第61話 二人のマーリン【後編】
意識を失って倒れたツカサを見下ろす二人。笑顔を浮かべていた新マーリンはツカサが沈んだのを確認すると、その緩んだ顔を引き締めた。
「で、ソロモン、話を始めようか。お察しの通り、ボクには時間が無くてね。」
「出てこられただけでも上々。やはりこやつが特異点だからかの?」
「そうだね。彼のお陰で色々とことが動き出したみたいだね。キミも彼女もボクも……残念ながら彼もね。」
ソロモンと共にツカサを見下ろすマーリンは何やら指折り数える。一人一人の顔を思い浮かべているのか、その指の動きは緩やかだ。
「うむ、それは身をもって知らされたわ。」
「あはは、あれは愉快だったね。」
「はぁ、相変わらず悪趣味な奴じゃな。それよりも、早く本題に入るがよい。のぉ、そなたの眼には何が見えた?」
ソロモンにせかされたマーリンは、そのフードを脱ぎ去り、翡翠の眼を露わにする。
「君のと違って『今』しか見えない不便な目だけどね。でもまぁ、事態は刻一刻を争うだろう。」
「もっと見えてるじゃろ、具体的に言うがよい。」
「見えていても言うべきものとそうでないことがあるから難しいのさ。」
ここではないどこかを見るように眼を細めるマーリン。その気取った態度にソロモンは眉をひそめる。
「そのもったいぶる癖も何とかならぬのか?」
「うん、こればっかりは治らなくてね。端的に言えば、次に目指すべきは王都だ。」
「そこにバハムートが来る……と。」
「来るだろうね、彼は。」
「目的を果たすための材料が揃った、という訳か。」
「そうだね。モモが彼を召喚したことで、この世界の均衡がほんの一欠崩れた。そして特異点たる彼は、勇者を、魔王を、兵器を仲間にした。そんな君達は世界にとっての弱点となりうる。それ彼は逃さない。」
「あやつと戦うとかもうこりごりなんじゃけど。」
「あはは、それはボクも御免だね。うん、もっと教えてあげたいところだけど、ボクは観客だから。これ以上は登場人物たちに任せるよ。」
「他人事だと思って好き勝手言いおって……。ほれ、そろそろ時間じゃろ。」
「そうだね。名残惜しいけど、さよならかな。」
口程にはあまり残念そうな素振りを見せず、マーリンが手を降る。
「うむ、こちらは余に任せよ。」
「うん、任せたよ。あぁ、それと────。」
マーリンの最後の一言と共に一陣の風が吹き、花弁が舞う。その勢いに呑まれ、ソロモンもまた強制的に意識を覚醒させられた。
目指すべきは王都。それだけが決まっていた。
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