂々と酒場でクエストだなんて、さすがにそれはない。

 もっとベターに……薬草採取か? 偽盗賊団の備蓄が切れたとかそんな感じで。


 ダンジョンはどうする?

 もう一度世界設定を確認をする。

 世界各地には魔物の住処となっている森があるらしい。

 これをダンジョンとして作れば……いやもうマップを作る時間がない。


 それに盗賊の御頭がプレイヤーだと、パーティメンバーとしてどうやって合流させればいいんだ?


「うぐぐ……」

「なんか、ごめんねサク君。義賊団のボスってことにしておけば相手に何か大切なものを奪われたとか因縁を付けやすいかなと思ったのだけど」

「奪う……」


 奪う。そう、奪うだ!

 俺はガバリとイスから立ち上がり、加美川先輩に向け声を上げた。


「先輩! さすがです。あの、さすがついでにお願いがあるのですが……」

「え?」


 目をぱちくりさせている先輩をよそに、俺は即席で考えたオープニングの仕掛けを話した。

 プレイヤーに進行の手伝いをお願いするのはなんだか掟破りな気がするが、この際だ。先輩も道連れにしてしまおう。うん、地獄に付き合ってもらうぞ。


「―――――と言う感じで行きたいんですが」


 俺の提案に先輩は邪悪な笑みを浮かべて、答えてくれた。


「分かったわ。それでいきましょう」

「お、なになに、あたしも一枚かませてよ」


 その後、会話に混ざってきた須山さんにも合流するためにやってほしいことを伝えた。


「なるほど、じゃあ、タイミングを合わせて登場するわ。あの二人め覚悟してなさい」


 先ほどの件を根に持っているのだろうか、こちらも先輩に負けず邪悪な笑みを浮かべ、俺の提案に了承してくれた。

 よし、これで合流問題は解決だ。たぶん。


 マップイベントは流用で対応。

 敵として出てくる盗賊は狼や巨大ネズミに変更、ボスは元データのゴーレムにすればいい。


「こ、これでなんとか、な……る?」


 頭から煙が出ているような気がする。

 しかしなんとかなった。

 何か不安要素があるが、もう見直す時間もないし、たぶん大丈夫だろう。


 あとは出たとこ勝負、俺の想像力がどこまでこのゲームとプレイヤーについていけているかだ。


 時計を見れば15分経っていた。

 ややあって飲み物を買いに出ていた二人が戻ってきた。


「ほい、お待たせ」


 宇和島先輩から頼んだ缶コーヒーが手渡される。


「ありがとうございます」

「いいって」


 フタを開けて一気に飲み干す。

 ブラックコーヒーは酸素を吸い味が変わる前に飲んでしまうのが一番美味しい。うん。


 カフェインが巡ってきたのか眠たげな視界がシャッキリしてきた。

 腕を持ち上げ、体を伸ばす。あー……背中が伸びて、少し視界がクリアになった感じがする。


「サク君、シナリオ大丈夫?」


 白々しくも先輩は邪悪な笑みを引っ込めて俺に声をかけた。

 いたずらを仕掛ける相手になるべく自然体を装うという腹なのだろう。

 でもね、目がめっちゃ泳いでますよ先輩。

 この人は本当に演技下手なんだろうな……


「はい。あとは出たとこ勝負かと」

「わかったわ。それじゃ再開しましょう」

「はい」


 加美川先輩の宣言でゲームが再開された。

 それじゃ、まずは、オープニングからだ。

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