幕間3 世界一受けたい異世界講義
ある日、
「そういやここ、ダンジョンの時は禁忌塔バベルって名前だったよな?」
「そうじゃが、それがどうかしたのかの。」
「いや、未だに禁忌塔バベルが何なのか知らないからさ、俺。」
バベルって名前位は
「そういえば、初めて会った時もそんなことを言っていたなツカサは。」
「結局、お前は何にも教えてくれなかったしな。」
結局何の情報共有もされないまま、マーリンに出会い、ここまで来てしまっている。本当に知ってるのか、怪しいなこいつ。
向けられたジト目に何か思い当たる節でもあったのか、レイは視線を泳がせる。
「それは、その、後でツカサが聞いてこなかったから……。」
「ほんとは知らないんじゃないのか?」
レイの方へ詰め寄り、その視界に入る。逃げ場を失ったレイはのけぞり、今度は顔ごと逸らし始める。
「ツ、ツカサはどうも私が脳筋だと……」
「ん、もういい。」
気のせいならいいけど、俺達いつもこんなことを繰り返している気がする。俺の予想が正しければ、レイの質問に「脳筋だろ。」って答えた後に乱闘、時間を無駄にするだけだ。
「なっ!?」
急に冷めた俺の態度に虚を突かれたレイを放置して、マーリンの方を向く。
マーリンはソファに寝ころびながら、退屈そうに頬杖をついていた。
「終わったかの?」
「ま、一応、な。って、痛い痛い!!頬っひぇた引っひゃるなよウェイ!!」
突然凄い力で両頬が引っ張られる。背後に目を向けると、当然そこにはレイが立っていた。
「…………。」
無言のレイは顔を若干赤く染めながら、俺の頬を引っ張り続けている。早めに止めてもらわないと、俺の頬が元に戻らなくなりそうだ。
「はいはい俺が悪かったからさ、降参降参。」
両手を上げて降伏のポーズをとると、流石にレイも両手の動きを止めた。
ちょっとひりつく頬を押さえる俺に聞こえてくるのはマーリンのため息。
「はぁ、其方らは初めて会った時から全く変わらんのう。」
「そりゃどうも。」
「褒めとらんがの。……まぁ、よい。そのまま聞け、余が世界七不思議について説明してやる。」
「世界七不思議?」
いつそんな話になったのか。頭上に疑問符を浮かべる俺を置いてきぼりにして、マーリンは話を進めていく。
「それでは超絶怒涛の完璧美少女マーリン先生による講義、開講じゃ。とうっ!!」
意味の分からない口上と共に、魔法陣を展開する。一瞬、視界が白く染まる。それが晴れた頃、俺達の前には白衣と眼鏡に着替えたマーリンが立っていた。
「「…………。」」
「何じゃ、その目は。ふっ、なら、其方達もじゃ!!」
マーリンが軽く指を鳴らす。あっけにとられている内に俺達の服に変化が起こった。
「は?」
「え?」
全身を包むのは黒に統一された、誰しも一度は見た事のある服。気が付いた時には既に学生服に着替えさせられていた。
「うむ、これで少しは雰囲気が出てきたな。」
「ったく、どこから仕入れて来たんだよ。学ランとか。」
学生時代に戻ったみたいで何だか落ち着かない。そして、落ち着かない気分なのはもう一人。
「ツカサ、この服は一体何なんだ?」
「あー、俺の故郷で学生が着る服みたいな。レイ、結構似合ってるぞ。」
学生じゃなくても着たりするんだけどな、っていうのは黙っていよう。
珍しくレイを褒めると、うれしいのかもじもじとし始める。
「あ、ありがとう。うぅ、でも素足を出しているというのは落ち着かない気分だ。この布も短くてひらひらしているし……。」
違った。脳筋特有の悩みだった。まぁ、普通は色々履いたりするんだろうけど、そこまでマーリンは用意していないらしい。
それにしても普段、地味な服を適当に着ているか鎧を着込んでいるレイが制服を着ているとは。なかなか可愛い、街に降りたら無理やり服屋に連れて行くのもいいかもしれない。
「ツカサ、そんなにじっと見てどうしたんだ?も、もしかして、何かついてるのか?」
「いや、そうじゃないんだ。」
徐々にその頬の赤みを増していくレイを見ながら俺は妄想を更に飛躍させようとしたその時。
「…………む。」
妄想に夢中になっていた俺は背後から迫っていたもう一人の仲間に気づかなかった。黒ずくめの仲間、もといマーリンの拳骨をくらい、床に倒れこむ。
「痛っ!!何すんだよ、マーリン。」
「其方のために着替えさせたわけでは無いのじゃが。」
「はいはい、分かってますよ。で、世界七不思議、だっけ?」
ようやく話が本題に入る。時間かかり過ぎだろ、って俺のせいか。
「うむ。世界七不思議とは、未だその目的や生態、実在について解明に至っていない対象に与えられる称号じゃ。」
「その一つがっ、最難関ダンジョン禁忌塔バベル~!!」
俺の指輪、もといグシオンが唐突にその声を上げる。
こいつ、ほんと自分が出てきたい時以外出てこないよな。まぁ、悪魔だしそういうものかもしれないけどさ。
「そうじゃな。グシオンが言った通り、禁忌塔バベルは世界七不思議の内の一つに数えられておる。」
「じゃあ、後六つあるんだよな?」
「そう急くでない、順に説明してやる。」
そう言ってマーリンは指輪をはめた手をこちらに向け、その人差し指を立てた。
「一つ。人類の敵、破壊と殺戮を繰り返す竜、『バハムート』。」
「二つ。未知の迷宮、古代から屹立するダンジョン、『禁忌塔バベル』。」
「三つ。神の遺産、世界の均衡を崩壊させる兵器、『終焉魔法』。」
「四つ。救世の剣、湖の精の力を宿す伝説の武器、『エクスカリバー』。」
「五つ。魔王の器、数多の魔人を使役できる魔道具、『ソロモンの指輪』。」
「六つ。人類の咎、人体実験による負の産物、『禁書目録』。」
「七つ。人類の光、平穏と安寧をもたらした英雄、『アーサー・リュミエール』。」
「何ていうか、そのすごいな。」
情報量が多すぎてこんな頭の悪い返答しか出てこない。
「アーサー亡き今、存在が確認されておるのはバハムートとバベルくらいじゃな。」
「他の物は見つかってないのかよ?」
「どれも関われば人生を滅ぼしかねない物ばかり。でも、多くの人がその謎を探し求め、冒険をしているんだ。」
そう言ったレイは目を輝かせてどこか遠くを見つめている。そういえば、勇者オタクだったな、レイ。
心ここにあらずのレイをそのままに、マーリンに尋ねる。
「で、これで説明は終わりなのか?」
説明の割に少なかった気がする。まとめサイトでももう少し載せてるぞ、多分。
「そうじゃな。もう少し話してもよいかもしれぬが、今はまだその時ではない。故に今日の講義はこれで終いじゃ。」
「なんだそれ、意味不明だぞ。」
マーリンは何か言うたびに含みを持たせることが多い。もったいぶらずに教えてくれよ、名探偵じゃあるまいし。
「好きに言うがよい。ほれ、起立、気を付け、礼。」
礼をしたタイミングでマーリンが終業の鐘の音を鳴らし、不完全燃焼のまま講義は終わりを迎えた。
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