第4話 プレイヤー紹介編
俺は窓の外を眺めた。今の時間は14時、外の気温は40℃に近い。
徹夜した体調のまま外に出れば、まず熱中症で倒れるだろう。
エアコンが効いているこの会議室はいつの間にか俺の逃亡を許さない檻のような役目を果たしていた。
加美川先輩……まさかここまで策略を練ってくるとは。
「……えー、なんですか、つまり加美川先輩が進行役をやろうとしたら思いの外うまくいかなかったので俺に白羽の矢が立ったということですか?」
俺が席に着くと、イケメンと、ゴスロリと、小動物系女子の三人は自らの紹介と、先輩がどうして俺をここに座らせたのかと簡単に説明してくれた。
どうやら前回のプレイは大分グダグダだったらしい。
「違うわよ。私もプレイヤーをやりたかったの」
ムっとした表情の先輩は否定しているが、俺は知っている。先輩の悪癖、弱点であろうその一つを。
「確かに先輩よく俺の苗字、噛みますからね」
「ほー、苗字、佐々倉だっけ?」
イケメンが話に乗ってくる。
確か、宇和島(うわじま)……先輩、だったか?
ナイスアシスト、俺はそれに乗っかり加美川先輩に話を振った。
「はい、そうです。それでは先輩、俺の苗字をどうそー」
「……………さ、さしゃくら君」
久しぶりに聞いた先輩の噛み噛みのマイ苗字を俺はかみしめた。
うむ、照れた感じも混ざりつつ、いい塩梅だ。心に染みる。
初めて自己紹介をした時はさしゃくらしゃく君って呼ばれたっけ……あれは衝撃だった。
「おぼえてなさいよ……!」
「はい、忘れました。それで進行役、GM(ゲームマスター)でしたっけ、それを俺に任せると、皆さんはいいんですか?」
突然の話ではあるが、他ならぬ先輩の頼みだし、今逃げ出したら二度と文芸部には入れないだろうし、そもそも今外出るのは命の保証がないので、俺は周りのメンバーに声をかけ、決めてもらうことにした。
できれば断ってくれると嬉しい。
「加美川さんから聞いているし、俺は賛成」
マクドナのシェイクを手に、賛成と手を挙げるイケメンこと宇和島(うわじま)ユウヤ先輩、彼は三年生演劇部の部員らしい。
髪の毛を無造作にあそばせ……いや遊ばせていない、俺の目はごまかせないぞ、アレは何か髪を固める油で作られた人造無造作ヘアーだ。
文化系の部活に所属しているのにスポーツマンのように引き締まった体をしている。その引き締まった体はスタイルに直結し、モデル体型……とはいかないけど、こいつはモテるだろうなぁと、同性の嫉妬とか殺意とかを誘いそうな人だ。
どうでもいいけど、声優レベルに声が良いので違和感が凄い。
格好はシンプルにジーンズと大円団と筆文字で書かれた面白Tシャツを着ている。出会いかたを間違えなければきっと仲良くなれたであろう。
「……わたしもOK。加美川先輩とのやり取り見ている限り問題ないと思う」
同じく賛成と手を挙げるゴスロリこと、黒木(くろき)スズネさんこと、ソウルネーム黒き欠如(ブラックラック)さん。
魂の病気を患い、それを隠しながら生活している元一般人、演劇部員の一年生。
見た感じこの席の中で一番背が低い女の子だ。なんだか設定が多いお年頃。
着こんだ正統ゴシックロリータ風の服のフリフリとした威圧が凄い。
きれいに切りそろえた前髪に、そしてきれいに伸ばしている後ろ髪、人形を思わせる整った顔に白い肌、その姿はだれが見ても美人に見えるだろう。
服との組み合わせが最高すぎて威圧感がマシマシだ。
だがしかし、その服この
コミュニケーションスタイルは受け身気味なのかこちらへのアクションが少ないので、正直距離感が分からない女の子だ。
「やー、何分あの加美川さんの隠し球でしょ? あたしはオッケーよ」
小動物系女子こと、須山(すやま)ライカさんがアイスを食べながら木のスプーンを持ち上げ賛成した。俺たちの学年ではかなりの有名人で、なんといっても高校入学半年で彼氏に弁当を作って持ってくるという、伝説の中庭イチャコラ事件の人だ。
この人のせいでうちの高校では一時女子生徒が彼氏に弁当作るのがブームになった。そして、ブームが落ち着くまで彼女のいない男子学生の昼休みは嫉妬と怨嗟の地獄と化した。いうなれば彼女は地獄の創造主だ。
見た目は自称伊達メガネがトレードマークのボブカット女子。
前二人のような奇抜な格好ではなく白いシャツの上に黒いキャミソールみたいなワンピースを着ている。
冷房よけだろうチェック柄の茶色いストールは割と暖かそうだ。くそっ俺は絶対に突っ込まないぞ。
「奇跡って起こらないから――――」
「ちょ、やめろぉ!」
「ほほう、この服装のネタを知ってらっしゃる」
なるほど。この人怖い。超怖い。
あとでじっくり話をしよう。主にゲーム話について。
「それじゃ賛成しかいないようだし、決定ね」
パンと手を叩き加美川先輩は決議をまとめた。
満場一致賛成可決。
どうやら加美川先輩と一緒に文芸部にいるという肩書は思いのほか効果があるようだ。
確かに作ったシナリオをほかの人物に任せて、先に帰ってしまうのも微妙ではある。
ましてや展開を知ったチート状態でプレイヤーとして参戦してもこの手のゲームは楽しくないだろう。俺ツエェェェは嫌いじゃないが、ルート回収するため以外のチートは嫌いなのだ。
だとすると、ここはやはり先輩の企てに乗っかったほうが楽しいのかもしれない。
「……分かりました、先輩。不肖この佐々倉サク、進行役やらせてもらいます」
「よろしくね。ありがとうサク君」
ニコリと花が咲くように笑う先輩。
俺は少し照れ臭くなってそっぽを向いた。
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