第42話 聖女様、お仕事です


 街に繰り出した俺達はまず、魔人達を召喚したであろう人物、マーリンを直撃することにした。街の中心部、積み重ねたビールケースの上に立つマーリンはテキパキと魔人たちに指示を出している。そんな彼女の首根っこを軽くつかむ。


「んなっ!?何するんじゃ!!」


「それを聞きたいのはこっちだっつうの。大丈夫なんだろうな、こんなヤバそうなのいっぱい呼び出して。」


 俺の心配が通じたのか通じていないのか、マーリンは得意げに笑う。


「問題はない。余の偽装魔法は神聖な加護を相当受けた人間にしか見破れぬ。街の人間にはあ奴らが人間に見えておるであろう。」


 そう言ってマーリンは少し先、魔人達が屋根の修理を手伝っている所を指さす。

 確かに街の人達におびえた様子は見られない。どうやら本当に大丈夫みたいだ。


「でも、フォクシリアには見破られてたぞ。」


「それはそうじゃろ。さっきも言ったが、強力な加護を持つ者には見破られる。じゃが、その聖女様は問題なし、と判断したんじゃろ?」


 マーリンの言う通り、フォクシリアが許可した以上、問題ないってことなんだろう。

 返答しようとしたその時、俺の背後から酒の匂いと共に愉快そうな声が届く。


「ええ。ひっく。危険性はあるけれど、貴方が手綱を握っている間は大丈夫そうだもの。」


「うわっ!!…………いきなり背後に立たないでくださいよ。」


「だってベリーニもレイちゃんも街の人達手伝いに行っちゃって暇なんだもの。」


「いや、それならあんたも行ったらいいじゃ…………なぁ、マーリン。」


 まるで他人事の様に言いながら、酒瓶にほおずりしているフォクシリアに白い目を向けている内に俺は足りないものに気が付いた。


「なんじゃ?」


「クロネ。クロネは何処に行ったんだよ。」


 辺りを見渡してみるが、妙な服装のガスマスク女の姿は何処にも見当たらない。

 まさか、連れて行くだけ連れて行って放置してるんじゃないだろうな。


「ちょっと仕事を与えたんじゃよ。今のあ奴にコミュニケーションと精密作業は出来そうにないからの。」


「仕事?」


 コミュニケーションが要らなくて、精密作業でもない。森に行って木を切り倒してくるとかだろうか。

 いまいち想像が湧かない俺よりも先にフォクシリアは合点がいったかのように頷く。


「そう。先に手を回しておいてくれたのね。ひっく。」


「まぁ、余達がいる以上危険は無いじゃろうが、念には念を、というやつじゃな。」


「あのー。俺、全く話についていけてないんだけど。」


 何でこんなに分かりあえてるんだよ、俺にはさっぱりなんだが。一般人のペースに合わせて話してくれると嬉しいんだけどな。

 恐る恐る手を挙げた俺にフォクシリアは軽く微笑むと、街の外へと歩き出す。


「え、ちょっとどこ行くんですか?」


「付いてきなさいな。ひっく。聖女の仕事、見せてあげますから。」


 そうして俺達は二人、手ぶらのまま街の外へと踏み出した。

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