第58話 焼きマンドラゴラ屋はマンドラゴラの夢を見るか

「ん……ここは……?」


 夢うつつに手を伸ばしたのは知らない天井、ではなく屋敷の天井。ふらふらとした俺の手を誰かが軽く握る。


「起床確認。無事の様ですね、ツカサ様。」


「まぁな。クロネの方こそ無事でよかったよ。」


「それは、マーリン様の助けがあってこそのことです。」


 クロネが目を向けた先には、居心地の悪そうに頬をかくマーリン。やがてクロネの視線に耐えかねたのか、軽くため息をつく。


「余が差し向けたことじゃし、余が責任を取るのは当たり前じゃ。」


「で、調査は終わったのか?」


「今グシオンがかかりきりになっておるからの、当分先になるじゃろう。それよりも話がある、って顔をしておるな。」


 俺の指輪を覗き込んだマーリンは、そのままその瞳を俺の顔へと向ける。どうやら、女神の入れ知恵は見透かされてしまっているらしい。


「ははっ、ばれてるか。そうなんだけど……それよりも。」


 言葉に詰まる俺。その理由は、俺の横たわるベッドに倒れ込んで眠っているレイにあった。


「そなたが倒れてからうるさったからの、物理的に眠らせただけじゃ。」


「ははっ。そっか、心配してくれてたんだな。」


 聞くだけでその騒がしい状況が想像できる。物理的に眠らされたというのに、穏やかな寝顔を見せているレイ。彼女のタフさに苦笑いを浮かべつつ、その頭を一撫でする。


「ん……?」


 優しく撫でたつもりが起こしてしまったらしい。重そうな瞼をこすりながら、レイがその身を起こす。

 標準の定まっていない両目は揺れ動き、俺の顔を捕らえた所でその動きを止めた。そして。


「無事っ、無事だったんだな……!!よかったぁぁ!!!!」


「痛い、痛いっ!!」


 全力で俺の身体をホールドしたレイの両手を何とか引きはがす。レイはそろそろ自分が筋力お化けなことに気づいた方が良い、でなければ俺が死ぬ。

 心配したんだぞ、とでも言いたげな顔にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「ありがとな、心配してくれて。」


「危ないことをするなら私にも話を通してくれ。私の方がツカサより頑強な自信はあるからな。」


「流石は脳筋勇者様だな。」


「そうやってまた茶化す!!」


 その言葉を皮切りに掴みかかってくるレイと取っ組み合う俺、その様子をそれまで黙ってみていたマーリンが口をはさむ。


「何回目なんじゃ、そのやり取り。とりあえず、終焉魔法に触れればそれ相応の代償があることも分かった。ツカサは奇跡的な何かで生還したが、後遺症の類が無いとは言えぬ。」


「ええと、つまり?」


「今日のところは安静にしておけということじゃ。ほれ、レイ、クロネ、行くぞ。」


「了承。行きますよ、レイ様。」


「えっ、ちょっ、うわわわわ引きずらないでぇぇ!!」


 歩く暇も与えられず、部屋から引きずり出されていくレイを見送った後、俺は静まり返った部屋へと残された。


「安静、ね。」


 そう口に出した所で、あくびも次いで出た。体感的にはずっと眠っていた気がするんだが、身体にはガタが来ているのかもしれない。俺はマーリンの言葉に甘え、瞼を降ろすことにした。

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