第51話 Time is money
フォクシリアからの依頼を無事成功させ、彼女から提供された屋敷へと帰ってきていた。そして、居間でくつろぐ俺の手には数枚の硬貨が握られている。受け取ったはいいものの、使い方が分からない。少なくとも単位は円じゃなさそうだ。
「それにこの絵、どこかで見た事あるような……。」
銀色に輝く硬貨にはどこかで見覚えのある女性が描かれていた。何だろうこの懐かしいような、腹立たしいような気持ちは。
なんとも言えない気持ちに包まれていた俺を解放したのは、覗き込んできたレイだった。
「そんなに熱心に見つめてどうしたんだ?モモ様が気になるのか?」
「あー。そうか、あのダーツ駄女神か。通貨にもなってんのかよ。」
「ツカサはモモ様のことになるといつも以上に口が悪くなるな。」
「ったく、何笑ってんだよ。なぁ、ってことは単位は『1モモ』とかなのか?」
硬貨にデカデカと金額が書いてない以上、この女神の名前が単位だろ。だって、一万円札のこと『諭吉』って呼んだりしてるし。
そんな俺の予想も空しく、レイは首を横に振る。
「いや、単位は『リュミル』。アーサー・リュミエールが勇者を倒した時に新しく決められたんだ。」
「あ、そっか。勇者と女神で一セットって感じか。」
「というか、それを知らずに今までどうやって過ごしてきたんだ?それに、モモ様とはいつどこでお会いしたんだ?」
「や、矢継ぎ早に聞くなよな。あ、あれだよあれ。川で洗濯してたら川上から、大きい桃が流れてきて、それを割ったら出て来たんだよ、女神様が。」
我ながら苦しすぎる言いわけ。上手くいなすどころか、その逆だ。全く納得のいってい無さそうな顔のまま、レイは詰め寄ってくる。
「それで、どこで暮らしてたんだ?」
「山の……中とか?」
「どこの?」
「北の方……。」
「北は人が住めるような山は無かった気がするが?」
「じゃあ、南だよ、み・な・み!!」
「ふふ、そういうことにしておこう。」
途中から質問するよりも、困る俺を見て楽しんでいる気がするのは気のせいだろうか。いつもと立場が違うのは何だか調子が狂う。
「はぁ、質問タイムはここで終わりだ。じゃあ、逆に俺から聞いてもいいか?」
「構わないが、どうかしたのか?」
「焼きマンドラゴラはどれくらいの値段で売ったらいいと思う?」
市場を見てきたらいいんだろうけど、同業者が居るとも思えない。元手がほとんどかからないから、どんな値段でもいいっちゃいいんだが。一応聞いておいた方がいいだろう。
「………………。」
しかし、待てどもレイからの返答はない。何かを言うのをためらっているかの様にじっと黙っている。
「おい、どうしたんだよ?」
「…………い。」
「何だって?」
「…………ない。」
「何が無いって?」
「私は自分で買い物をしたことがない。だから物の値段が分からない。」
俺の問いにレイは意を決したのか、整然とした顔つきで言い切った。
「忘れた頃に出てくるな、お嬢様設定……。」
マーリンもあんな豪華な城を持ってたくらいだし、クロネもあんな調子で金銭感覚はあてにならない。そしてこの世間知らずお嬢様に異世界民の俺。
「じゃあ何で俺は焼きマンドラゴラ屋なんだよっ!!」
指で弾いた硬貨は宙を舞い、描かれた女神も回る。硬貨の中の女神、その横顔が微かに微笑んでいる様に見えた……気がした。
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