第39話 全てを酒に捧げます

 地面に虹をかけたフォクシリアはその地面ごと水魔法で綺麗に洗い流され、ベリーニの手によって教会の奥へと回収されていった。

 教会に残った人々もまた復興の為に街へと繰り出していった。


「それじゃあ、余も手伝うとするかの。クロネ、行くぞ。」


「了解。任務開始。」


「気を付けて行って来いよ。俺はあの二人が戻ってくるまで待ってから追いかけるから。」


「上手くやる、心配せずともよい。」


「同意。」


 俺の言葉を受けながら、マーリンとクロネは教会から出て行く。そして残されたのは俺とレイ。

 教会内の椅子に座って待っている内、だんだん不安になってきた。あの二人を行かせて大丈夫だっただろうか。何でも強行突破のマーリンと殺戮マシーンと化したクロネ、あの二人、人と上手くコミュニケーションを取れるのか?


「なぁ、レイ。あの二人を追いかけてくれ。」


「マーリンとクロネが心配なのか?でも、私はそれよりもツカサを一人にする方が心配だ。」


「レイからしたら、俺も常識人枠じゃなかったのかよ……。」


 かなりショックだ。俺からマンドラゴラさえ引けば常識人だと思ってたのに。


「ツカサはバハムートの事を知らなかったり、当たり前の事を知らないから不安になるんだ。」


「それは仕方ないだろ。だって……。」


 この世界に異世界から召喚されてきたから、なんて言える筈も無く。どうしたものかと口をパクつかせていた時、教会の奥の扉が開き、ベリーニとフォクシリアが姿を現した。


「お待たせしました、皆さん……ってあれ?」


「マーリンとクロネは街の手伝いに行く、って出て行っただけなんで安心してください。」


「それなら良かったです。……ほら、フォクシリア様も。」


 そう言ってベリーニはフォクシリアのわき腹を肘でつつく。三回叩かれた辺りでフォクシリアはバツが悪そうに俺達に頭を下げる。


「あはは、先程はどうもお見苦しいところをお見せしました。」


「いや、何か理由があったのだろう。そこまでしなくても。」


 止めに入ったレイの言葉を聞いたフォクシリアは、愉快そうに笑いながら修道服のフードを脱ぎ捨てて顔を上げる。


「ふふふ、それじゃあ……!」


 その手にはいつの間にか酒瓶が握られていた。というかもう飲んでるのか、顔が赤い。


「呑みましょう!!」


「駄目に……決まってるでしょっ!!!!」


 心からの叫びと共に、ベリーニのチョップがフォクシリアの脳天を直撃した。強力な一撃を頭に受けて、ふらふらと倒れこむフォクシリア。


「ちょっとふざけただけでしょ……ひっく。」


「呑んだ分、活躍してくださいね。」


出会って間もないが、二人の関係性が何となく掴めてきた、そんな気がする。そして、分かったことはもう一つ。


「やっぱりまともな奴が居ない……。」


 皆から慕われる聖女様、真っ当な人間の代表格の様な人がのんべえだと分かった今、この世界には変人しか居ないのではないか、そんな恐ろしい考えが頭をよぎる。

 微妙な空気を払拭する様に、ベリーニが手を叩く。


「さ、もう一度最初から始めましょうか。」


 これからの異世界生活への不安を抱えながらも、俺達の初対面は仕切り直されることになった。


 








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