第37話 冒険者の街 ラルスローレン

 辺りを舞う砂煙、晴れるとそこには、修道服に身を包んだ乙女。


「誰……?」


「「「「「「ベリーニさん!!」」」」」」


 俺の声をかき消すような冒険者達の大声。どうやら知り合い、それも有名人っぽい。

 ベリーニと呼ばれた彼女は膝に付いた砂を払うと、冒険者達の方へ向き直った。


「貴方達、聖女様が何とおっしゃったか覚えてますか?」


 優しげな声、それでいて語尾が強い。俺から顔は見えないが、怒っているのだろう。

 冒険達もまた、先程までの勢いはどこへやら、目の前のベリーニから目を逸らし始める。


「オリバ、聖女様は『空からバハムートと共に客人が来る。』と告げられましたね。」


「はい……。」


 オリバと呼ばれた、冒険者の代表の男は小声で頷く。


「いつ、この方達がバハムートの仲間、という事になったのですか?」


「いえ……その……伝令をしている間に……もしかしたら刺客なのではないか……という考えに至りまして……。」


「それで、住民の保護をしていた私と聖女様の合流を待たず、この方達を取り囲んだと。」


「は、はい……。そういうことに……なりますね……。」


 ベリーニの淡々とした口調に、屈強な男が徐々にその覇気を失っていく。


「助かった……。」


 状況は俺達にとって有利に傾きつつある。このまま黙っておけば、俺達優勢で終われそうだ。

 オリバを黙らせたベリーニは俺達の方へと振り向き、頭を下げる。それを見た冒険者達も同じく頭を下げる。


「私達の街の冒険者が失礼しました。」


「「「「「失礼しました!!!!」」」」」


「いやいや、そんな。俺達だってややこしい時に来ちゃった訳だし……。」


 俺達にも非があるんだし、そこまでされるのはちょっと居心地が悪い。

 だが、俺の言葉に顔を上げたベリーニの顔は未だに険しい。


「ええ、ですがそれはそれ、これはこれです。礼は通さなくては。」


「それは……どうもありがとうございます。」


 ベリーニはきっちりと筋を通す人間らしい。流石聖職者。彼女の上司、聖女様も礼儀正しい人間に違いない。

 少しどもりながら返事をすると、ベリーニは穏やかな笑みを浮かべ、両手を広げる。


「では、改めまして。私はベリーニ、この街で修道女を務める者です。ようこそ、冒険者の街ラルスローレンへ。」


 地上に着いてからようやく聞くことの出来た歓迎の言葉。こうして、波乱のファーストコンタクトは幕を閉じたのだった。


 

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