第36話 まさしく混沌
「……そうして俺達はここに降り立ったのだった。」
「おい、何ぶつぶつ言ってんだテメェ!!」
「はぁ。」
回想から現実に戻ってきた俺の目に映るのは、にこやかな冒険者ではなく殺気だった冒険者達。さて、どうしようか。ここでいきなりマンドラゴラ引き抜いても駄目だろうし……。
打つ手が思いつかない俺は、隣に立つレイに目を向ける。
「私達は決して怪しいものじゃない!!私達もバハムートに襲われた被害者なんだ!!」
レイらしい堅実な返答。確かに冒険者達が冷静なら話に耳を傾けたかもしれない。でも、今の彼らは怒りと悲しみに襲われている。まともに取り合ってくれるとは思えない。
口々に責め立てる冒険者達を制し、それまで黙っていた代表の様な強面の男がこちらを睨んだまま、口を開く。
「貴様は恐らく騎士だろう。それは分かる。だが、後の者は何だ。妙な雰囲気の子供、覆面の不審者、そして……普通の男。」
「おい、何だよ普通って!!俺だってマンド……」
「話がこじれるから黙っていてくれ、ツカサ。」
「んーっ!!んーっ!!」
俺の異議申し立ては、レイに口を塞がれたことで失敗する。
まぁ、マンドラゴラ出した所で普通から変な奴にランクダウンするだけなんだけど。
争いを始めた俺達を前に男は一つ咳ばらいをすると、険しい顔で告げる。
「いいか、この辺りで見た事の無い人間、バハムート襲撃後の来訪、空から来た事、それら三つだけで十分、貴様らは怪しい。」
「それはっ。」
言葉に詰まるレイ。その理由は分かる。バハムートに襲撃されたことが信用されてない以上、『最難関ダンジョンが変形して、ここまで空を飛んできました。』なんて信用される訳がない。
「沈黙は肯定とみなす。貴様らは冒険者ギルドまで連行させてもらう。」
「ちょっと待ってくれ!!」
レイの手を振りほどき、男へ食い下がる。
冒険者ギルドなんて連れて行かれたら、即刻牢屋か死が待ってる、そんな気がする。
「まだ何かあるのか?」
「いやぁ……その……。」
何か策は無いか必死に探す俺の肩に、マーリンが手を置く。もう片方の手にはマスクを外されたクロネの手が握られている。
「もうよい。余に任せよ。」
「何か、思いついたんだな。」
やっぱり年長者だからだろうか、バハムートの時といい、何だかんだ頼りになる。
そんな期待がこもった俺の視線にマーリンは自信ありげな頷きで応える。しかし、その両手は何故か冒険者達へ向けられ、魔法陣が展開される。
「説明も面倒じゃし、街ごと吹き飛ばせばよかろう。」
「言いわけないだろっ!!!!」
慌ててその手を掴み、魔法陣の発動を止めさせる。止められたマーリンは不機嫌そうだ。
「何故止める?レイも論破されて落ち込んどるし、もう打つ手無いじゃろ。」
「だとしても脳筋論破は駄目だろ……。なぁ、クロネも何か言ってくれよ。」
俺はすっかりマーリンの強行突破主義を忘れていた。ったく、気楽に街を消し飛ばすなよ、ラスボスかよ。……いや、ラスボスだったっけ。
冷たい汗が背中を流れる中、俺は最後の望みをクロネへと託す。俺が知る中では割と常識人、だった。人格の方も戻ってるだろうし、きっと止めてくれるはず。
「街の殲滅、遂行。」
全然駄目だった。……ていうか、何かおかしくないか。マスクを脱いだクロネの顔は相変わらず冷静なままで──
「なぁ、クロネ、お前……変わって無くないか?」
「質問無意味。殺意を感知。撃退開始。」
リズム良く物騒なセリフを呟くクロネ。その目に光は無く、相も変わらぬ冷静っぷり。これは間違いなく、変わってない。
「おいおい……どうなってんだよ、マーリン。聞いてた話と違うんだけど。」
詰め寄る俺から目を逸らすと、マーリンはそそくさと棒立ちのクロネの後ろへと姿を隠れてしまった。
「クロネもこう言ってることじゃし、さっさとケリをつけようでは……って痛いではないか、レイ!!」
俺から逃れたマーリンの頭はレイの拳で挟まれ、締め上げられる。
「駄目に決まってるでしょ。勇者はそんな事しないから。」
「ぐええ、脳筋勇者ぁ……。」
そんな二人に何の関心も示す事なく、クロネは冒険者達の方へ歩みを進めていく。
「現状確認。作戦開始。」
「おい、待てってクロネ!」
慌てて追いかけた俺はクロネの腰を掴むが、クロネはそれでも止まらない。
「やっぱり、実力行使が早いか。」
冒険者の男もまた剣を構える。それにあわせて周りの冒険者もそれぞれの武器を構えていく。
一触即発の危機、それを知らないかの様な脳天気な声が響く。
「お取り込み中、失礼しまーす☆誰か来るよ〜気をつけてね〜☆」
グシオンの声が響いた直後、何かが俺達と冒険者達の間へ着地し、俺達は砂煙に呑まれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます