第2話 シナリオ夜話

 今日の部活動が終了し、自宅に戻った俺は早速、先輩が頼んできたシナリオ作りに取り掛かることにした。


「さてと、と」


 六畳ほどの広さの俺の部屋は、パソコン置き場と化した学習机と、ベッド、パソコンを冷やす用の扇風機、あとは床にばらまかれた漫画と小説で出来た海で構成されている。


 世間一般からは汚部屋というらしいが、俺としてはこれが最適解なのだ。


(やってみますか)


 本を足で退かしながら扇風機を回し、机の5割を占拠する自作の魔改造パソコンを立ち上げ、椅子に座り、先輩から渡されたルールブックを開いた。


 ルコアル精霊譚と書かれた文庫本には簡単な世界設定とキャラクターの制作ルール、出てくるモンスターのステータスや装備や道具のデータ、戦闘や探索に必要な行動のルールなどが記載されている。


(……これ一日で覚えろってまず無理だよな。とりあえず付箋を貼っておこう)


 睡眠時間をギリギリまで削る作業になりそうなので、なるべく細かい時間のロスは減らした方がいい。


 俺は机の引き戸から細い付箋を取り出し、インデックス代わりにルールブックに貼りつけた。


 これで必要な情報を素早く引き出せるだろう。


「とりあえず、盗賊を退治するって流れなんだから、盗賊を退治しに行く大筋の流れを組んで締めを決めて、ボスや雑魚の情報を用意してぐらいでいっか」


 念のため、文庫本の最後に載っていたサンプルのシナリオを見てみるとだいたい当たりをつけた通り、敵の情報とシナリオという名の大筋がかかれたプロットのようなものが書かれていた。


 TRPGは人対ソフトではなく人対人、会話をしながら進めていくゲームらしいのでその性質上、きっちりシナリオを書くより、緩く書いた方がいいのだろう。

第一きっちりまとめていたら今は間に合わない。


(とにかく、敵の情報集めるところから手をつけてみよう)


 ぺらぺらとめぼしい敵キャラがいないか情報を探っていく。


(最初のレベルで倒せる敵って分類がある……狼、巨大ネズミ、なるほどオススメボスはゴーレムか、それじゃこのデータを使うか)


 メモ帳を立ち上げ、必要な情報を打ち込んでいく。

楽できる部分は楽をさせてもらおう。


 そのままゴーレムでは盗賊退治というシナリオが迷走しそうなので、描写を盗賊の親分に変えておく。


(なんか他の敵と比べると防御力が高いな……まあ、高級な防具で身を固めているってことでいっか)


 ボスを決めたら、次はマップ。

 初めての探索で勝手がわからないのでサンプルのシナリオに目を通す。


 どうやら10フロアぐらいが目安らしいので、10個ほどトラップやアイテム獲得のイベントを決めておく。

 フロアごとに何がイベントが有れば探索も楽しいだろう。


(住居兼アジトなら罠は侵入者を知らせるトラップがメインでいいかな。あ、でも一応タライが落ちるトラップでも仕掛けておくか。いや、それだったらーー)


 マップを作り始めるとこの部屋はどの役割の部屋なのかとか、細かい設定をちょこちょこ書いてしまうのがゲームクリエイターの性質。


 俺は初めてのマップ作りに一人で大いに盛り上がり、おかげで時間を大分使ってしまった。


 しばらくしてマップが出来上がった。キリがよくなったので背中を伸ばし一息つくと、パソコンの時計の日付が土曜になっていた。


(ま、まずい……もう2時じゃないか……。ああ、でも、あとは導入とエンディングかー、あともうちょい)


 とりあえず始まりは捻(ひね)らず4人が集まって大きな町で依頼を受けるということにしておこうとメモ帳に記す。


 こういう物は変に捻っても独りよがりになってしまうから難しい。

 本当なら異世界転生者とかこっちの指示で主人公たちの個性や因縁を決めたいところだが、今回は時間がないのでそれはなしだ。


「最後はエンディングかー……盗賊のボスを倒したら盗賊のボスに困らされていた村人に報酬をもらうとかだよなぁ。無事初めての依頼をクリアできました。めでたしでございます、と。……いや、そもそもなんで村人と盗賊が敵対していたんだ? それならば、盗賊団には真の目的があってそれを主人公たちがうっかり阻止してしまった。のほうが話が広がるんじゃないか?」


 うっかり楽しくなってしまった。


 ならば、それを匂わせるためにマップに本棚を設置し、頭の良さそうな本をおいて、彼らは盗賊団の振りをした別の目的をもった組織という伏線を置いてもいいし、ボスの装備以外にも盗賊団の装備を多少豪華に描写を加えてもいい。


 面白いように筆が乗り、爆速でタイピングを打ち込むこと2時間。シナリオの大まかな流れができたので、読み返すと、18kbほどの文章メモが出来上がっていた。

TRPGのシナリオというのは初めてだが、文庫本の後ろに掲載されていたサンプルシナリオと大体同じぐらいの文量だ。


 気がつけば時刻は4時を回りあと少しで5時になろうとしている。

 できたシナリオは明日10時に待ち合わせの、加美川先輩に渡す予定だ。


 さすがに睡眠時間は3時間は確保しないと今日の活動に無理が出るだろう。

 俺はメモ帳をUSBメモリーに保存し、ついでにスマホと連動しているクラウドに上げ、同期したことを確認した後、ベッドで横になった。


(そういえば、シナリオを作ってきてくれと言われたけど、誰が進行役をやるんだろう……ふぁぁ、明日先輩に聞いてみるかー)


 そうして俺は今日の待ち合わせに備えて、目を閉じた。

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