第43話 聖女様の実力【前編】

 街を出てすぐ、門の前に俺達は立っ、いや立っていたのは俺だけか。フォクシリアは門の下に横たわり、酒瓶を口に運んでいる。確かにいつもの彼女らしいと言えばらしいのかもしれないが、今はそんな場合じゃない。

 腰が引けた体勢の俺の周りには屈強なウェアウルフが十体近く、取り囲むようにして並んでいる。その目は爛々と光り、ちらりと見える牙からは唾液が延々と流れだしている。


「どうしてこんなことになったんだよ……」


「くうーっ、ひっく。後悔してもしょうがないんじゃないの?」


「あんたが言うなよ!!」


「あっはは、応援してるからね~。」


「ついてくるんじゃなかった……。」


 震える身体を何とか抑えながら俺はこうなった原因、フォクシリアの仕事について思い返していた。


                ◇


「ん、この辺りかなー。」


 周りをちらりと見渡してから、フォクシリアは街の西にある門の外で立ち止まった。

 釣られて見渡してみるが、街の外へと続く道のほかには特に何も見当たらない。


「仕事って一体何をするつもりなんですか?」


「ツカサ君はさ、バハムートのこと詳しく知ってるかい?」


「いや、知らないですけど。」


 質問をしたつもりが質問で返されてしまった。できれば俺の質問に答えてほしい所だが、話の流れ的にバハムートの話は必要なんだろう……たぶん。

 そんな疑いの目を向けられていることに気づかないまま、フォクシリアは上機嫌で話を続ける。


「バハムートはね、人間が居る所を的確に狙って蹂躙するモンスターなのさ。生きてるものの中じゃ、間違いなく最強格。今の世界に彼とタイマン張れるような人間はいないだろうねー。」


「で、それが仕事とどう関係してくるんですか?」


「それはね……。」


「グルルルルルル…………。」


 フォクシリアの声を遮るようにして聞こえた唸り声。最初は一つだけだったが、徐々にその数を増し、やがてウェアウルフが十体ほど姿を現した。

 おいおい、これだけの数相手とか、二人でどうにかなるのかよ。もしかしてフォクシリアは俺も頭数に入れてたりするのか? 俺、マンドラゴラしか作れないんだけど。


「あの、フォクシ……っていねぇ!!」


 戦線から辞退しようと伸ばした手は空を切り、さっきまで隣にいた筈のフォクシリアは姿を消していた。驚いたのも束の間、背後から呑気な声がかかる。


「バハムートの気配で敏感になったモンスターは興奮状態に陥るから、それが落ち着くまで村を守るのが私達の仕事だよ、ツカサ君。」


「いや、それなら寝てないで仕事してくれよ。」


 フォクシリアはいつの間にか門の下に横たわり、晩酌を始めている。その姿はテレビで野球観戦をしているおっさんにしか見えない。


「ギルド、焼きマンドラゴラ屋だっけ?そこのリーダーなんでしょ、君。なら、カッコいい所見せてよねー。」


「はぁ……もうどうなっても知りませんからね。」


「いけいけぇ!!」


「はぁ………………。」


                    ◇


 と、ここまでが俺が戦う羽目になったいきさつだ。そしてこれからが俺の独断場、酔っ払いに払う心配と敬意が無くなった今、彼女がどうなろうと知ったことじゃない。

 俺はウェアウルフ達を刺激しないように腰を屈め、地面に手を添える。もちろん、アレを作る為だ。


「酒飲むより、耳塞いだ方が良いですよっ!!」


 申し訳程度の注意と共に、俺は茎を掴み、勢いよくマンドラゴラを地面から引き抜いた。


「─────────!!────────!!」


 その瞬間、マンドラゴラの大絶叫が辺り一面を包み込んだ。




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