第62話 忘れた頃に船は発つ

 曇り空の下、草原。街から1㎞程離れた場所に俺達は立っていた。その理由は……知らされてない。その理由があるとするならきっとあの時だろう。

 マーリンが二人出てきたあの日、俺よりしばらく後に目覚めたマーリンは一人で考え込むことが多くなった。そして数日経った今日、寝ている所を叩き起こされ、眠気眼をこすりながらやってきたのがこの草原。


「眠いんだけど、そろそろ説明してもらってもいいか?」


「そうだな。夜にわざわざ鎧を着ろ、だなんてまさかどこかに出かけるのか?」


「上空、魔力の結晶を確認。既視感があります。」


 クロネにつられてレイと空を見上げる。空は相も変わらず黒々とした曇り空、ではなかった。じっと見つめていると、徐々にその異様さが明らかとなっていく。雲だと思っていたのはごつごつとした岩、それが空全体を覆い尽くしてしまっている。つまり、これは。思わず目を見開く。

 俺達がその正体に気が付いたことを察したタイミングで、先頭を歩いていたマーリンが振り返る。


「余の配下達を総動員して地道に修理させておいたのじゃ。話は後、とりあえず乗るが良い。」


 そう言ってマーリンが手を掲げると、上空の岩の塊から光の筋が現れ、地上に降り立つ。マーリンはためらいなく光の中に入ると、エレベーターの様に上昇し、岩へと吸い込まれていく。

 

「はぁ、説明はいるだろ普通。」


「まぁ、久しぶりの空の旅だ。早速乗ろうじゃないか。」


「賛同します。特に危険性は無いかと。」


 省かれた説明に納得したまま、光の中へと入っていく二人。どうやら俺に選択の余地はないらしい。諦めるしかなさそうだ。

 二人が吸い込まれていったのを確認してから、俺も光の中へと入る。視界は白に覆われ上を見上げると、岩の間に別の素材で造られた扉が目に入る。


「帰ってきたぞ、失楽園パンデモニウム。」


 そこまで時間も経っていないような気もするが、色々とあり過ぎて馴染みある建造物を見て安心したのも事実だ。

 言い終わるのを待っていたように光が反応し、俺の身体は失楽園パンデモニウムの中へと回収されていった。


「うむ、これで全員揃ったな。」


 到着したのは、馴染みある庭園。最後に辿り着いた俺の姿を確認すると、マーリンは満足げに笑う。そんな彼女は豪華な椅子へと腰かけている。そして、そのまま腕と足を組み換え、厳かな雰囲気を醸し出すと、宣言する。


「これから向かうは王都。バハムートを討伐する。」


 マーリンの声に応じ、移動要塞は駆動し始める、その進路を王都へと定めて。


 

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