第84話 勇者と勇者

 息が切れる。それでもなお足を踏み出し、玉座の扉を引き開ける。


「ま、間に合った……!!」


 開けた視界、視線の先にはジークと思しき男によって、剣を突き刺されているレイ。その剣先がレイの命を絶つ前に、俺は先に動いていた。


「させない……グシオンっ。」

「オーケー!!行くよ、フルスロットル!!」


 ジークに向けて手を伸ばし、種の位置を探り、発芽させる。種から伸びた根は、ジークの腕にまとわりついていく。次第に強くなっていく締め付けによってジークの動きは完全に止まった。

 初めてバハムートと遭遇した時、レイの一撃と共にバハムートの身体に忍ばせた種。あの時はそれだけするのに必死だったが、それが今になって役に立った。だが、問題が1つ。


「っ……くあっつ!!」

「フルスロットルだからね。そりゃ人間の脳じゃ耐えられないよー。」


 痛む頭に肩に乗るグシオンの呑気な声が届く。

 ジークの動きを上回ったのは、叡智の悪魔の脳と繋ぎ、高速での計算を可能にしたから。その代償に脳は異常な計算に耐え切れず、溶ける様に熱くなる。数秒使っただけの今でさえ、頭が揺らいでしまう。

 緊張感漂う現場への乱入者に、ジークはようやく目線を向けた。


「……邪魔が入った。まぁ、羽虫が三匹に増えただけだが。」


 レイから距離を取ると、ジークは呆れた表情を浮かべながら、種が埋まっていた腕の根元をその部分ごと引きちぎった。濁った血が白い絨毯に滴り落ち、赤黒く染上げていく。肩から先が失われた場所からは、一瞬にして新しい腕が生えてくる。

 その隙にレイへ駆け寄り、その身体を支える。右腕から流れる血が俺の身体を伝う。鮮血の熱さを感じながら、傷口に手を当てる。


「ちょっと我慢してくれよ。」

「……っ。」


 傷口にマンドラゴラの種を植え、そこから発芽させる。傷口を包むマンドラゴラから力が吸われていくのを感じる。俺に魔力がない以上、吸われているのは俺の生命力に違いない。俺の生命力を対価にレイの傷口は治っていく。

 

「ツカサ、ありがとう。本当なら私の魔力で……。」

「いいよ。今、主戦力のレイの力を使わせるわけにはいかないからな。」

「そう、か。」

「一人で立てるか?」

「ふふっ。二人ならきっと大丈夫だ。」

「そうだな。二人で終わらせるぞ。」


 俺の身体から離れ、しっかりと両足で立つレイ。その笑顔からは理由もなく希望を感じる。身体に力がみなぎっていく。

 そして二人はジークに向かって並び立つ。


「……グシオンちゃんもいるんだけど。」


 もう一人の存在を忘れたまま。

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