第54話 終焉にはまだ早い【前編】
マーリンからの衝撃の告白から数日、屋敷の屋根上に座る俺とクロネ。眼下の街、輝く太陽に照らされながら遊ぶ子どもたちを眺めていると、クロネがおもむろに口を開いた。
「……視線を感知。」
「あーいや、別に見てたわけじゃないんだけどな。」
「嘘、あなたの眼球は私を捉えていました。」
「うん、まぁそうだよな。でも、クロネを見てただけじゃないっていうか……。」
「……?では何を。」
「んー、それは何て言うかな。」
「…………?それは解答ではありませんが。」
はっきり答えを言わない俺の態度に首を傾げるクロネ。純粋な疑問、といった表情だろうか。あまり表情が顔に出てこないので分かりにくい。
「そうなんだけど、あははは。」
俺がこうしてクロネと二人きりでいる理由、それはある任務を遂行するためだ。
覗き込んでくる深淵の瞳から逃れようとしながら、俺はマーリンに頼まれた任務を思い返していた。
◇
クロネの秘密について語った後、マーリンは一息ついてから更に一つ付け加える。
「で、話はここで終わりなんじゃが、実はもう一つ頼みたいことがある。」
「何か嫌な予感するんだけど。」
俺の疑いの視線を受けてなお不敵に微笑むマーリン。どうやら、面倒な事を頼まれるってことで間違いないらしい。
「クロネが終焉魔法である、ということは伝えたじゃろ。」
「クロネの判断で発動できる危険な魔法だろ。」
「そのために、クロネには人格が与えられている、という話でもあったはずだな。」
「うむ、二人の言う通りじゃな。それともう一つ、実は言い忘れていたことがある。それはクロネの持ち物のことじゃ。」
「持ち物ってあのスチームパンク系のペストマスク?」
未だにあの疑うようなファッションセンスの謎は明らかになってない。もしかしたら特別な理由があるのだろうか。
「ツカサ、多分あの長刀のことじゃないか。」
「レイ、当たりじゃ。クロネがずっと付けておるマスクはあれはファッションじゃろうし。問題なのはあの刀じゃ。」
「刀が終焉魔法の発動媒体なのだろう。」
「ほぅ、流石は勇者の子孫といったところかの。」
感嘆の息を吐くマーリン。真剣に視線を交わしあう二人、残念ながら話についていけていないのは俺だけらしい。
「刀で魔法を発動する、みたいな感じか?」
「うむ。そうじゃな、クロネだけで発動することも可能なんじゃが、刀を介して発動することでより実践向きに活用できるのじゃ。」
「実践向き……?」
「終焉魔法は強大な魔法、それを発動すればクロネの身体は持たない。しかし、それをあの刀を通して発動することで、クロネへの負担が最小限に収まる。そうすれば連続使用も可能になる、んじゃないんだろうか?」
「まぁ、大体はあってるの。レイの言う通り、理論上はそうじゃ。余もそうだと見ておる。あの刀はこの世界には無い代物、終焉魔法のために作られたのじゃろう。じゃが、実際どうかは分からぬ。」
「触れてみて確かめないと分からない、ってことだよな。」
「うむ。クロネ本体に触れた時と同じ、刀に触れさえできればグシオンが仕組みを突き止められるじゃろう。」
「そこでツカサの出番、なのか。」
そう言ってレイは俺の方を見る。訳も分からずマーリンの方を見ると、その通りじゃ、とでも言いたげに頷いている。
「え、俺?」
「余じゃと警戒されかねぬし。」
「私も何だか警戒されてる気がするんだ。」
「……なるほど。そこで人畜無害の俺の出番ってこと。」
「いや、それもあるが……ふむ。」
「何だよ。」
「いや、何でもない。ここで言わずとも試してみれば明らかになるじゃろ。」
「訳わかんないっつうの。」
「ふふ、頑張ってくれ、ツカサ。」
どこが面白いのか、楽しそうなレイ。レイの笑いのツボだけは全く分からない。
「笑うな。はぁ、失敗しても知らないからな。」
「その時は世界も終わるんじゃし、誰も責めぬ。安心するがよい。」
「そういう問題かよ……。」
どこか気楽な二人に後押しされながら、俺は世界の命運をかけた任務へと挑むことになった。
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