第32話 そして地上へ
「あーあ、完全にぶっ壊されてんな……。」
黒い煙を上げる
「ツカサ、今は足場作りに集中してくれっ。」
「そうなんだけど、こうやって気抜いとかないと、頭が爆発しそうなんだよな。」
頭上から聞こえてくるレイの叱咤に俺は苦笑いで返す。まぁ、レイの気持ちも分からなくはない。今、俺達がいるのは空の上。つまりは、空中を駆け上がっている最中だからだ。
「そうだったのか……それはすまない。」
バハムートの熱線を避ける為に俺達は空中に身を投げた。でも、それだけじゃない。俺達にはバハムートに一泡吹かせるという立派な目的がある。
「気にすんなよ、今は作戦成功の方が大事なんだし。」
そこで、俺が立てたのが『使い捨てマンドラゴラ作戦』。まずレイが俺を抱え、
もちろん、そんなに能力の扱いに俺が慣れてる訳じゃない。グシオンにイメージから生成までの処理を手伝ってもらってやっと何とかなっている。
「はいはい~。グシオンちゃんからも補足だけど、後三十秒で、ザッキーの脳がオーバーワークでえらいことになっちゃうよ~。」
「えっと、グシオン。詳しく教えてくれないか?」
「グシオンちゃんの高速演算能力をザッキーの脳に直で接続してるから、早々に決着させないと、ザッキーの脳が熱で溶けちゃう的な?」
「えぇ!?」
頭が熱を帯びていくのが分かる。これ、無事に終わっても頭がパーになったりしないだろうか。
ぼうっとする俺の目には、こちらに気づいた様子のバハムートが映る。どうやらもう一度熱線を撃つつもりのようだ。
「レ、レイ。それよりも、また来るぞ……!」
「なっ、でも、まだ距離が……!」
距離だけじゃない。俺達は螺旋を描く様に進んでいるが、それでもかなりバハムートに近づいてしまった。このままじゃ、避けられない。
「グラアアアアアア!!!!」
熱線が空を裂き、こちらに迫る。
「レイ、俺を蹴れ!」
俺は覚悟を決め、その言葉を口にする。ただでさえ脳がヤバい状態、出来れば使いたくなかった最終手段。まぁ、後先考えない俺達らしい作戦だけど。
「行くぞ、ツカサ!」
レイは最後のマンドラゴラを踏み、跳躍する。その瞬間、手放された俺はレイにとっておきを託し、真っ逆さまに落ちる。その足を更にレイが踏み、高く上へ跳び上がる。
「成功……か。」
対極に加速した二人の間を熱線が通り過ぎていく。
熱線の圧に煽られ、仰向けになった俺の視界にはバハムートの目の前に立つレイの姿があった。
これだけ見ると、いかにも勇者って構図だな。まぁ、ちょっかい出すだけなんだけど。
「レイ・リュミエール、いつか貴様を倒す者の名だ。覚えておくといい。」
それだけ言うと、レイは剣を前と同じように引き抜き、投げた。
「アアアアア!!」
向けられた敵意に牙を剥くバハムート。しかし、レイの一撃の方が速い。
放り投げた剣の柄に拳を打ち込み、レイが叫ぶ。
「
一条の光となった剣は、バハムートの大きく開けた口に入り、大規模な爆発を起こした。その爆風を受け、レイもまた落ちていく。
これだけの一撃、かすり傷の一つでもついていそうな感じなんだけどな。
「グルアアアアアアア!!!!」
煙の中から現れたのは、無傷のバハムートだった。その目はこちらを見据え、口には既にエネルギーが溜まりつつある。今度こそ、俺達をまとめて一掃するつもりらしい。
「流石にこれはお手上げだな。」
後はどこにいるか分からないクロネとマーリンに任せるしかない。ああ、さっきので追い払えたら良かったんだけどな。甘かったな、考えが。
「回収完了。」
そんな俺の考えを読んだのか、絶賛落下中の俺はクロネに抱き抱えられる。ペストマスクを被った彼女の声は何処か冷たく、事務的だが、緊急事態に色々要求するべきじゃない。
ふと見ると、クロネの右わきにはレイが抱えられている。ぐったりとしているところを見ると、気絶してしまっているらしい。
「俺達を拾ってくれてサンキューな、クロネ。」
「任務完了。
マスクで表情読めないけど、やっぱり冷たくないか。もしかして怒ってるのか、俺とレイが勝手したこと。そういえば、初めて会った時も『お前を殺す』とか言われたし、スイッチが入ると殺伐とするタイプかもしれない。
「もう済んだ。そのまま、雲を抜けよ。」
クロネの呼びかけに答えるマーリンの姿は見えない。どこに居るんだろうか。
「承諾。遂行する。」
機械じみた応答の後、レイと俺を抱えたクロネは空中を地面の様に蹴って駆けていく。その速さはもはや人間のものでは無く、圧倒的な加速でバハムートを突き放していく。
「任務完了。」
その足は雲に飛び込んだ瞬間、止まった。
「よし、間に合ったのう。」
「いや、誰!?」
雲を抜けた先には、マーリンっぽい人がいた。っぽいって言う理由は、その姿が成長しているからだ。幼女だった外見はいつの間にか少女へと姿を変えている。でもまぁ、体格と顔つき以外に変わった様子は無いし、マーリンなんだろうけど。
そのマーリン(仮)はその手を魔法陣にかざし、叫ぶ。
「テレポート!!」
その言葉に思わず目を瞑る。どれくらい経ったのだろうか、感じるのは徐々に落下する感覚と冷たい空気の感触。
嫌な予感がして目を開ける。目の前に広がっているのは先ほどと変わらぬ空。
「テレポートして無いのかよ!!!!!!」
俺の叫びは空しく空に消えていった。
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