999人パーティの999人目の俺、パーティから抜けたら覚醒した。

杏里アル

第1話

「お前いい加減にしろよ」


 突然、男に首を掴まれそう言われた。


「さっきから魔法も剣も構えねえ、お前何しにこのパーティに来てんだ?」


 何しにって……冒険しに来てるのですが。

 それに一列になって999人の大所帯で歩いているんだ。

 俺が魔物と戦える訳もなく、ボスがいても出番が回ってこないだろ


「そういう意識の低い奴はいても邪魔なんだよ、消えろ」


 998人目の男にそう言われる

 お前だって剣構えるだけで何もしてないだろ

 この前だってダンジョンに入ろうとしたら300人ぐらいしか入れなくて

 後は大行列が出来ていたぞ、そんな状況で意識も何も無くないか?


「あの、喧嘩はやめましょうよ!」


 997人目のピンク色のサイドテールをした、

 エルフの女の子が男を制止しようと叫ぶ。

 名前は……なんだっけ、ミスティアだったっけ?

 あんまり前の人達と喋った事がないからわからない。


「なんだお前、こいつの肩を持つってのか?」


「これだけ人数が多いんです、退屈になるのは仕方ないと思います!」


 そもそもなんで俺が999人目の最後尾を歩いているかと言うと、

 この列で一番弱いからだ。そう、このパーティは強い順で並んでいる


 当然1人目が一番強いという事になり、

 つまり今、俺に対して説教しているこの男も俺より強いってだけで、

 全体を通して見れば下から数えた方が早いのだ。


 まあいいか、元々俺1人抜けても魔王は倒せるだろう

 このまま着いていったところで、この998人目の男に説教されるのがオチだ。


「(このパーティで頑張ってくれ、一番弱くなった男よ)」


 俺は歩いている列から反対方向に歩く、

 男からは罵声が聞こえたが、無視無視。

 どうせ俺が抜けても引き留める人なんて1人もいないだろう。

 せいぜい「1人足りなくない?」で話題は終わるはずだ。


「あの~!」


 振り返るとさっきの女の子、ミスティアが

 自分の身長より長い杖を持ちながらたどたどしい足取りで歩いてきた

 俺に何の用だろう?

 あっ、転んだ。


「大丈夫?」


「大丈夫じゃないです……」


 ミスティアが顔を上げると鼻血が出ながら泣きそうな顔をしていた。

 とりあえずポケットに布があったので手渡すと、


「ありがとうございます! あの、パーティ抜けちゃうんですか?」


「うん、俺がいなくても別に変わらないかなって」


「それだったら私もやる事無かったので、よかったらパーティ組みませんか?」


 別に構わないんだけど女の子と2人っきりってのも気まずいなあ

 とりあえず街に帰るか、今から急いでダンジョンに行っても意味がないだろう

 魔物と戦ってる時に997人が後から入ってきて出られなくなるだけだ。


「とりあえず帰ろうか」


「あ、でしたら他のダンジョンへ行きませんか?」


「別にいいけど、俺でいいの?」


「はい! 私はミスティアと申します!」


「俺はアプロプリエイト、長いからアプロでいいよ」


「アプロさんですね! よろしくです!」


 ミスティアはピョンピョンと跳ねると、

 嬉しそうにダンジョンの方向を指差して歩き始めた。

 元気な子だなあ。


「ここが駆け出し冒険者用のダンジョンです!」


 中から「はあ!」とか「そりゃあああ!!」と叫び声が聞こえる

 既に先客がいるのか、でも他にダンジョンも無さそうだし、別にいいか


「ここにしようか」


「はい!」


 中へ入ると400人ぐらいの冒険者達が、

 大きな場所で魔物と大乱闘を繰り広げていた。


「うーんここも人が多いなあ」


「今冒険者ブームですもんね、まともに街で働く人なんて全世界の1割ぐらいだそうですよ」


 そう、ここ最近街の人と比べると、

 冒険者の割合が非常に増えた。

 全世界で60億人近くの冒険者がいるらしい

 まったく、凄い時代になったもんだ


 ちなみに若者に今何になりたい?

