4.焦りの対価

レポートを忘れ、オマケにお弁当を忘れた勇人は昼休みの時間に学校を出て近くの店で昼食を買うことにした。

本当は下校時間までは学校の敷地外は出てはいけないのだが、校則が緩いため今の勇人の行動も見逃してくれている。

『コンビニでも行く?』

勇人にそんな言葉が聞こえた。確かにコンビニなら学校から見える距離にある。だが...

「いや...今金欠だからさ。スーパーにでも行くわ」

『ここからスーパーってどれくらい?』

「10分ぐらいかなぁ」

昼休みは約1時間。十分に間に合うだろう。

『いや〜、お弁当を忘れるなんて流石イサトだよね』

「なんでそんなに長い付き合いのある友人みたいな喋り方なんだ?昨日買ったばかりだろ」

『いいじゃん。友情に年月とか関係ないよー』

「あるわ」

2人で会話しているうちにあっという間にスーパーに付く。

スーパーに入り、奥まで歩いてお弁当の置いてあるコーナーを目指す。

「うーん、あんまコンビニと変わらない...?」

どんなに安いといえども350円は超えてくる。よくよく考えてみると弁当を買うのにスーパーとコンビニではあまり変わらないのではないか。

そういった思考が頭をよぎるが来てしまったものは仕方がない。適当に弁当を選んで買うことにした。

「時間あるかなぁ」

ここまで来るのに10分なので単純計算で往復20分。少なくとも30分はあるだろう。

『じゃあ大丈夫だね』

勇人は弁当を買い、店を出た。

彼自身はその時の違和感に気づかなかった。

『...イサト』

「うん?」

『後ろに人の気配がするよ。1人...いや、2人かな』

「え、そりゃあ人ぐらいいるでしょ」

そんな勇人の呑気な発言にビー玉は『はあ...』とため息をつく。息をしているかは謎だが。

『つけられてるってことだよ、イサト』

「つける?なんのために?」

『走って、ほら早く』

珍しく少し焦る口調で勇人に逃げるよう促すビー玉。その異様な雰囲気を感じ取った勇人は人通りの多い大通りへ走った。


「ここまで来たら...いいか...?」

少し息を切らした勇人がビー玉にそう質問した。

『うん、いいと思うよ』

周りを見るが、これといって不審な人物は見つからない。というか、これだけ人が多い大通りだ。この中に殺人鬼やテロリストが混じっていようが気づけるはずがない。

「で、なんで人なんてつけてきてたんだ?」

『さあ、ボクにはわかりかねるね。ただのボクの杞憂だったかもしれないし』

「...まあ、そうだといいな」

そう返す勇人。この会話に不吉な予感がしたため、あまり深掘りはしないことにした。


「よう、勇人。なんだ?抜け出してきたのか?」

からかうように大きな声で質問してきた柊羽にこちらの調子が崩される。

「おい、そんなでかい声で言うなよ...。あんま大っぴらにしていい事でもないんだぞ?」

「あれ?なんか元気ない感じ?」

柊羽に痛いところを突かれる。顔に出ていたのだろうか。

「いや、別に。ただ少し走ったから疲れただけ。」

「なんだよ、だらしないなぁ」

「しょうがないだろ、休日は家にいる系男子なんだからさ」

実際にそうだ。勇人は中学の頃の部活を辞めてから一向に運動をすることをやめてしまった。久々の運動に一気に疲労が溜まったのだろう。

「駅前のジムでも行ったらどうだ?」

少し嘲るような言い方をされた。

「おいおい、あそこの客の平均年齢多分60歳超えてるよ?」

「いいハンデだろ」

「なんでだよ」

そんな会話をしている勇人たちに近づく人影が1つ。

「お、イタイタ」

「あ、加羅波からばじゃん」

この男の名は加羅波瞬からばしゅん。勇人から見たクラス最高水準のぼっちだ。

あまりにも可哀想だったため、ひと月程前に声をかけたら、お昼ご飯ぐらいは一緒に食べる仲になった。

「キミたち、擬態しててなかなかみつからなイ」

「そうか?」

擬態というほどのカメレオンのような能力はあいにく持ち合わせていない。勇人には加羅波の言っていることがイマイチよくわからなかった。

「ダッテ、皆同じ服着てるじゃン。わかるハズナイ。」

「いや制服だしな?」

どうやら加羅波の人を認識する能力は著しく低いらしい。

「おなかすいタ。はやくご飯たべヨ」

「おう、そうすっか」

時間もあまり無い。勇人たちは早急にお昼ご飯を食べ始めた。


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波乱の1日(?)も終わり、自宅に帰宅した勇人は帰って宿題をしていた。しかし、なかなか勉強の方に集中出来ず、本棚から漫画本を取り出しては「いかんいかん」と自らを戒め、また勉強に専念する、ということを繰り返していた。それには理由があり――

『ねぇ、もう少し落ち着いて勉強できないの?別にソワソワすることなんて何も無いじゃん』

「いやだって、あと1時間でツミドラっていうスマホゲームのハロウィンイベントが始まるんだぞ?ソワソワしちゃうだろ」

詰み将棋―vs龍編―、略してツミドラ。それは現代社会に欠かせないスマートフォン向けのゲーム会社FUTAMIが提供してるアプリ、「詰み将棋」という人気シリーズである。

『へぇ、詰将棋得意なんだ?ちょっと一緒にやらない?』

「いやどうやるんだよ。ていうか"つめ"じゃなくて"つみ"な。」

『つ...つみしょうぎ?』

「そうだ。そこんとこよろしく」

ツミドラガチ勢である勇人は無課金で半年以上続けている。だから珍しくビー玉に対して押し気味になる。

『なんかイサトが積極的できもい』

「いいじゃねぇか。いいぞぉ、ツミドラ。っとと、宿題しないとな」

腐っても難関高校の生徒。そんな話をしながらも真面目に宿題だけは続けていた。

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所詮ビー玉。されどビー玉。 とりぷしん @toripushin

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