第86話 エクスカリバー・リュミエール
ジークの腰の辺りから伸びる根は、俺の腰から身体へ魔力を送り込む。禍々しく粘度の高さを感じる魔力、身体の内側から焼き焦がされているような気分になる。その熱さに負けじと歯を食いしばり、グシオンの演算へと回す。全身が発熱するのを感じる。恐らく、長くはもたない。
「ふっ、強がるな。貴様如きに俺の苦しみを飲み干せるわけがない。」
「ははっ……確かにもう満腹だ……。」
「口だけは達者だな。」
吐き捨てるように言うと、ジークは刺さった根を引き抜き、握りつぶした。残った傷口も跡形もなく消え去っていく。
「くだらん。」
振られた剣を目で追うことはできず、気づいた時には首から赤い血が噴き出していた。
首に深々と刺さった剣。普通の生命体であれば絶命する傷。決着はついたかのように見えた。が、しかし。目の前の青年は特異な力を持っていた。
「くだらなくて悪い。残念ながらこれしか戦い方を知らなくてな。」
地中から飛び出した無数の根がジークに突き刺さり、その動きを止め、魔力を吸い取っていた。そして、青年の腕もまた特殊だった。切断され、見た目こそ似ているが、人間のそれと異なるものと化した異形の腕は、変形が可能だった。
再生し、伸ばした腕が巻き付き、ジークの両腕を拘束する。拘束場所から根を伸ばし、ジークの身体から魔力を吸い取っていく。
「小細工を……!!」
「抜け出せない……だろ?」
ジークの魔力に負けて次々に根や腕がしおれていく。しかし、すぐにジークの魔力で補強され、傷ついた部分がすぐに治っていく。これで時間は稼ぎ放題……と言いたいところだが。この疑似永久機関は俺の身体が壊れれば終わってしまう。
(ザッキー、そろそろ脳焼き切れちゃうけど。)
(今、何分経った!?)
(もうひと踏ん張り、だよ。あと一分くらい。)
(相手に奥の手がない限りは何とかなる……か。)
顔には出していないはずだったが、ジークの顔が不愉快そうに歪む。
「その程度の念話が俺に読めていないとでも思ったか?」
「盗み聞きとか……趣味悪いと思いますけど…………ね。」
「はっ。貴様の遊びに付き合うのはもう終わりだ。」
マンドラゴラによる制止を振り切り、ジークの腕が自身の胸へと吸い込まれる。心臓を潰すように握りしめた掌から、暗い黒さの煙が漏れ出してくる。
「――受けよ、我が身に満ちる呪い。人が辿り着けぬ奈落へ貴様らを導こう。」
拘束していた根が焼け落ち、ジークの姿がぶれ、バハムートの姿へと変わっていく――――かに思えたが。
「そうは問屋が卸さない――あの馬鹿ならきっとそう言うわ。」
聞き覚えのある声と共に、玉座の天井に巨大な魔法陣が浮かび上がる。そこからあふれ出した光は粒子となり、俺達を取り囲んでいく。
その効果が出ていたのは、ジークの方だった。巨大な竜へと変化しつつあった身体に光が鎖のように巻き付き、動きが止まる。それだけではなく、元の人間の姿へと戻りつつもある。
「この声……モモかっ!!余計な真似をっ!!」
魔法陣による拘束を解こうと抗うジーク。人間の姿には戻ったものの、拘束を解くと、天井の魔法陣へと手を伸ばす。その瞬間、ジークの意識が俺から離れる。この好機を逃すわけにはいかなかった。血が滲み、霞む目を見開き、ジークに向けた両手に意識を向け、叫ぶ。
「レイ、準備はいいな!!」
幾本もの根が再びジークを拘束する。光の効力もあるのか、ジークは抜け出せない。俺の視界も赤く染まり、意識が途絶える。
床へと倒れ込んだ俺の耳に聞こえたのは、勇ましい勇者の声だった。
「あぁ。ここで貴君に終止符を打とう、エクスカリバー・リュミエール!!!!」
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