第40話 酔いどれ聖女様

 そして始まった自己紹介の再開。ベリーニに促されたフォクシリアが再び挨拶を始める。ふわふわとした頭の耳は左右に軽く揺れ続けている。


「では、改めて。私はマリア・フォクシリアです……ひっく。」


 軽くしゃっくり起こすフォクシリアの手に握られた酒瓶、いつの間にかその中身は半分ぐらい消えてしまっている。


「いや、いつ飲んだんだよ!!」


「わ、私にも見えなかったぞ……」


 俺とレイの視線を掻い潜り、フォクシリアはお酒を飲んでしまっている。


「あはは、だってお酒ちゃんが飲んで欲しいって言ってたからぁ……ひっく。」


 既に完成しつつあるのんべえ聖女。止めようとするベリーニの手を巧みに避けながら、酒を口へと運んでいく。

 ったく、自己紹介する気ないだろ、この駄目聖女。

 呆れる俺に気づいて無いのか、フォクシリアは上機嫌に話す。


「で、ツカサ君とレイ君は何しにここに来たのー?ひっく。」


「そうですね、それは私も気になってます。」


「何しにって、えーっと特に何かしに来た訳じゃないんですけど。なぁ?」


「わ、私は魔王を倒す為に来たんだ……けど。」


 俺とレイの返答がツボに入ったのか、フォクシリアは腹を抱えて笑い出す。


「あはは、正直だね君達。ひっく。お姉さん、気に入っちゃった。」


「酔ってますよね、絶対。」


「酔ってそうで酔ってない。でもやっぱり酔ってるんじゃ……っていうのがフォクシリア様なので。」


「何でそんなにキリッとしてるんですか、ベリーニさん。」


 とんでもないモットーを口走っているにも関わらず、ベリーニの表情は引き締まっている。カッコつけるシーンなのか、今は。


「そりゃ、自慢の聖女様、ひっく。だからねー、ひっく。」


「自慢になりそうな所は見つからないんだけどな……。」


 目の前ののんべえはまだ三口くらいしか交わしていないのに、酒の方はもう六口目だ。しかも、そのペースがだんだん早まってきている。酔いつぶれないといいんだけどな。


「もしかして、ひっく、疑ってるんじゃ、ひっく、ないのー?」


「まぁ、それが当然の反応ですよね。」


「いや、疑ってる訳じゃないんですけど。」


 見た目は聖女でも、見られるのは酔っぱらった姿だけ。でも、ベリーニや街の人々からは一応慕われている。やっぱり凄い人なのか、フォクシリア様。

 俺の疑いの視線に耐えかねたのか、いやそんなことも無さそうなフォクシリアは脱ぎ捨てたフードを再びかぶり直して叫ぶ。


「じゃあ、ひっく、いっちょ、私の凄い所見せちゃおうかなっ!!」


「おぉ!!今日はフォクシリア様の本気が二回も見られるんですね、やったー!!」


「ベリーニさん、あんた意外にノリノリだよな。」


「酒さえ飲まなければ完璧な聖女、それがフォクシリア様ですから。」


 二つ名いくらでも出てきそうだな、フォクシリア様。


「じゃあ止めろよ、止めてくれよ。」


「でも、飲んでないとフォクシリア様じゃないので。」


「そうやって甘やかしてるからあんな風に……。」


 目を向けた先には既に教会の扉に手をかけているフォクシリア。その空いた方の手には新しい酒瓶が握られている。一体どこから出てくるんだよ、酒瓶は。

 

「早く、ひっく、早く行くよー。」


「はい、今行きます!!」


 出て行こうとするフォクシリアを急いで追いかけるベリーニ。

 俺達も付いていった方がいい、よな。


「はぁ……俺達も行くか。」


「うん、行こう。」


 頷くレイと共に俺はフォクシリアとベリーニの後を追った。




 

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