第63話 いざ王都へ【前編】

 本当に進んでいると感じない程振動なく失楽園パンデモニウムは王都へ向けて進んでいく。

 結構緊迫感のある状況な気もするが、特に何かできるわけでもなく俺達は居間でだらけていた。そんな俺達の空気を一変させる様にマーリンが口を開く。


「余は魔王だ。余はソロモン、勇者に倒された魔王である。」


「魔王……?ソロモンってあの……!?」


「知ってる。」


「承知しています。」


 目を見開くレイ。そうか、レイはまだ知らなかったのか。まぁ、俺も詳しく知ってるって訳じゃないんだけど。

 俺と違って驚いたレイの反応が面白いのか、ソロモンは満足げに頷く。


「そのソロモンだ。勇者であるアーサーとは顔なじみでもあるな。」


「えっ、あっ、ということはつまり勇者様に会ったことがあるってことですか……?」


「そう言っとるじゃろ。まぁ、その話はどうでも良い話じゃ。」


 大事な話をさらりと流すソロモン。レイは見せられた餌を直前で取り上げられた犬のようにしょんぼりとしてしまう。その肩を叩いて慰めていると、ソロモンはより優先度の高い話を進める。


「余達がこれから向かうのは王都。知り合いのロクデナシが言うところには王都はバハムートによる襲撃を受けているらしい。」


「王都が……!?」


「らしいって言うのは、確定じゃないのか?」


 知り合いっていうのは、この間のマーリンだろう。ただの事実として受け止める俺とは反対に、レイは身を乗り出した。


「うむ。バハムートとは縁があってな。余達はその気配を感じとれても、具体的に視ることはできない。」


「王都は無事なんだろうか。」


「どうじゃろうな。安心、とは言い難いじゃろうが、王都には優れた兵がおるじゃろ?」


 ソロモンの言葉に心配げな顔をしたレイは頷いた。その瞳には光も見える、余程王都の騎士に信頼を置いているらしい。


「確かに、王都騎士団副団長は『神槍』と謳われた騎士で、私も槍術を教わったことがある。彼がいるならば問題ないかもしれないな。それに……」


「それに?」


 言い淀み、何かをためらうように黙り込んでしまうレイ。彼女の言いたいことが分かっているのか、ソロモンは口角を上げる。


「王都騎士団団長は世界最強の男じゃからな。」


「世界最強。」


 どこかで聞いたことがある気がする。その記憶を探るが、そこに行きつくよりも先にソロモンが答えを口にする。


「その男は勇者の家系、リュミエール家の長男、ライン・リュミエール。」


 自然と全員の視線がレイへと向かう。やがて観念したのか、レイがためらいがちに呟く。


「私の兄だ……。」


 長女が冒険に出ていても構わない、その理由が明かされた瞬間だった。

 



 


 

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