第64話 いざ王都へ【後編】

 勇者の末裔であり、最強の男ライン・リュミエールがレイの兄だと明かされた。新しく明らかになった事実とはいえ、俺は元々知らなかったわけだし、今知った所でどうしようもない気がする。そこまで強いならバハムートも余裕で倒せるんだろうし、俺達がわざわざ行く必要も無い気がする。無い気がするんだが。


「兄上は大丈夫だろうか……。」


 居間を止まる暇なくうろつくレイがそれを許してはくれない。その心配を断ち切れるように早く王都に着いたらいいんだろうが、そうもいかない。ソロモンは『幻術が解けると不味いからのぉ。』と言って進行速度を緩めているから、王都に着くのは三日後になるらしい。わざわざ幻術をかけている理由は分からないが、ソロモンの眼には何か良くない物が見えているのかもしれない。レイを更に混乱させないように黙っているだけで。

 部屋の中をぐるぐると回るレイ、一人豪勢な椅子に腰かけて黙り込んでいるマーリン、気づいたら姿を消しているクロネ。そして、そわそわとしつつもくつろいでいる俺。

 その張り詰めた空気はソロモンによって破られた。


「王都に着くまでしばらくある。それまでに整理しておきたいことが色々ある。」


「それはお前の名前に関することも、だよな。」


「そうじゃな。余が魔王として見てきた勇者の姿、聞きたいじゃろ?」


「聞かせてもらえるのか!?」


 ソロモンの提案に足を止めて食い付くレイ。どうやらレイの興味を他の所に向けるのも目的の一つとしてあったようだ。レイ程でもないが、魔王から語られる勇者の話というのは気になる話だ。俺はもたれかかっていた椅子からソロモンへ向かって乗り出した。


「うむうむ。興味津々という訳か。観客は二人……ぎゃっ!!」


「揺れを感知、動揺しているのですかソロモン。」


 いつの間にかソロモンの背後に立っていたクロネ。その手はソロモンの肩へとそっと置かれている。背後に迫られていたことに気が付いていなかったのか、目を見開いていたソロモンもすぐに体勢を立て直した。その身体が微かに震えていた、ような気がした。


「こほん。それでは其方ら、準備は良いな。」


 ソロモンの前に座り込んだクロネと元々ソロモンの前にいた俺達、自然と三対一で向かいあう形を取ることになる。視線を交わし合い、俺達が黙って頷いたのを確認すると、ソロモンは視線をここではないどこかへと向け始めた。


「これは勇者が世界を救うまでの物語だ。」

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