第34話 空中問答【前編】
遡ること数時間前。俺達は未だに空を漂っていた。マーリンがテレポートと唱えた筈なのに、どうして俺達は空に残ったままなのか。俺が非難の目を向けると、当の本人はやれやれと言ったジェスチャーを見せる。
「『何でテレポートしなかったのか。』とでも言いたそうな顔じゃのう。」
「よく分かってんじゃねえか。」
「うむ、確かにそちらの方が安全ではあるじゃろう。じゃがの。其方は忘れておるかもしれぬが、余のテレポートとレイの『不運』は相性が悪い。どこに飛ばされるか分かったものではないからの。」
クロネに抱えられたまま伸びているレイへと目を向ける。『不運』の影響か、未だに目を覚まさない。
「そっか。」
それにしてもレイの呪いのこと、すっかり忘れてたな。確か、ダンジョンに来たのも移動式の罠を踏んだとか言ってたし、マーリンの言う通りテレポートは危なかったかもしれない。
俺が納得したのを見届けると、マーリンは話を続ける。
「だから、逆にした。」
「逆?」
「余達がテレポートするのではなく、バハムートをテレポートさせたのじゃ。」
「そんな事って出来るのか?」
実際成功してるんだし、愚問なのかもしれないが、そんなテレポートの使い方は見た事が無いから気になってしまう。
「出来る。ま、こんな事出来るのは余、ぐらいじゃろうけど!!」
俺の疑問にマーリンは自慢げに胸を反らす。どうやら聞いてほしかったみたいだ。マーリンは気分を良くしたのか、そのまま饒舌に話しだす。
「テレポートはいわゆる転移系の魔法。モンスター相手にそれが使えるなら、火口やら深海やらに転移させれば簡単にレベルを上げられるじゃろう。」
「出来ない理由がある、と。」
「対象が自分より高魔力、高レベルである場合、魔法に対する抵抗力を持っておる場合、そして、相手が転移を拒否した場合は失敗する。まぁ、例外はあるが。要は、使い所と使用者が限られてくる魔法なのじゃ。」
「それなら、バハムートも転移させられないんじゃないのか?」
バハムートが『いいよ。』なんて言いそうには見えない。ていうか、人間の言葉は喋らないか。
その質問は見越していた、そう言いたげにマーリンは人差し指を左右に動かす。
「先に言った通り、テレポートには例外がある。相手が拒否したとしても、使用者の魔力、レベルが高ければ無理やりにでも転移させられるのじゃ。」
「バハムートよりも魔力とレベルが高い……。」
分かってはいたことでも流石に驚きで声が出ない。信じられない言葉に思わず目を見開いてしまう。
一睨みされただけでも動けなくなるような怪物よりも、目の前の少女の方が強いなんてことがあり得るんだろうか。まだまだ分からない事だらけだな、マーリンのことは。
「あ、もしかして『それならバハムート倒せよ。』とか思っとるのか?」
「それは無理、なんだろ。別にそこは気にしてないけど。それよりも、その見た目の方が気になってる。どうしたんだよ、急に。」
俺の言葉にマーリンは一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、自分の身体を見て合点がいったらしい。
「む? そうか、余、成長してしまっていたか。ふっ、さては余が美少女に成長してドギマギしておるのだな?まったく、愛いやつめ。」
「中身は変わってなさそうで安心したよ。」
「皮肉にしては切れが悪いのぉ。やっぱり照れとるんじゃろ
このこの~。」
「照れてないっつうの。」
空から落ちている、そんな状況でもにこやかに俺の頬を突くマーリン。嬉しそうなのは、俺が彼女の容姿を暗に認めたからだろうか。まぁ、同年代位に成長したマーリンは実際可愛いから仕方ない。
「と、おふざけはここまでにしておいて。余がこの姿になったのは、指輪に封印した魔力と
「願いを叶える玉とか集めてるんじゃないだろうな……」
残念そうに呟くマーリンに思わずツッコミを入れる。しかし、本人にその自覚は無いらしく、きょとんとした顔をされてしまう。
「其方は時々訳の分からぬ事を言うのぉ。ま、詳しい話は地上でしようではないか。」
「そうだな。……そういえば、急降下して無いのもマーリンのお陰なのか?」
本当なら、恐ろしい勢いで地上に叩きつけられている筈だ。それが無いというのはマーリンが手をまわしてくれている以外に思いつくことが無い。
「そうじゃな。風魔法の応用で出来るだけゆっくりと地上に降りられるようにしておる。地上まで、後一時間くらいかの。」
「やっぱり、マーリンのお陰だったんだな。ありがとう。」
「ま、まぁ、余は最強可愛いヴァンパイアじゃし?褒められても嬉しくないが?」
強がる言葉に反して口元は緩みまくっている。俺も人のこと言えないけど、相当チョロいなマーリン。
チョロいマーリン、略してチョロリンに向け、さっきの仕返しの分も含めて俺は反撃に出る。
「じゃあ、そのにやけ顔はどう説明するんだ?」
「むぅ……。中々やるではないか、ツカサ。」
「それはお互い様、だろ。」
「そうじゃな。」
歴戦の友の様に見合い、微笑む俺達。そんな和やかな雰囲気は、俺の頭からもう一つの問題を消し去ってしまった、なんてことは無く。
独特の音楽と共に、俺の指輪に搭載された電波系悪魔がリマインド機能の代わりに思い出させてくれる。
「イチャイチャしてるとこ、邪魔するよ☆グシオンちゃんの計算によれば、もう一つの疑問も今の内に解決しておくが吉だよ、ザッキー。」
「「イチャイチャしてない!!」」
どこからどこまでがイチャイチャかは知らないけど、今のは違うだろ。声揃っちゃったけど、それは仕方ないし。
マーリンも同じ気持ちだったのか、指で横髪をいじりながら、強引に話を先に進める。
「次はクロネのこと、じゃな。」
俺達の視線は、雲を抜けて以降目をつぶったままのクロネへと向けられた。
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