 と、尋ねると当然、返ってくるのは冒険者。


 一番なりたくないのはどうやら農民だそうだ

 理由としては、畑なんてやっててつまらないと

 みんな口を揃えて言う


 うーん、やればわかるけど農業は冒険者より

 奥が深いんだけどな。


「うおお!! ボスが現れたぞ!!」


 奥の方で声が聞こえる

 勝てないと判断したのか数百人が叫びながら、

 一斉に入り口の方へ逃げて行くと、

 穴は塞がってしまい、俺達の逃げ場所は無くなってしまう


 というか、ちゃんと考えて中に入れば良かったな

 これじゃ戦うしか方法は無くなってしまった。


「グオオオッ!!」


 大きい人型の魔物がこん棒のようなモノを振り回すと、

 近くにいた百人の冒険者達は吹き飛ばされる

 弱い、あれは敵も倒してて気持ちよくなっているだろう。


「ど、どうしましょう!? アプロさん!!」


 慌てながら困った顔を向けるミスティア

 うーん、俺達弱いからなあ

 あれだけの人数がゴミのように扱われてるんだ。

 当然、勝てる訳がないだろう。


 かと言ってあんなに人が詰まっていたら逃げれないしな

 どうしようかと考えていると、入り口近くにいた男が、

 俺とミスティアを見て驚いた顔で指を差した。


「あ、あんたその紋章! 伝説の999人パーティの人か!?」

「なんだって!」

「世界最強999人パーティの人がいるのか!?」


 元です、あと999人目と997人目ですけどね。


「あんたらなら余裕だろ! 早く被害が増える前にアイツを倒してくれ!!」


 と言われましても。


「アプロさん! こうなったら戦いましょう!!」


 ミスティアは杖を構えて魔法を詠唱すると、

 先端から硬い玉のような物体が3発、魔物に当たる

 ここで撃つのはよくなかったかもな。


「グオオオオッ!!」


「ひええええええっ!!」


 目の前の状況に驚いたミスティア。

 魔物は咆哮した後、こちらへ走って向かってきた。

 やっぱり撃ったのはまずかったよな、完全に怒ってるし。

 仕方ない、やるだけやってみるか。


 駆け出しダンジョンのボスだ、

 ひょっとしたら俺でも勝てるかも知れない


 一歩、二歩と魔物は両足を動かして距離を詰める。

 俺は目を閉じて、刀を抜く事だけに集中した。

 剣の間合いを頭の中で描き、そこに魔物の足が触れた今――。


 ズウァッン!!


 ……ゆっくりと目を開ける。

 魔物は上半身が無くなっており、

 どうやら吹き飛んでしまったらしい。


 あれ、でも俺ってこんなに強かったっけ……?

 確かに俺は魔王を倒せるほどの力を持った999人のパーティにいたが、

 一番弱いんだぞ、実力で言うと駆け出し冒険者より、ちょっと毛が生えた程度だ。


「はっ……はわわわわっ」


 凄い光景を見てしまったと言わんばかりに

 ミスティアが地面にへたり込み、

 魚みたいに口をパクパクしている。


 俺も信じられない顔で自分の両手を見てみるが、

 これって999人目のパーティから抜けたから、

 真の実力が解放されたんだろうか?


