第$”話
翌日の学校で、昼休みに颯の教室に海斗が突撃してきた。
「どうした海斗」
「別にどうってことはないんだけど、とりあえず遊びに来た」
「帰れ」
「ひどくない!?」
うちの学校は他クラス進入禁止などというルールはないので、海斗がこのクラスにいることを咎められることはない。まあ他のクラスの奴が馬鹿騒ぎしていたら冷たい視線で見られるこ方がは変わりがないので、無駄に騒ぐだけであれば今すぐ教室から退去してほしいのだが。
「話があれば場所移すかとでも思ったんだがな」
「え、マジで?お前そんな優しいキャラだったっけ?」
「……お前って奴は」
「ごめんって。そんな怖い顔しないでよ」
軽く睨みつけると海斗はすまなそうに手を合わせた。
普段おちゃらけているが、別に悪い奴ではない。もう少し誠実さを見せれば里奈だって振り向いてくれると思うのだが。
自分は良く鈍感と言われるが、里奈と海斗の方が鈍感だと思う。二人はまだ恋愛を認識していないのでクラスメイト達から見守られるようなことはないのだが、似た者同士なことが原因で何せ距離が近いのだった。
とまあ、いつものグループの中で現在恋愛面で切羽詰まっているとすれば自分ぐらいになってしまった。少し前まではイノも仲間だったのに、いつの間にか取り残されている。
「なんだ、悩みごとかー?」
思わず溜息をつくと海斗がにやにやと笑う。どうせ颯が何を考えているかぐらいは分かっているくせに。
「別に。どうすっかなって思ってただけだよ」
「それを世間じゃ悩んでるっていうんだぞ」
「いちいち言動が癪だな」
「え、私そんなこと言わないでほしいなー」
わざわざ海斗がきゅるきゅるとした声を上げ、体をくねらせる。目に入れていたくなくて視線を逸らすと、海斗が声を上げて笑った。
確かに、颯の今の状態は悩んでいると言って間違いないだろう。叶に告白するとしたらどうするか、という悩みだ。
「ん、俺は屋上がいいと思うなー」
「ナチュラルに考えていることを読むな。なぜわかった」
っていうか屋上はないだろ、と零すと海斗は目に見えて落ち込んだ。屋上はこの学校立ち入り禁止だし、まず屋上に行って告白できるような余裕のあるほど、学校の時間割はルーズにできていない。もしいけるとして、人の目もあるわけなのだから。
「叶と颯の距離が前よりも近づいてってるのは言わずもがなだから、今悩むとすればどうやって告白するかかなーと思って」
「……間違ってないのが悔しい」
「だてに友人やってるわけじゃないからねー」
本当に、どうしようか。
そもそも彼女からOKもらえるのかどうかという不安ももちろんあって、自分が思い上がっているだけではないかと胃が痛い。
今までの自分を思い返すと、どうしても後悔が先立った。真っすぐ叶と向き合おうともせず、只々自分に向けられる諸々の感情から目を逸らすだけだった。
自分がそんな性格になってしまったのは、……あのときからか。
………
……
…
小学生の後半の時、まだ俺は純粋だった。人の感情を疑うということをせず、ただただ楽しく笑っているだけだった。
だからこそ付け込まれるようなことがあったのだろう。いつの間にか便利な道具として使われていることにも気付かずに、友人たちの指示に従って自分を殺して。みんなが楽しそうだからこれが楽しいことなんだと無理やりに自分を納得させてずっと生きていた。
まあ、ありきたりな話だ。俺にも至らない部分があり、相手はそこに付け込み、その結果俺が対人恐怖症になったというだけという話。
それだけの話だというのに、なんとなく自分が都合よく扱われていることを悟ったときの衝撃は相当のものだった。泣きもしたし、家に引きこもりもした。自分としては長い間ずっと一緒に居た友人のつもりだったんだが。
今思い出すだけでも、恥ずかしいというか悲しいというか。
唯一の救いは、そんな俺の様子に気が付いてくれる人がいたということだろう。両親や紅葉家のみんなだった。特に叶は凄い心配してくれたし、沈み込んでいる俺のことを励まそうと必死になってくれた。
こうして俺の性格は淡白になったものの、叶のお陰でかなり立ち直れた。
本当に、彼女のお陰で助かった。あのときは───………
…
……
………
「颯、聞いてるか?」
海斗に顔を覗き込まれて思考を中断する。「ごめん、考え事してた」と謝ると素直に受け取ってくれ、彼は話を再開した。
「告白するの近々ってことでいいのか?」
「まあ、勇気が付けば」
「じゃあ、当分先ってことだな」
「近々」
「一週間ぐらい?」
「………一か月」
「一週間だな」
「……わかった」
海斗は何気に俺のことを心配してくれていたらしい。余計な気を遣うなといつもは思うところだが、もうこの段階までくると気持ちの整理をつけやすくてありがたい。
本当に、踏み切った判断が取れない自分が嫌になる。
幼馴染に好きな男子が出来たらしい 二歳児 @annkoromottimoti
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