第60話 二人のマーリン【中編】

 俺の目の前で、二人のマーリンが睨み合っていた。名前が一緒なだけで背格好も見た目も全く違う二人、うちのマーリンの方がいくらか小さい。

 うちのマーリンの拳が炸裂した頭をフードの上からさすりながら、新マーリンの方が口を開く。


「ありゃりゃ、面倒なのが来ちゃったね。」


しもべに悪い虫が付かぬように日中日夜見張るのが、主の役目じゃろ?」


 やれやれ、といった仕草を見せる新マーリンに向けて、大きくふんぞり返るうちのマーリン。

 威厳よりも可愛いらしさの方が勝る姿よりも、気になることがある。


「俺がしもべなんて話初耳なんだけど。」


「あはは、見栄張ってるんだねー。」


 そう言った後、新マーリンは口元を押さえ、笑いをこらえている。それが嘘であり本当であり、尊厳を傷つけられたのか、うちのマーリンの顔はだんだんと険しくなっていく。

 巻き添えを喰らわぬようにと、後ろずさりし始めた俺。その策も空しく、マーリンは新マーリンを飛び越え、俺の方へと向かってくる。


「は?そなたは余の僕であろうがっ!!」


「えっ!?」


 マーリンのアッパーが突き刺さり、為すすべなく地面に倒れ込む。軽いタッチ位の感触だったのに、身体は重く、視界が揺らぎ始める。


「何を……?」


「悪いの、そなたはここでお目覚めじゃ。」


 イマイチ訳の分かっていない俺とそれを見下ろす二人のマーリン。新マーリンは心なしか残念そうだ。

 

「えー、もっとお話ししたかったのになぁ。」


「そんなことに時間を費やせる身分じゃないじゃろ、マーリン。」


「あはは、それは間違いないね。じゃ、ツカサ君、おはよう。」


 うちのマーリンにたしなめられ、新マーリンは困ったように頭をかいた。


「え、あ、おはようございます……?」


 別れる時におはようって言うことあるのか、まるで徹夜明けの気分になりながら、俺の意識は保つ力を失った。

 


 

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