 確かめてみる必要があるな……。


「あの、誰かパーティ組みませんか?」


「うおおおおおおおおっ!!」

「これが最強999人パーティの実力者なのか!?」


 なんかもう祭りのように数百人以上の騒ぎ声が聞こえた

 洞窟の中だし音が反響してうるさい。


「いやあの、パーティを」


「今のどうやったんだ!!」

「やっぱり999人のパーティメンバーは違うな!!」


 もういいや勝手に登録していくか、

 えーっと、ゴンザレス、アルフレッド、ルイージディサヴォイアドゥーカデッリアブルッツィ

 こいつ名前長過ぎだろ、他の人が入らなくなるし消しておこう。


 片っ端から一方的に登録し、魔法を唱えると

 俺のパーティカードは入りきらないほどの名前で埋まる。


 ブンッ、ともう一回剣を振ってみた


 ヘニャ


 なんだか力ない音が聞こえた。

 もう一回振ってみよう


 ブンッ


 ヘニャ


 ブンッ


 ヘニャ


 なるほど、一回全員とパーティ解除してみるか、

 詠唱し、指でパーティカードをなぞると名前は一瞬で消えていく

 これで剣を振ってみるか


 ブンッ


 ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!


「うわあアアアッ!!」


「あっ……」


 近くで剣を振ると、

 竜巻のような強い風が飛び散るように全方向へ舞ってしまい、

 爆音と同時に俺の近くで騒いでいた人達は全員吹き飛んでしまった。


「あわわわわっ……耳がキーンッと……」


 運良く飛ばされなかったのか、

 カタカタと手で耳を塞ぎながらへたり込んでいるミスティア

 とりあえず、ミスティアだけパーティとして再登録しておくか。


「あ……あの……」


「信じられないが、どうやら俺はパーティの人数分だけ弱くなっていたらしい」


「そんな事って……!!」


「原理は俺もよくわからない」


 999人のパーティを抜けた事で、

 998人分弱くなっていた力を取り戻した。

 いや、ミスティアだけ着いてきてくれたから997人分か。


「入り口もさっきので空いてくれたし、とりあえず外に出るか」


「はっ、はい」


 あ、忘れてた。

 ついでに怪我してた人達も治しておこう。

 さっき剣を振ってあれぐらいの威力だったから当然――


「キュアヒール」


 洞窟全てが綠色に染まった。

 やっぱり……とんでもない力だなこれ。


 チラリとミスティアを見る

 ミスティアはまた信じられないという顔をしていた

 正直今でも俺は信じられないけど、これならこれで便利だしいいか。


 さて、無事ボスを倒したのは良かったけど、これからどうしようか?

 俺はミスティアに行き先を尋ねると、


「さっきの999人で向かっていたダンジョンはどうでしょう? その力があれば1人で余裕だと思います!」


 グッと両手を前に出して「ふふーん」とした顔で話すミスティア

 そうだな、と俺は返事をして、

 ムカつく男と996人が向かったダンジョンへ向かってみた。


「うわああああああ!!」


 ダンジョンの外を眺めていると、

 1人、2人と次々に逃げ出すように出てくる

 一体どうしたと言うのだろう?


