彼女がどっか行った。

谷山あず

序章

「眠た。」


けたたましいアラームの音で朦朧とした意識は少しずつはっきりしていく。


9月16日午前7時半。スマホのホーム画面を眺めて訳もなく憂鬱な気分になる。これだけ寝られれば十分だと考えていた頃は遠い昔で、眠れない日々が続くと睡眠時間なんて関係のないようなものだ。夏休みの余韻も少しずつ薄らいでいき、あれだけクラスメイトと会うのを楽しみにしていた学校もそろそろ面倒になってきた。


2週間前の今日、胸を躍らせて行った休暇明け初の学校に一つだけ足りないものがあった。千紗がいない。


元々休みがちな彼女なこともあり始めは、「タイミング悪く体調壊しやがって」程度にしか気にしてはいなかったが、どうも数日経ってもなかなか登校しない。担任もそのことについて言及しないということは、無事ではあるが何か深いわけがあるのだろう。


「んじゃ明日の学校で」


このLINEを最後に連絡もつかないまま今日に至る。

ここ2週間そのことが頭から離れず何をするにも手につかない。いくらマンネリし始めていたカップルとはいえ彼女が急にいなくなったらメンタルに来るものである。



「あ、さ、ご、は、ん!」


自室のドアの外から母親の野獣のような怒号が聞こえてくる。

遅刻遅刻。今はそんなこと考えている暇はない。クローゼットからしわのついた制服を引っ張り出し袖を通す。ドアノブに手をかけ今日も何気ない、しかしどこか物足りない日常への一歩を踏み出す。









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