第四章 過去と繋がる現在
第49話 働かざる者食うべからず
街から少し離れた森の中。俺は、迫るゴブリン達から必死に逃げ続けていた。それはなぜか。その答えはいつだって
「ったく、何でこんなことしなくちゃいけないんだよ!!」
駆ける足がもつれる。抱える荷物に気を使うとどうも走りにくい。
今の揺れが伝わったのか、荷物が目を覚ます。
「うぅ、住むところを……用意してもらっている以上……仕事を手伝うのは当然……。」
「分かった、分かったから大人しくしといてくれ!!」
身体を揺らすレイを何とか静かにさせる。今は逃げるのが先決だ。
※
あの宴の日から、俺達はラルスローレンでの暮らしを続けている。確かにレイの言う通り、俺達の生活面はフォクシリアによって万全のサポートを受けている。だからといって、これはないだろ。
「何で俺達二人で魔物倒さなきゃいけないんだよ!!」
頼みの綱の残り二人はフォクシリアに連れられて、朝っぱらからどこかへ行ってしまった。だから、残されたのはへっぽこ二人組。
「ツ、ツカサ来てるぞ!!」
「分かってるよ!!」
レイの緊迫した声、どうやらもう鬼ごっこはおしまいらしい。今回のフォクシリアからの依頼は「森で活発化するゴブリンの討伐」。ゴブリンの群れに突撃し、一度も攻撃を当てることも無く集中砲火をくらったレイは戦えない。となると、残りは俺……なんだが。
「あと何歩だ。」
足を止めることなく、虚空へと呼びかける。
「そうだねー。あと三歩かな。」
「よし、行くぞ。」
返ってきた声の通りに残りの歩数を踏み込んでいく。
「一、二の、三っ!!」
三歩で振り向き、ゴブリンたちを睨みつける。今まで逃げていた相手が臨戦態勢に入ったことを不審に思ったのか、ゴブリンたちはまだしかけては来ない。よしよし、好都合だ。
「来ないなら、こっちからいくぜ。」
その場から動かず、足元に手を伸ばす。いつものようにイメージを膨らませ、マンドラゴラを生み出す。
「ガァ?アアァァァァァァ!!!!」
勘づいたのか、ゴブリンたちが叫び声をあげ、こちらに向かってくる。だが、もう遅い。俺の手はマンドラゴラの茎へと伸びている。
「じゃあな、鬼ごっこは終わりだ。」
森を
ひと段落着いたところで、気まぐれな指輪の主に声をかける。
「ありがとよ、グシオン。」
「こっちこそ、あの聖女さんたちの傍を離れられて好都合って感じ。」
「最近出てこなかったのはそれが理由なのか?」
マーリンも言ってたな、神聖オーラがどうこうって。まぁ、覚えてないけど。
「それもあるし、色々仕事を抱えてたっていうかぁ……。」
「悪魔に仕事とかないだろ。」
「あーりーまーすー!!……で、いいの?その子。」
珍しくキレたグシオン、その興味は既に俺が抱える荷物へと移っていた。耳を塞ぐ暇もなくマンドラゴラの叫びを聞いたレイは、ぐったりとうなだれていた。
「あー、悪い。レイ。」
「もう慣れてるから問題ない……ない。」
「嘘つけ、目回ってんじゃねえか。とりあえず、仕事は終わったんだし、ゆっくりして帰ろうぜ。な?」
「でも、仕事が終わったなら早く帰らないと……。」
「はぁ。いちいち堅苦しいんだよ、考え方が。」
どこかに雇われてやってるわけでもない、初めてのお使いレベルのクエストを真面目にとらえ過ぎだろ。
「なっ!?そうやってまた馬鹿に……!!」
「してない。レイはさ、冒険する為に、勇者になる為に家、出て来たんじゃないのか?」
「そう、だ。」
自分の中で何かを納得させるようにゆっくりと頷くレイ。いいぞ、その調子だ。
「だったらもっと自由に生きてもよくないか?」
「確かに、そうなのか……?」
よし、あと一押し。
「そうそう、だからゆっくりしようぜ。」
「うん、そうしよう。」
思案顔を止めて穏やかに微笑むレイ。それを合図に俺達は適当な切り株へと腰を降ろした。
鳥のさえずりを聞きながら気を抜いていると、グシオンが直接脳内に囁いてくる。
「いいの、いたいけなお嬢様をサボらせて?」
「あいつが冒険に何を求めてるかは知らないけど、さ。たまには息抜きも必要だろ。」
「ザッキーは仲間想いだねぇ。グシオンちゃんはてっきりザッキーがサボりたいだけかと思ってたよー。」
「へいへい、その通りですよっと。」
「ま、グシオンちゃんもマスターに仕事押し付けられないのはいいことだし、ここらでオフしちゃおっと。」
「ありがとな。」
「ん、ごゆっくり~。」
電源を切る様な音と共にグシオンとの念話が終わる。やっぱり声を出さずに話すって慣れないな、何だかむずむずする。
ふと前を見ると、不思議そうにこちらを覗き込むレイ。
「ツカサ、どうしたんだ変な顔して。」
「あー、いや、この街でも変なことに巻き込まれるんだろうなって思ってただけ。」
「ふふ、そうか。でも、私はこんな慌ただしい毎日が楽しいよ。」
「なら、良かったよ。」
こんなに晴れやかな顔のレイが見られるなら、ドタバタ生活も悪くない。そんな風に思えるようになった自分に驚いたひと時だった。
ところが、現実は俺の想像を容易く超えていた。そんなことに気づかぬ俺達は束の間の休息に羽を伸ばしていた。
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