「10年に1匹産まれるという伝説の竜、オクチャブリスカヤ・レヴォリューツィヤだ!」


 名前長いな。


「みんな逃げろーっ!!」


 その瞬間、爆発音と共にダンジョンから竜が飛び出した。

 口には人間数十人をくわえ、ペッと吐き出すと、

 冒険者達は雪のように地面へポタポタと落ちていく


「あっ! お前は!!」


 逃げながら俺を見つけると、

 あの説教垂れていた男は立ち止まった。


「お前確か全体範囲のヒール使えたよな!? みんな手を怪我したんだ!! 魔力の続く限り癒やしてやってくれ!!」


「えっ、他のパーティメンバーも使えるだろ?」


「それがさっき竜にくわえられていた奴等なんだよ!!」


「マジか」


 俺の返事を待たずに男は勝手に詠唱を始めると、

 パーティカードに997人の名前が登録される。

 これはまずいな、相当弱いヒールになるぞ。


「早くしろ!! ノロマが!!」

「頼む! ヒールを!!」

「THIS TEAM...」


 数百人から罵声を浴びられる

 なんで文句言われながら俺がヒールしてあげなければいけないんだろう。

 まあさっさとパーティ解除してもらうか、状況が危ういしな。


「キュアヒール」


 手より小さい綠色の光が出た。


「なんだそのヒールはよ!!」

「こいつ後ろの列から数えた方が早い奴だろ!! 死ね!!」

「OH GG」


 勝手に入っておいて随分と言いたい放題だなおい。

 チラリとパーティカードを見るともう998人が抜けていた。

 いや、ミスティアだけの名前が残っているから、997人か。


「ああああもう終わりだあ!!」

「助けてくれええ!!!」


 大勢が悲鳴をあげたからか、竜はこちらに気付くと、

 口を開きこちらへ向かってきた。

 数百人はうずくまった状態でカタカタと震えるが、


 俺とミスティアだけは立ったまま竜を見つめていた。


「アプロさん! やっちゃってください!」


「ああ、耳塞いでろミスティア」


「はい!!」


 この力なら多分、勝てる気がする。

 確信はないけど……。


 とりあえず俺はブンッと剣を一振りした――。


       ◇    ◇    ◇


「なっ……」


 男が先程のミスティアのようにへたり込む

 口を見ると魚のようにパクパクしていた、いい気味だ。


「お前……!!」


 俺が剣を振った瞬間、

 伝説とやらの竜は吹き飛び、

 ヒョロヒョロと遠くの海に落ちるのが見えた。


 先程罵声を浴びせていた奴等は信じられないと言った顔で、

 数百人が俺を見る、それにしてもこんなに力が変わるとは……


「あ、アプロさん……やっぱり凄い!! 伝説の竜を一撃で……!!」


 ウサギのように跳ねながら喜ぶミスティア

 今度は俺がこの男に説教垂れる番でいいんだよな?

 男は落ち着いたのか、立ち上がり俺と目を合わせると、


「なんなんだお前!! その強さは!?」


「うーん、パーティ抜けたらこうなった」


「どういう事なんだよ!!」


「いや……それが俺にもわからないんだ」


「はあああ!?」


 しかしそれ以上に説明がつかない。

 俺は男の質問攻めに淡々と答えていると、


 パチッ、パチッ


 遠くから一定のリズムで拍手をしながら、

 1人の騎士らしき男が歩いてこちらへ向かってきた。


「さっきの竜を倒したのは君か? 凄い力だ……一体どこのパーティだい?」


 俺は倒れていた数百人を指で差す

 すると、騎士は「なんだって」と驚いた顔で、


「君がいるなら大戦力だ! なんだったら僕と代わって1番前でもいい!!」


「いや、もうパーティはお断りします」


「ど、どうしてだい!? このパーティは世界最強に近いパーティなんだぞ!! 富、名誉だって……何でも手に入れられるんだ、それなのに何故!?」


 そうだな、それは俺が元パーティメンバーだったからそれは間違い無い。

 でももうこのパーティに興味もないし、入る必要もなくなった。


「(俺は……)」


 ダラダラ好きに生きてみようと思う。

 魔王はどうせ、こいつらが倒せるだろうしな。


「パーティ入ると俺、弱体化するんでもう関わらないでください」


「そ、そんな……!!」


 そう言って振り返り俺は歩を進めた。

 追いかけるように後ろからミスティアは、


「待ってくださいー! 私も、私も一緒に……あっ!!」


 大声をあげながらミスティアは転んだ。

 そういやパーティ登録したまんまだったな。


「はい布」


「どうもです……」


 フキフキと鼻から出た血を拭き取るミスティア


「これからどこに行くんです?」


 ミスティアが尋ねる

 そうだな、とりあえず――


「街で少人数のパーティでも作ろうか、今度は気の合う人達で」


「はっ……はいっ!」


 勇者アプロ、魔法使いミスティア、

 彼らが世界最強パーティを越える力を持った、


 伝説の4人パーティと呼ばれるのはまだまだ先のお話である……。







 【999人パーティの999人目の俺、パーティから抜けたら覚醒した。】

 おわり。

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999人パーティの999人目の俺、パーティから抜けたら覚醒した。 杏里アル @anriaru

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